第5話 燃える疑問と決断
燃え盛る炎の中、俺はただ鬼灯の背中を見つめていた。
「撤退だ。」
ダチュラの冷たい声が響くと、鬼灯は僅かに動き、炎の霧の中へと消えていった。
「待て…!」
俺は反射的に足を踏み出す。
しかし、彼女の姿はすでに見えない。
炎の残滓だけがゆらゆらと空を焦がしていた。
「くそっ…!」
俺は拳を握りしめる。
追いかけるべきだったのか?
だが、あの場ではどうしようもなかった。
Jが警戒しながら周囲を見渡す。
アスカは息を整えながら呟いた。
「やられたわね…。完全に罠だった。」
フクロウは無言で炎の残る床を指でなぞる。
焦げた跡、焼け落ちた壁、残された魔法の痕跡――ここには、鬼灯の力の異常さが証明されていた。
「この魔法陣…見覚えがある。」
フクロウが低く言った。俺たちは彼の言葉に反応し、床の模様をじっと見つめる。
「何か知ってるのか?」
Jが尋ねる。
「古い記録で見たことがある。この魔法陣は封印系の術式に似ている…。」
アスカが驚いたようにフクロウを見る。
「封印…?つまり鬼灯は何かを封じながら戦っているってこと?」
俺はその言葉に息をのんだ。
彼女の圧倒的な魔法の力…それが制御されているとしたら?
もし彼女が封印を解いたら、一体何が起こるのか?
「この魔法陣の意味を解明すれば、鬼灯の本質に近づけるかもしれない。」
フクロウは慎重に分析を続ける。
Jは腕を組み、次の手を考えている。
アスカはまだ床の魔法陣を見つめていた。
しかし俺は――鬼灯の瞳の揺らぎが脳裏に焼き付いていた。
俺が「みずき」と呼んだ時、彼女はわずかに動揺していた。
確かに、一瞬だけ。
彼女は本当にただの処刑人なのか?
puppetsに操られているだけなのか?
それとも―
俺の記憶に眠る「みずき」との関係は何なのか?
俺は目を閉じ、遠い過去を必死に探る。
しかし、何も思い出せなかった。
「ウィル?」
アスカが俺を呼ぶ。
「…いや、なんでもない。」
俺はその場に残る炎の余熱を感じながら、次にどう動くべきかを考える。
「鬼灯は命令に従いながらも、どこか違和感がある。」
俺の言葉にフクロウが頷く。
「確かに、あの戦い方は洗練されすぎている。まるで、感情を排除して魔法を操っているようだった。」
「意志を持たない兵士みたいだったわ。」
アスカの言葉が重く響く。
「なら、puppetsが彼女をそう作り上げたのか?それとも別の理由があるのか?」
アスカが問いかける。
しかし、今の俺たちには答えがなかった。
このまま鬼灯を追い続けるべきか?
それともpuppetsの核心へ迫るべきか?
「決断の時だ。」
フクロウが静かに言った。
俺たちはそれぞれ思考を巡らせる。
答えを導き出さなければならない。
だが、決断を誤れば――すべてが崩れる。
「まずは魔法陣の解析だな。」
Jが冷静に言う。
俺たちは同意し、次の作戦に向けて準備を始めた。
俺は、燃え続ける疑問とともに、鬼灯の影を追い続けることになる。
みずき――お前は、一体何者なんだ?