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戦場で戦う君へ

作者: 暮々多小鳥

暦と季節は日本と同じ設定です。




五月某日 夏


拝啓 戦場で戦う君へ


君は今日も無事でいますか。


送った御守り、喜んでくれて嬉しいです。


手作りのものだけれど、気持ちを込めて作ったから君を守ってくれるといいな。


庭の色とりどりの花が緑一面の葉に変わり始めて、夏の始まりを感じます。


初夏のこの時期といえば、あの綺麗な銀色をしたイラウが美味しい時期だけれど、今年は川が氾濫したから魚が皆逃げてしまってイラウも居ないのだと魚屋のおじさんが言っていました。


来年には少しは獲れるだろうと言っていたけれど、本当か疑わしいです。


もし、本当にイラウが獲れたら、塩焼きにして君と一緒に食べたい。


だから、どうか来年の夏までには帰って来てください。


待ってます。


敬具 待つ事しか出来ない弱い私より







八月某日 夏


拝啓 勇敢なる君へ


君は今日も元気ですか。


君はそんな事ないと書いてくれていたけれど、私は弱い人間ですよ。


戦いが怖いから、君について戦場へ行く事も出来ないし、君が傷ついているかもしれないというのにこうして手紙を書いて待つ事しか出来ません。


私は酷い人だと思います。どうか赦して。


夏も盛りの暑い季節になってしまいましたね。


この頃空気が蒸し暑く、苦しくてお昼寝が出来ません。私の、日頃の楽しみなのに。


君が其方に行ってしまってからは、話し相手が減ってしまったのでよく昼寝をしていました。あれ、この話は前に書いたかな。


兎に角、君が夏の暑さに体調を崩していないと良いのですけれど。


なんだかとても心配なので、良く効く薬を送りますね。


苦いのが苦手な君でも飲めると思います。


でも出来るだけ良く寝て、良く食べて、頑丈で健康な身体を保ってください。


私は少し寝不足です。


敬具 夏が嫌いな私より







十月某日 秋


拝啓 命をかけて戦う君へ


君は今日も生きていますか。


風の噂で、戦いが激化していると聞きました。


君からの返事が無いのも、私はとても心配です。


この手紙を君が見る事なく、いなくなってしまうのではないかと、手が震えて綺麗な文字が書けません。


秋の夕日は美しいながら、何処か寂しさを覚えます。


来年は私の隣に立ってこの寂しさを埋めてください。


君は、私と違って強い人だから、きっと大丈夫だと信じています。


どうか、どうか無事でいてください。


敬具 只々祈りを捧げている私より







十二月某日 冬


拝啓 今も戦っているだろう君へ


手紙の返事が来ません。


君が無事だという証をどうか私にください。


戦いは更に激しさを増し、帰らぬ人となった者も多く出ていると聞きます。


私は怖くて、この頃夜も眠れません。


お願い、早く帰ってきて。


敬具 君を想う私より











某月某日 春


拝啓 今を生きる君へ


君は今日も幸せですか。


君にこんな事を言うのは、自分でも酷だとは思うが、どうか君には幸せでいて欲しい。


今この手紙を書いているこの時は、花々が色鮮やかに咲き乱れる春の日和です。


君は花が好きだから、私が知っている花の知識はその大半が君から聞いたものではあるが、この間見た事のない花が咲いていたため、君も知らない花なのかがすごく気になりました。


もし、君も知らない花だったのなら、是非君に見せてあげたかったです。


君がこの手紙を受け取っている時は、どんな季節だろう。


季節の好き嫌いがはっきりしている君には、君が好きな季節の時にこの手紙を読んで欲しい。


私は君に、笑っていて欲しいから。


そういえば、君と出会ったのは君が嫌いな夏でしたね。


私は暑い中、動き回って汗をかくのが好きだったが、私と対照的にのんびりと過ごすのが好きな君は、夏の張り付く様な空気が苦手でしたね。


だらりと猫のように伸びて、ぐだぐだと文句を言う君が懐かしいです。





あぁ、もう一度君に会いたかった。


君がこの手紙を読んでいるのなら、私はもう君には会えないのでしょう。


ここまで書いて、もし友人が約束を忘れて君にこの手紙を届けていなかったらと考えると悲しいな。


いや、どちらにせよ、この手紙は一生誰にも開封される事なく、将来その存在を思い出した時苦笑いしてこっそり燃やしてしまうような、そんなものになればいいと思う。


でも君に最期の言葉を伝えられない事だけは絶対に嫌だから、やはりこの手紙を書いておこうと思います。


君は私の支えでした。


君からの手紙が、私の明日を生きる活力でした。


時々君から送られてくるものは、実用的なものも含めて全て使わずに、鞄の奥にしまってありました。


ありがとう。


君がいたから、この戦いの中で長い間生きる事が出来ました。


心残りがあるとすれば、君を悲しませてしまうかもしれないということだけ。


私はもう引退してしまったが、君はこれからの長い人生を生きて、生きて、戦っていってほしい。


そして、その人生は悲しみではなく喜びで、幸せで溢れているものであってほしい。


これが私の、ずっと変わらない一番の願い。


あまり長く書くと恥ずかしくなってくるので、このあたりで筆を置こうと思う。


君の人生に幸あらんことを。


敬具 君を想う私より



読んでいただき、ありがとうございました。

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