手っ取り早く済ませたいのは山々なれど
そういえばいたよ、シャなんとかって複雑な名前の伝説の大魔導師。本にも載ってた。ゴリの本名と名前が似てる人。なんで今そんな人が出てくるんだ? ホントに本人?
『(わかんないけど、伝承のイメージはあんな感じ)』
なるほど。さてはゴリを取り込んだ時に奴の"伝説の魔導師の生まれ変わり"という妄想概念の影響を受けたな。本物の魔導師の死霊が呼び出されているのかどうかは疑わしいが、魔法属性を強化する方向でタイプチェンジしてきたようだ。
『(ちょっと大きすぎる気はする)』
『LLサイズの意味の"大"魔導師になってるな』
大魔導師シャーベットだかなんだかっぽい姿になった魔王は普通の人間の倍以上の大きさだった。
「【□□□□】」
奴が聞き取りにくい音声で力ある言葉を唱えると、その巨体の周囲で魔力が渦を巻き始める。
これはまずい。
飛んできた無数の鋭利な礫をアクロバティックな動きで回避する。本来のマナや俺の生身ではできない動きだが、知覚や運動能力が強化された今の状態なら、ギリギリ対応できる。
うおっと、連続発動で次は追尾機能付き!? ちょっとそれは回避運動が板野サーカスすぎませんか?
『(勇者様〜、ぐるぐるしすぎて目が回って気持ち悪い〜)』
いや、そこ。キワキワで回避している最中にそんな低レベルの泣き言を言われても。二心同体の身なんだから、頑張ってくれ……って、うぉあっとっとぉ。
集中力が落ちたせいで避け損ねた礫がスカートの端を裂く。
ぬああっ、なんてことを! 買ったばかりなのにっ。
怒りを込めて、避けきれないいくつかを剣で弾き返す。逸れた礫は観客席を粉砕した。
お師匠様が魔導師の周囲に防御障壁を貼ろうとしてくれたが、一瞬で割られる。くそう。敵の対魔法性能が高くなってるじゃないか。
厄介なことに敵の魔力量はマナと同じく、ちょっとのことではガス欠知らずらしい。あきれた量の連続攻撃が周囲の調度を粉々にしていく。単純な射線なので避けやすいが、聖殿内の被害は甚大だ。
武官の皆さん避けて〜。と思ったら、もうほぼ全員退避していた。ただしお師匠様はちゃんと居てくれて、ちっちゃい防殻を都度適切に貼って、流れ弾が柱を粉砕するのを防いでくれている。タマネギ1号はそんなお師匠様本人を守る位置で剣を構えてこちらを見ている。……うう、ありがたいけどバカな失敗するとタマネギ1号に切られそう。
『迎撃する』
壊れかけの長椅子を蹴り上げて、間近に迫った一群を叩き落とす。相手からの視線が切れたタイミングで、素早く手近な柱を駆け上がり、礫の連続攻撃が来ない一瞬を稼ぐ。
敵の反応が半拍遅れた瞬間を狙って、跳ね上がるように柱を蹴って空中に身を踊らせると同時に身体を捻り、両手を魔導師に向かって突き出す。今だ!
『【救世星団】』
広げた指の一本一本に複数の小リングを生み出し連射する。
硬貨以下の直径にしかならない小リングは煌めきながら空中の礫を迎撃し、余りは敵本体に降り注いだ。
『やあっ』
気合いで敵本体に突っ込ませた小リング群を一気に爆破する。
効いてる気がしない。
さすが疑似でも大魔導師。今のこちらの魔力パターンはもう対策済みってか。「私に同じ攻撃は2度は通用しない」とか言って高笑いするタイプだよ。やだなぁ。
爆風の余波を、空中でうまく姿勢を変えて逃がしながら、吊り灯籠に乗っかって、この先の算段をつける。
現状の問題点は3つ。
1つ目、こちらの防御性能が低い。
面で飽和攻撃をされると防ぎきれない。
2つ目、マナと師匠の魔力パターンは対応されてしまって攻撃が効きにくい。
3つ目、迂闊な攻撃は真似される。
ついでにお師匠様の防御魔法も真似され始めたら詰む。
マナの魔力量は人並み外れているが、召喚魔王のそれがどの程度なのかは測り難い。持久戦は避けるべきだろう。
となれば……。
ここは強化フォームの出番か。
『(また何か変なことを言い出した)』
説明しよう!
強化フォームとは、正義の味方がシリーズ中盤で用い始めるパワーアップした新形態である。部品点数が増えたり、オプションが豊富だったりと、盛りが多めになることがままある。番組スポンサーの販促事情などを汲んでの習慣だからなのだろう。
シンプルな初期フォームは至高だが、究極の強化フォームとしての最終フォームも捨てがたい。
『(勇者様がいつものわけのわからない高速思考に入っちゃったよ……おーい、戻ってきて〜)』
『よし、アルティメットフォームで行こう』
『("よし"、じゃない)』
『え? 嫌なのか?』
『(撃ったほうが早い)』
乗った吊り灯籠が一往復揺れるよりも早く、そんなやり取りを俺と高速で交わしたマナは、眼下の大魔導師に向かって両手を構えた。
『待て、普通の攻撃魔法は……』
『(普通じゃなければいいんでしょ)』
止める隙もあらばこそ。
マナは大出力の攻撃魔法を大魔導師目掛けてぶっ放した。
あ、コレ、召喚されたとき、初手で食らいそうになったやつ……




