第9話 夜明けの誓い
鬼灯_みずきはダチュラの命令に従い、俺たちへの攻撃を淡々と繰り返す。
前に戦った時には一度自我を取り戻していたように見えたが彼女はダチュラに完全に支配され、ただ命令に従い続けるだけの存在だった。
「みずき、君はダチュラの道具じゃない。自分の意志を持てるはずだ。」
何度も訴えかけながら、Jたちと共に戦い続ける。
だがやはり彼女の魔法は圧倒的だった。
火と闇の魔法が交差し、戦場が業火に包まれる。
J達が彼女の気を引いている間に俺は気配を殺し、攻撃をよけながらみずきとの距離を縮めていく。
戦いの中、俺は遂にみずきの間合いに入り、彼女の手を掴む。
その瞬間、俺の存在に気づいた彼女の瞳に、一瞬の困惑とかすかな迷いが浮かぶ。
「みずき、覚えてないのか?昔、俺たちは_」
彼女がはっと何かに気づいたように目を見開き、彼女の魔法が一瞬だけ乱れる。
その隙をつきフクロウが最大の風魔法を発動する。
ダチュラが焦り、叫ぶようにみずきに命令する。
「鬼灯、何やってるんだ。早くそいつらを倒せ。禁断魔法を使うんだ!」
「わたし、わたし…」
みずきが震える手を抑えながら禁断呪文を詠唱し始める。
「みずき、やめろ!!!」
俺は必死に叫ぶ。
「わたしは…」
みずきが呪文の詠唱をやめ、小さく呟く。
「みずき、ごめん!俺が魔法を暴走させてしまったから、だからこんなことにっ…」
みずきの瞳の奥に、かすかな光が揺らめく。
「違う、れいのせいじゃない。」
戦いの中で初めて聞いた「みずきの」言葉。
「わたしは、もう命令に従わない。わたしの意志で戦う。」
その言葉に安心しきってしまった俺は崩れ落ち、その場に座り込む。
そしてみずきへ手を伸ばす。
ところがみずきは俺の手を振り払い、言った。
「来ないで。」
「え…」
みずきに闇魔法で突き飛ばされ、予想外の言動に反応が遅れた俺はJ達がいるところまで飛ばされ、受け身も取れずに地面にたたきつけられた。
「罪を、償わないと…。さよなら、れい。ありがとう。」
そう言い、彼女はふっと小さく微笑んだ。
理解が追い付かず混乱する俺を見つめたまま、彼女は禁断魔法を詠唱した。
死ぬ…!
そうはっきりと悟った。
思わず目を瞑る。
次の瞬間、大きな爆発音が聞こえ、目を開ける。
すると、爆発していたのは、みずきと、ダチュラだった。
「みずきっ!!!」
視界も安定しないまま、俺はひたすら叫ぶ。
力を振り絞り、俺はみずきの方へ走っていく。
そして炎に包まれ、今にも力尽きそうなみずきに回復魔法をかける。
もう少しで魔力切れを起こしそうだと感じながら俺はみずきに回復魔法をかけ続ける。
「もう、いいから…最期に、私の名前を呼んでくれて、ありがとう。またね。」
ぼろぼろになった体で微笑みながら、みずきは俺にそう言い残し、腕の中で静かに息を引き取った。
冷たくなった体を抱え、俺は惨めに泣き叫ぶ。
「またってなんだよっ!みずきっ!なんで、なんで…」
燃え残る炎の匂いが漂う戦場に、俺の嗚咽だけが響く。
その後、失踪した魔法使いが発見され、連続失踪事件は幕を閉じた。
この世界は平和になり、俺たちは国王に褒賞をもらい、特別な称号も与えられた。
それなのにみずきだけがいない。
俺の心には日々ぽっかりと空いた穴だけが残り続けていた。