第8話 交錯する焔
puppetsの内部へ――それは俺たちにとって賭けだった。
鬼灯=みずき。
この事実が正しいのかどうかは、まだ完全には分からない。
だが、彼女を救うためには組織の中枢へと踏み込むしかなかった。
俺たちはpuppetsの施設のひとつ――都市の外れにある廃倉庫に向かった。
表向きは使われていない古い工場。
しかし内部には魔法陣の痕跡があり、puppetsの拠点の一部であることは確実だった。
「警備はそこまで厳しくなさそうね。」
アスカが小声で言う。
「いや――それが罠の可能性もある。」
フクロウが慎重に周囲を警戒する。
俺たちは遮蔽物の影を縫うように移動し、倉庫の裏手から侵入した。
内部は静寂に包まれている。
だが、嫌な感覚がある。
魔力が歪んでいる。
Jが手をかざし、空気を確かめる。
「魔力障壁が張られているな――内側に誰かいる。」
俺は頷く。
「鬼灯――みずきか。」
そのときだった。
炎の球が飛んできた――
反応する暇もない。
視界の端に赤い光が閃いた瞬間、俺の左肩を灼熱が貫いた。
「くっ……!」
身体がぐらつく。
熱と衝撃が一度に襲いかかる。
視線を上げると、そこに――鬼灯がいた。
言葉はない。
ただ静かに、こちらを見下ろしている。
鬼灯の姿は闇の中に浮かび上がっていた。
彼女は何も言わず、ただ炎を生み出し、手のひらで転がしている。
冷酷だった。
迷いなど一切見えない。
「ウィル!」
Jが駆け寄ろうとするが、俺は片手を上げて制止する。
「大丈夫だ…。」
左肩に残る焼けるような痛みを押し殺しながら、俺は鬼灯を見据えた。
炎の剣が生まれる。
次の瞬間、鬼灯は迷いなく間合いを詰めた。
速い――!
俺は剣を引き抜くが、反応がわずかに遅れる。
剣を振るう前に、鬼灯の刃が俺の前へと迫る。
「ウィル!」
アスカが魔法障壁を展開する。
衝撃が走る。
俺は後ろへと飛び退いた。
鬼灯は静かに攻撃を続ける。
彼女は今、躊躇なく戦っている――それとも、躊躇する余地がないのか。
俺は冷静に息を整え、魔力を練る。
「みずき――俺は、お前を助ける。」
だが鬼灯は何も答えない。
ただ、殺すために戦い続ける。
そして、俺たちの戦いが本格的に始まった――。