第6話 封じられた過去
鬼灯との戦いの余韻がまだ体に残る。
炎の匂いが鼻を刺し、廃工場の崩れた壁が夜の闇に沈んでいた。
俺たちはその場に留まり、戦闘の痕跡を調べていた。
アスカが魔法陣を注意深く見つめている。
「この術式…何かを封じるためのものね。」
フクロウもその横で慎重に分析を続ける。
「ただの攻撃用じゃない。これは魔力を制御する術式だ。鬼灯は自分の魔法を押さえ込んでいる…。」
俺はその言葉に息をのむ。
鬼灯が魔法を制御している?
彼女の力は圧倒的だった。
まるで魔力が暴走することを防ぐように、その魔法陣が作用しているように思えた。
魔力の暴走――その言葉が俺の記憶の奥を刺激する。
俺は昔、一度魔力を暴走させたことがある。
その瞬間、記憶がゆっくりと浮かび上がる。
夜の森。
冷たい空気。
幼い俺と、一緒に遊んでいた少女。
『ウィル!大丈夫?!』
幼い少女_みずきが焦った声で叫んでいた。
俺の手は闇の魔力に覆われ、暴走しかけていた。
「逃げろ…俺の魔法が…!」
しかし、みずきは逃げなかった。
ただ俺の手を強く握りしめていた。
「大切な友達だから…!」
その言葉が最後の記憶だった。
次の瞬間、俺の視界は真っ暗になり、全てが途切れた。
俺はその記憶の断片を思い出しながら、目の前の魔法陣を見つめる。
「みずき…お前なのか?」
俺は鬼灯の消えた方向を見ながら呟いた。
Jが俺を見て、眉をひそめる。
「ウィル、どうした?」
俺は小さく頭を振る。
「いや…少し思い出しただけだ。」
だが、その思い出は確信をもたらすものではなかった。
ただ、鬼灯の魔法がかつての俺の暴走に似ていること。
彼女の戦い方が何かを抑え込んでいるように感じること。
それが偶然なのか、それとも必然なのか――今の俺には分からなかった。
「鬼灯の正体を突き止める必要がある。」
フクロウが言う。
俺たちはうなずき、puppetsの内部を探るため、次の作戦を練ることにした。
その夜、俺たちはJの家に戻り、puppetsの情報を整理する。
フクロウは資料を広げながら言った。
「この組織は単なる魔法使い狩りではない。もっと根深い目的がある。」
Jが腕を組みながら続ける。
「鬼灯が完全に命令に従っているとしたら…やつらは何かを利用して彼女を制御している可能性がある。」
俺は資料の中に目を走らせる。
ある名前に目が留まった。
「…みずき。」
その名前が、puppetsの過去の記録に記されていた。
「これは?」
アスカが尋ねる。フクロウが資料を詳しく確認した。
「この記録によると、鬼灯の前身と思われる人物がpuppetsによって『特別強化された魔法使い』として登録されている。」
俺はその言葉に強く反応する。
「特別強化…?」
「組織の実験で能力を強化された可能性がある。つまり、鬼灯は自分の意志でその力を得たわけではなく、puppetsによって調整された存在かもしれない。」
俺は資料を握りしめる。
「つまり、鬼灯=みずきの可能性がある?」
フクロウが冷静にうなずいた。
「この事実を確認するには、puppetsの中枢に近づくしかない。」
Jが立ち上がる。
「なら、動くしかないな。」
俺たちはこの新たな情報を元に、puppetsの内部へと迫る決断を下した。
そして――
みずきを、鬼灯を、救うために。