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第五話 屍者どもの夜

 それから七日が経った。

 ブランはその場でオレの提案を承諾したのだが、きっぱりと今のままでは足手まといだと言われてしまった。

 なので最低限自分の身を守れ る程度の実力が身に着けてからだと言われ、その習得に七日もかかってしまったといことだ。

 最初は半分独学みたいな物だったのだが、途中から黒錠が妙に丁寧かつ絶望的に厳しく指導してくれたおかけで想定よりも早く実力が身に付いた。

 だが、もう二度と黒錠から指導は受けまいと心に誓った。

 オレが修行する様をブランも見ていたのだが、彼女ははわずかに苦い顔を浮かべていた。

 それでも約束は違えない性格のようで、深夜の街の見回りにオレををつれていってくれた。


「ここ数日の間探索を続けているけど、貴方を見つけれた以外に成果はゼロ。だから正直頼みの綱は貴方だけなのよ」


 ・・・オレだけ?


「吸血種はある程度の範囲内にいる同族を感知する能力を持ってるの。例え相手が高い隠蔽能力を持っていても、自身の縄張りの中に別の吸血種がいれば」


「何らかの反応を示すかもしれない。つまりオレを擬似餌に使うってわけか」


「・・・怒った?」


「別に?それしか方法がないのも事実だし、それで釣れたら大漁ってもんだ。海老で鯛を釣るってね」


 そうだ。それで家族の仇を見つけれるのならこの命はどれだけ死の淵に晒されようとも構わない。

 内心はまるで怪物の如く歪んだ笑みを浮かべるが、外見は努めて平静を保つ。

 二人は深夜の町をアテもなく歩く。

 ブランは相変わらずの修道服で街中では非常に目立つのだが、視線避けの秘蹟を使っているそうで人々から見られることはない。

 と、三十分ほど歩いたところでそれは起こった。

 首筋に突如として流れる電流のような感覚。

 だが直感、或いは自覚なき入力された知識がそれが何かを伝えてくる。


  「・・・ブラン」


「何?」


「ビンゴだ」


 その言葉に彼女はわずかに目を見開くが、すぐ に平静に戻り自身の五感に意識を集中する。


「こっち!」


 彼女は自身の集中を維持したまま走り出し、 人気のない裏路地へと入っていく。


 そこに、それは、いた。


 一見してただの 一般人だが、よく見れば誰だって気付くだろう。

 死体めいた青白い肌。全身から浮き出た血管。ギョロリと見開かれ別々の方を向く眼球。

 その動きに人間的な意思は感じられない。

 怪物めいた意思なき動く死体共。

 それらが裏路地を満たしていた。


『屍者(グール)』ね・・・」


 『屍者』。

 曰く、それは吸血種の最大の特徴とも言える不死の理をも有さない、動くだけの意思なき死体。

 血を与えた親吸血種の命令を聞くだけの肉人形。

 ブランはその姿を見てすぐさま戦闘体制を取る。

 懐から取り出された十字の(ハンドル)に光が灯り、神聖力によって刃を編んだ。

 オレは鋭い爪を自身の手の平に突き立てると、そこから数満の血液がこぼれ落ちる。

 血が地に堕ちるその瞬間、数滴しかなかった血は放射状に拡散、収束を繰り返して一瞬にして真紅の長剣へと姿を変えた。

  これこそが七日の修行によって獲得した異能『無形の装血(ロスト・オーダー)』 である。

 血液を武装化させるシンプルかつ汎用性の高い異能だ、。

 オレとブランは互いに剣を構え、迫り来る屍者共に力を振るった。


  真紅の刃を振るうと屍者共のもろい身体が軽く斬り裂かれる。

  顔や胸を両断された者は動く死体から動かぬ死体に転職(シジョブ チェンジ)し、バタリバタリと倒れ灰になる。

 オレの身体能力は身体強化の異能によって人の限界を超えている。

 ただの人間と、或いはただの人間より脆いそれらを両断することは容易い。

  三十体ほど倒した時、裏路地を満たしていた「屍者』は全て灰となっていなくなっているイ。

 そうして初めての戦闘は終わった。


「おつかれさま。初めての戦闘とは思えなかったわ」


 最後の一体にとどめを刺したブランはスポーツドリンクを手渡してくる。

 まあ吸血種なので水分補給に大した意味はなく、スポーツドリンクを飲んだ後に輪血パックを取り出してゼリー飲料のようにジュルリと一息に飲む。

 生よりも味は悪いが身体に多少の活力が入ってきて体力と魔力が回復する。

 この輪血パックは黒錠にもらった物で、一瞬違法かと疑ったが医療用の正規の品だそうだ。

 正直に言えばブランから直接血を吸いたいところではあるのだが、流石にそれは自重した。


  「ありがとう。黒錠にみっちりしごかれたおかげかな」


「そうかもね。 後は黒錠に任せてあるから、私達は先に戻りましょう」


 こうしてオレの最初の夜は終わった。

 わずかに手に残る命を殺した感覚を土産にし、 オレはそれがいつか仇を殺す感覚となることを思い浮かべて心の中で笑った。

屍者(グール)

吸血種の中でもぶっちぎりに弱い、動く死体。

魔術世界では判定てきには吸血種ですらない。

吸血種に血を与えられた、適性のない人間がなる姿で数時間から数分で死体に戻り、そこから位階が上がることもまずない。

意思や思考能力はなく、親吸血種の命令に従わないとなにもできない。

ある程度器用な吸血種なら全く適正のない人間も屍者に変えられる。

とはいえ戦力になるかは疑問。



異能

個人で完結された物理法則改変手段。魔術が学問。権能が能力と称されるのに対し、異能は技術と称される。魔力を使って物理法則を改変して様々な効果をもたらす。

権能と違ってある程度発達した星辰体があれば使える為、特に吸血種が多用する。

魔術との違いは、魔術は集合知に刻まれた認識や概念を利用するが、異能は個人で完結しているということ。故に魔術とは違い『真理』に至る手段にはなりえない。

身体強化や熱エネルギーの生成のような汎用的な能力を『汎用効果』。

個人(もしくは特定の集団)にしか発現しない、もしくは個人(もしくは特定の集団)にしか到達できない練度に達している能力を『固有効果』と呼ぶ。

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