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第八話 黒色の覚悟

 吸血種はその力を増すごとにその血に宿る呪いは深く、濃くなっていく。

 その呪いの強さによって吸血種は八段階の階梯を定められる。

 下から『騎士(ナイト)』 『男爵(バロン)』『子爵(ヴァイカウント)』『伯爵(カウント)』、『候爵(マークウィス)』『公爵(デューク)』『大公(アークデューク)』そして最高位たる『魔王(オーバーロード)』。

 最上位の『魔王』は『大公』とは次元の違う力を持ち、呼吸する天変地異だなんて渾名される存在だ。

 とは言え『大公』も人間とはケタ違いの怪物には違いない。

 曰く、一体で戦場に現れ砂漠を両軍の血で染めた。

 曰く、現代に生き残った最後の人狼の心臓を穿いた。

 曰く、妖精国に生きる大精霊の魂を砕いた。

 伝説や神話に等しい生命。

 その階梯に至った者の中には幻象結界を修得した者も存在する。

 幻象結果、幻想具現結界や心像領域だとか呼ばれる魔術の最奥。

 その効果とは現実世界を書き変え己の心象世界で世界を塗り潰す力。

 この結界に囚われるということは、文字通り相手の体内に囚われることに等しい。


 その禁術こそ、今被露された宮殿の異能に違いなかった。


「オオオオォォォ・・・・・・聴くがいい聴衆よ。これこそ我が百年の時をかけた天上の調べの極致。アア・・・アア・・・!素晴らしい・・・・美しい・・・心が震える・・・ 脳が震える・・・魂が、震えるッ!!ああ!これが芸術だ!これが世界だ!美しい美しい美しイイイイイイイイィィィィィィ!!私は愛しい!愛する!この天上の調べを私は心の底から!魂の奥底から!忘執的に偏執的に狂気的に熱狂的に猟奇的に愛するのダアアアアアアァァァァァ!!!オオオオ・・・!オオオオオオオオォォォォォォォォォオオオ・・・!!!」


 まさしく狂気。こんなにも己の奏でる音に心酔する男を狂気と言わずして何と言うか。

 しかし、彼の奏でる音は相応の美しさを有している。

 芸術に順位を付けるという極めて冒涜的な所業が許されるのなら、その神奏は世界でも五指に入るだろう。


「・・・一つ、聞かせろ」


 その狂気に押し潰れそうな心を奮わせ、オレは男を睨む。

 覚悟を決める為に。


「オレの家族を殺したのは、お前か?」


 オレの復讐心を燃やす為に。

 エリックはそれを聞き狂気的に笑う。


「そうだと言ったら?」


 その言葉で目が覚めた。


「―――――――――殺す」


 その言葉と共に、虚空から一振りの大型単発拳銃が現れた。



―――――――――――――――――――――――――――――――



 数刻前、オレが教会を出る前。


「これを持っていけ」


 黒錠がそう言って渡してきたのは一つの黒いコートだった。


「これは?」


「何の装備もなく戦うわけ にもいくまい。私が作った魔術礼装だ。高位の防護呪符で裏打ちしているから、物理的 にも魔術的にも相当な防御力を持っている」


 着てみるとサイズはピッタリで、軽くて薄いのに確かな防御力を感じる。

 込められた魔力も相当な量で、少なくとも普通の銃器とかでは貫くことはできないとわかる。


「まあそれはオマケのような物だ。本命はこれだ」


 そう言ってわたされた物は薄くて軽いコートとは異なる、小さいながらもズシリと重い、殺しの為の無骨な武器。


「 ・・・拳銃?」


「トンプソン・コンテンダー。私が昔使っていた品だ」


 よく見れば銃身には小さい傷が無数に刻まれているが、古いというイメージはなく、どちらかと言うと歴戦の戦士のような圧を発している。


「それは私が十年近く改造を施した魔術礼装だ。それも、魔術師らしい研究のための品ではなく、純粋に人を殺すためのな」


 そう言われると確かに込められた魔力だけでなく、その銃の重さには 何百人もの命を奪ったであろう死の重さが含まれているように感じられた。


「でも、なんでこんな銃なんだ?これ単発式だし、もっと使いやすい銃はいくらでもあるだろ」


 そう。この銃は今ではほとんど見ない単発式、つまり銃弾が一発しか装填できないのだ。

 そもそもこれは実戦のためではなく狩猟のために開発されたモデルだったと記憶している。


「六発あれば、人は六回勝負できると錯覚する。それでは覚悟も鈍るだろう」


「覚悟?」


「人を殺す覚悟だ」


 その言葉に呼応するように、部屋の温度が数度も下がったように感じられた。

 黒錠はその漆黒の瞳でこちらを見つめる。

 その目はあまりにも、 冷たい。

 まるでこの世の虚無を映したかのような感情のない、否感情の失った瞳。


「銃はただ人を殺す為に創られた、無骨な鉄の塊だ。人を殺す覚悟を決めるなら、そこらの棒切れよりもはるかにいい」


 なるほど、それは道理だろう。

 事実この銃が手に収められている重さは、血剣で『屍者』を殺した時よりも重い。


「夜劫惣麻、覚悟しろ。その銃を構える時は、目の前にいる者を殺す覚悟を決めた時だ」

幻象結界:『冥府に響く(ラ・ミュジック・ドゥ)我が葬送の・ジュエ・オン・アン・エ神奏(ンフェール)

術者の心象風景をカタチにし、現実に侵食させて形成する結界。エリックの結界は宮殿のような巨大なオペラハウス。

効果は自身の異能、神奏楽団の効果の増大と、エリックが作曲した曲名『神曲』の演奏が解放される。『神曲』を演奏する場合は他の全曲を奏でた時の効果が発揮される。

この結果内でのみ光のあるフィールドでは発動できないという欠点を免除される。

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