表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は学校で本を返したい  作者: 雲丹屋
7/21

お役ごめん? なんだかゴメン

 試練の成績は抜群だったはずなのに、俺達は選考から外された。


「もー。勝手に呼びつけて、面倒なことさせて、あげく突然、もういらないから帰れって勝手過ぎません?」

『まあまあ。そう怒るな。俺たちゃ出来レースに巻き込まれただけさ』


 秘術のハウツーをばら撒いた結果、あちこちから出てきたタケノコ勇者の中に、王城の偉いさんの縁故がいれば、そちらを優先するのは当たり前だろう。


『田舎魔女っ子が王都観光ができてお小遣いちょっと貰えたんだからそれでいいじゃん。街の服屋でかわいい服買ってやるよ』

硬貨袋(さいふ)持ってるの私」

『自分じゃ生活必需品以外に現金使う勇気出ないだろ。パフスリーブのワンピースとかエプロンドレスとか赤い飾り紐のついた刺繍入りベストとか』

「うみゅう……勇者様の趣味はそういうのかぁ……」

『ちげーよ! お前がそういうの好きそうだなって思っただけだよ』


 わいわい言いながら王城を出てしばらく行ったところで、路地の横合いから声をかけられた。


「セージ殿」

『あれ? 2号さん。今日は非番?』


 誰かと思えば、タマネギ1号の副官さんだった。目立たない私服姿だが、麦わら色の髪に快晴の夏空みたいな眼の爽やかイケメンなので一目でわかった。王城勤務って採用条件に絶対、顔面審査あるだろう。

 なんかちょっと嬉しそうなマナと違って、2号さんはシリアスな雰囲気だ。いつもわりと呑気に笑顔な人なのに珍しい。


『どしたん?』

「閣下のことでご相談が」


 閣下……タマネギ1号に何かあったらしい。

 そういえばお別れの挨拶もできずに出てきた。あの人の性格なら俺達が追い出されることになった時点で顔ぐらい見に来そうなものなので、音沙汰なしは変だとは思っていたのだが、やはり理由があったようだ。


 ひと気のない裏通りを歩きながら話を聞くと、なんとタマネギ1号の奴は戦闘責任者役を解任されて魔王討伐プロジェクトから外された上に、謹慎処分まで食らっているのだという。


『何やらかしたの?』

「貴殿らを外すという決定に猛抗議したんです」

『おう……』


 その結果、試練の審査基準に、私心による不正ありだのなんだの難癖付けられたそうだ。


「あったんですか? 贔屓」

『アホ。んなわけねーだろ。自分の好き嫌いで判断曲げられるような男だったら、あんなに眉間に縦皺作ってねーよ』

「そうですね。初日にセージ殿を蹴り出していない閣下の公正さと寛大さを思うと頭が下がります」

『2号さん……俺達に助けを求めに来たんじゃないの?』


 爽やかイケメンはヒマワリのように屈託のない笑顔で流した。聞こえないふりでごまかすよりたちが悪いんでやんの。

 これが副官って、タマネギ1号も俺の知らない苦労をしていたんだろうなあ。


「お力添えいただけるのですか?」

『どうせ本人は、俺のことには構うな、とかこーんな顔して言ってたんだろ』

「わあ、勇者様めっちゃ似てます」


 フッ、あの渋イケメンの真似なら任せろ。普段はピンとした姿勢でスマートだけれど、怒りが限度を超えるとちょっとガニ股気味にドスドス歩くことまで把握してるぜ。……あと、奴は結構、自己犠牲で物事を解決しがちで後悔が蓄積する苦労性。


「閣下は、可及的速やかに貴殿らを王都から出立させ、難が及ぶことの無きように計らえと、私に命じました」

『ふーん。そういうことか』


 思ったより状況が悪い。


『謹慎と言いつつ、実は軟禁?』

「事実上の監禁です」

『抵抗したのか。バカだなぁ』

「ああいうお方なので」

『2号さんも大変だね』

「とてもやりがいのある役職を務めさせていただいております」


 笑顔が眩しい。

 くそう。仕方ねぇなあ。


『選定された勇者召喚者は?』

「魔術師の塔のグロールダムド派筆頭の遠縁にあたる男です」


 グロなんとか派というのはでかい方の派閥。魔王討伐プロジェクトの統括責任者の属する派閥より格上だ。見事な縁故人事である。

 名前を聞いて驚いたが、伝説の魔導師と語尾だけちょっと違う名前のシャなんとかくん(俺用通称ゴリ)だった。伝説の魔導師の生まれ変わりという触れ込みでお披露目らしい。

 いや? アイツは下衆い雑魚だろう。一応、例の本に載っていたネームドキャラだったので、王都に来たとき密かにチェックはしていたのだが、とにかく品性に問題のあるゴリ野郎だった。マナに会わせるとろくなことがなさそうな類の男だったので、王城でも丁寧に避けて偶然の出会いすら起こらないように注意していた。

 ライバルとの出会いの伏線? ウチの大事なマナの健康とメンタルの維持管理の重要性の前には、不快な男との接触など一切不要!!


 その下衆い縁故採用くんが、聖なる勇者の召喚者として、式典でお披露目された後に魔王討伐の儀を行うそうな。


『"討伐の儀"なの? 結団式とか壮行会じゃなくて?』

「のはずですが、現状で詳細は不明です」

『時間と場所は?』

「5日後の正午。奥離宮の聖殿です。日にちは前倒しされる可能性もあります」

『急すぎるだろ』

「閣下を拘束したことに対する不満を長くは抑えられないと踏んだのでしょう。今はまだ解任の経緯の詳細が広まっていませんが、身柄の拘束までしたとわかれば黙っていない層がそれなりにいます」


 なるほど。2号さんみたいな人達ね。

 それがわかっていて強行策とは。


『バカなの? ここの上層部』

「だから閣下がご苦労なさっておいでだったのです」


 閣下と呼ばれる身分で中間管理職の悲哀とは泣かせるぜ。

 だが、上がアホだという侮りだけで事態を考えてはマズイだろう。トップがアホな場合、タマネギ1号のようにそれをフォローしようとする奴だけではなく、そのアホを担いで自分の好きなことをやろうとする奴もいる。

 俺が2号さんといくつか今後の立ち回りのための細かい情報交換をしていると、それまで黙って考えていたマナが、どうにも腑に落ちないという顔で首を傾げた。


「勇者様。魔王討伐の儀が本当に魔王を討伐する儀式のことだった場合なんですけど……魔王討伐って、そんなにお手軽にできるものなんですかぁ? 討伐というからには、相手の魔王が居ないとできないのに……」

『ああ。今回そこのところがたぶん、わりとインチキなんだ』

「セージ殿、インチキというのはどういうことですか」


 2号さんとマナは怪訝そうに俺を見つめた。


『えーっと、魔王討伐って、実質、魔王召喚とセット』

「はあっ!?」

「なんですか、それ!? っていうか、どうして勇者様がそんなこと知ってるんですかっ」


 自分が巻き込まれて働かされているプロジェクトのことぐらいは調べるもんだろう?



 §§§



「閣下が貴殿についておっしゃっていたことが誇張ではないとよくわかりました」


 額を抑えて呻く2号さんの肩を俺は慰めの気持ちを込めてポンと叩いた。(フリだけだけど)

 信頼できる上司の言うことは信じるべきだよ副官くん。ところでアイツめなんて言ってました?


 戯言はさておき。

 俺の日々の地道な調査によれば、魔王出現の兆しだか予言だかがあったという話は眉唾だ。

 おそらく発端は召喚術の古書の発見だろう。現物は確認できなかったが、そこには勇者召喚の術式だけではなく、魔王召喚の方法も書かれていたと思われる。

 あるいは、勇者と魔王というの自体が命名だけの問題で、そこに善性も悪もない可能性すらある。


 俺は、この魔王討伐という茶番は、国威高揚策か国民の不満を逸らす娯楽(サーカス)の類ではないかと踏んでいたのだが、今回のタマネギ1号の処遇とそれに伴う王城の動きをみると、残念なことに、もう一つの可能性も高くなってきた。


『面倒くさい感じにヒロイックな展開になってきたな』

「勇者様?」

『とりあえずマナの服がいるな』


 もちろん、2号さんは快く手配してくれた。

ちなみに2号さんの服のセンスは主人公より良い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
事態が動きましたねっ。 魔王出現自体が、出来レースとか……でも、仮にも「魔王」という存在の呼び出し。一歩間違えれば、簡単に破綻するような危うさがある気が。そんな、ヤベー儀式を、国の求心力のために続ける…
まさかの急展開(エクストリーム月面三回転半捻り)! 勇者選定と魔王召喚がワンセットと言う発想は有りませんでした( °꒳° )。しかも時節柄、政局ネタまで絡んで来るとは……お見事です! セージ君、中…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ