表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は学校で本を返したい  作者: 雲丹屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

導きの青い空

 ぎやぁああああああん!


 コミックならそんな書き文字が入りそうな勢いで回転するチェーンソー的な刃が唸る。


 魔王はこちらに気づき、節くれだった大きな手を伸ばしてきた。


 捕まるものか。

 白銀の装甲の背中の一部が両肩より高く跳ね上がる。強化装甲の飛翔機構はロマン! 実はこの翼もどき、内蔵した小さなファンを魔力で回転させて羽のない扇風機と似たような機構を実現しているだけのエアジェット推進システムだが、見栄えはファンタジックだ。跳躍にあわせて、精霊金魚(大)の尻尾みたいな揺らめく青い光の尾のエフェクトがたなびく。

 観客がいなくても見栄えは大切だ。モチベが上がる。


 迫ってくる枯れ枝のような腕を、すり抜けざまに叩き切る。手応えが重い。コイツ、見た目に反して粘度が高い。魔導師の形はしているが、その実体は肉も骨もない最初のグチャっとした粘体のままなのだろう。

 ただの鋭利な直刃なら絡め取られていたかもしれない。あるいは、切り口が綺麗すぎれば、切った直後にくっつきかねない厄介仕様。


 だがこちとらチェーンソーだ。

 くっつく暇も与えずにギャリギャリ削り取ってやる。

 巨体の周囲を飛び回りながら、魔力と根性で鋸歯をぶん回して、片っぱしから切って切って切りまくった。

 相手は魔力キャンセルで攻撃の威力を弱めようとするが、こちらの剣は実体のある複合素材。魔法少女状態のときに作った小片の刃と、アルティメットフォームで変調した後で作った刃が交互に組み合わされた鋸歯が高速で回転しているため、都度、対抗しようと張られる防御結界をコンマ何秒の勢いで破壊しながら切り裂いていく。

 オマケに剣の本体はタマネギ1号謹製の正統派エンチャントソードだ。回転している方の魔力由来の鋸歯のキャンセルばかりに集中すると、芯になっている本体に切り裂かれる。


 こちらの猛攻に、たまりかねたのか、大魔導師のミイラのような顔が歪み口が大きく開く。

 お!? ブレス攻撃来ますか?


 敵の意識(ヘイト)を引きつけながら、私は頭上に対空させていた小星を一斉にドーム天井に突っ込ませた。

 もともと魔王がバカスカ考えなしに打ち上げていた攻撃魔法でボロボロだった天井は、綺麗に円形に並んだ手裏剣(スローイングスター)の一斉射で、真ん中がポッカリと抜けた。


 正面から上に飛んだ私を追って、顔を上げ仰け反った魔王の視野に入ったのは、防ぐ隙のない勢いで落下してくる金色の星が描かれた天井の要石だった。


『あったりーーっ!』


 発動しかけのブレスが塞がれた口腔内で爆散する。


 うひゃー、っぶねー。


 魔王の頭上を飛び越えて背中側に回っていたおかげで、光条をギリギリ躱せたが、今のは危なかった。

 そのまま壁龕の一つに飛び込んで石像の後ろに隠れる。

 要石を失ったドーム天井は、拡散ブレスにトドメを刺されて、バラバラと剥落し、フロア中央の魔王に降り注いだ。

 やったぜ。やっぱり魔法防御が強い敵には、大質量と重力の物理攻撃が効果的だな。



 盛大な落下音が収まったところで、石像の影から覗いてみると、聖堂の真ん中には瓦礫の山ができていた。

 ポッカリ抜けた天井の穴からは明るい日差しが差し込んでいる。そういえばまだ昼中だった。もうもうと埃が舞っているので、いい感じに光のはしごができている。

 終わったかな? と思ったその時……キラキラ光るその埃が、上からの日差し以外の光で輝き始めた。


 瓦礫の隙間から溢れるように上空に向かって差す幾筋もの金色の光は、瓦礫の下にいるものが健在であることを示していた。


 最終形態


 瓦礫の下から現れたのは、黒いネトネトではなく、金色の球形の殻に守られた銀色の立方体だった。


 そうそう。これこれ。

 やっとコイツを引っ張り出せたよ。


 本来なら露出することはもちろん、こんな風に実体化することもないはずの魔王の核。

 それが今、ボロボロになった聖堂の真ん中に浮かんでいた。



 §§§



 実体化するはずがないものが、実体化しているのには訳がある。実は今朝、ここに準備されていた魔王召喚陣に小細工したのだ。


 ゴーレムというのは生成時に頭部に書かれた文字を一文字削られると、「真理(emeth)」が「(meth)」になって滅びるという。召喚陣というのも実に繊細な代物なので、点が多いとか一角欠けてるとか、ちょっとしたことで意味が変わってしまうのだ。「世の中は澄むと濁るで大ちがい、ハケに毛があり、ハゲに毛がなし」というアレである。


 幸い、召喚陣の内容は事前にかなり正確にわかっていたし、前日に下見に来た時点で、確認もしっかりとった。そこでお師匠様と相談して、バレにくい最小限の変更で、魔王に"弱点"を作ることに成功した。


 型抜き試練のとき、切り屑だらけになったマナのローブのフードに入ってしまっていた破片を加工した"点"を用意し、最終チェックが終わったあとで召喚陣の文字の適切な位置にそっと紛れ込ませて置く。リモートで自律行動が取れる不可視化できる"勇者’というインチキ手段があるからこその裏技だ。


 どうせならもっと簡単に魔王を倒せるような弱点を用意したかったが、何人もの魔法使いが関わるプロジェクトのため、あまり大きな修正はできなかった。


 目立たないわずかな変更で仕込めたのは、魔王本体の力を十分に削いだときに、その存在の由来となる核が露出するというものだった。



 §§§



 というわけで、本来であれば目に見える形にはならないはずの存在の核が、すっかり無防備に……でもないか。

 金色の外殻は、初期のゴリ形態の時の鎧に似ていて、かなり硬質な感じで、並の攻撃は通用しなさそうに見えた。

 しかし、その殻は完全に閉じた球形ではなく、全球面を16分割したような小片が、互いにわずかな隙間を開けて並んでいる状態だった。隙間の間隔は広くなったり狭まったりを繰り返しており、ときおり殻全体が回転もするので、内側の構造は見えはするが狙いにくい。


 殻に守られた中央にあるのは、半実体とおぼしき立方体が二重にぶれて交差した構造だった。立方体はそれぞれの面が魔方陣になった複雑なパズルキューブのような作りで、カシャカシャと組み変わりながら、ゆっくり回転している。白く輝くその姿は半透明だが、ときおり2つの立方体がピタリと重なる瞬間だけは銀色の金属光沢のある姿になった。


 なるほど。散々解かされた魔方陣がコイツの核というわけだ。そういえば魔方陣を解いて作ったオーナメントを取り込んで構成されていた。

 よく見ると各魔方陣は自分が作ったものそのものだった。……つまり、全部法則に則って単純作業で作った簡単な構造だ!

 ああやってカシャカシャ組み変わっているが、全部の面が同じなので、短い周期で"正解"の状態に戻っている。その瞬間に銀になっているらしい。


 仕組みと法則性さえわかってしまえば、後はタイミングを見計らってぶっ潰せば良いだけの話だ。


 私は鋸歯刃剣(チェーンソード)を解除して、宝剣を元の姿に戻した。

 瓦礫だらけのフロアに踏み出して、剣を構える。ヒーローごっこではない、タマネギ1号に教えられた正当な剣術の構えだ。

 心を鎮めて師の教えを思い出す。

 剣に意識をのせて、己と剣を一体化させる。


 金の外殻が開き、銀色の輝きが青空を映す……今だ!


 一歩踏み込むと同時に突き出した剣先がまっすぐ伸びて、銀色の立方体を貫いた。


『やああああっ』


 そのまま一気に魔力をぶっ放すと剣の刀身がバカみたいな幅になって、魔王の核は真っ二つになった。



 こうして勇者は魔王を倒した。

タマネギ1号「そんな剣技は教えていない」


真っ向幹竹割りにするはずだったのに、おかしいなぁ……。


オマケの解説;

型抜きのときのエッジと同じ要領で刃を増設しても、基本の刀身の延長ならエンチャント対象として効果を発揮してくれるタマネギ1号の術式は大変優秀です。魔力が三人分の複合体になるので対策されない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ひらひら魔法少女から、変身、蒸着、が空耳で聞こえてきそうな戦闘形態変化、を経ての、なんで武器がチェーンソーっっっ、とか思ってましたが。 無事、なんとかなって良かったです。最後はのこぎりじゃなくて、ちゃ…
これはマナちゃんが嫌がるわけです。 安藤成分濃ゆ過ぎる。 しかし、信頼していて大切でお互いに預けられる存在、だけどそれはどうかと思うとツッコミを入れたくなる、でもやっぱり協力してことにあたるというの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ