第二九話 「バイバイ! ララバイ! フランケン!」
第29話 「バイバイ! ララバイ! フランケン!」
―――眩い七色のスポットライトが二人とバンドマンを包む。一年前より格段に進歩したダンスと歌が観客を魅了し、それに気分を良くした二人のコンビネーションは完全に息のあった理想的な姿へと変貌していた。二人にはもはや5000人という観客に恐れることはなく、着々とプログラムを進めていく。
タイムリミットは近づいていく・・・、上機嫌なウルルン、まだ踊り足りないとばかりに挑発を続けるウルルン、曲が終わると同時にエリは息をついた、ゆっくりと長く、会場の空気を一瞬止めるように、そこに意識が集中するように・・・、観客は終わりをしらない、でもプログラムの中にはすべてがもう決められていた、今日が始まったその時から。
そして観客を見回したのち、エリは口を開いた。
「今日はみんなに大切なお知らせがあるんや、聞いてくれるかな」
ウルルンは手筈通り口を噤んどる、二人で打ち合わせしたとおりや、うちは恐れずに口を開いた。
「うち・・・、この度―――“就職先”がきまりました」
はっ?! うちは衝撃的な光景を目の当たりにした、観客みんなが口を開けて停止しとる、なんちゅう光景やろう、まるでワンピースのモボキャラみたいやな、こんな大勢の人間が応答することもできへんなんて、と、そんなこと考えてる場合やあらへん・・・、説明・・・、せなあかんよなやっぱり・・・。
「うちな・・・、ホンマは今年まで大学生やってん・・・、信じてもらえるかわからへんけど、うちは今年で卒業して就職する、だからみんなと会えるのは今日で最後なんや」
ザワザワと会場がざわつく、うちをその声を目を閉じて確かめるように聞く、もうこんな風にスポットライトを浴びるのも、みんな視線を感じるのも最後やから、二年間で強くなったうちはどんな涙でも受け止める覚悟でここにおる、だから、うちは最後までこのライブをやりきる、それがウルルンとした約束やから。
「今日でウルルンとのコンビも滅亡や、みんなありがとうやで、今日までこんなうちを応援してくれて、うちはどこにおってもみんなのこと、二年間やってきたこと、忘れへんから、だから・・・・・・うちを許してくれるか??」
「許してやるよな?!?! もちろん許してやるよな?!!!」
隣のウルルンが大声を上げて観客に訴える、その声は悲痛に満ちたものやった。
そうやんな・・・、やっぱり一番寂しいんは・・・、ウルルンやんな、うちは必死に涙を抑えた。
「あたしは許すよ!! さっきまで平気やって思ってたけど、でも今になってすげぇ実感沸いてきて心はもの凄い痛んでるけどな!! でもあたしらはずっと一緒に続けていけるわけじゃねぇ!! あたしがエリの足を引っ張るようなことはできねぇから! だから、あたしは許すよ・・・・・・」
「ウルルンは・・・、ウルルンはどうするんや・・・・・・、みんな気になっとるやろ、めでたいことがあるんやろ、うちはもう言うたから、次はウルルンの番やで」
うちが“めでたいこと”と言葉を引っ張っても観客は呆然としていて、すすり泣く声まで聞こえた、でもパーソナリティのうちらは言葉を止めることはできへん、うちはウルルンの言葉を待った。
「ああああああああああぁあああっっぁぁ・・・、あたしらしくねぇ、そうだ、聞いてくれ、報告だ・・・、ドラマの出演が決まったよ、もう・・・、撮影は始まってる、内容については後日正式な発表があるはずだ、あたしは続けていく、この仕事をずっと続けていく、それがあたしからの報告だ」
「頑張ってや、うちの分も・・・、ウルルンは才能があるんやから、それは会場のみんながよくわかっとると思う、だからうちからこれ以上言えへんよ。
それじゃあうちらからの話しも終わったことやし、最後の曲にいこか!」
うちの元気を振り絞った声と一緒に会場がざわつく、それでもうちらは止まることは知らへん。
「精一杯歌うから最後まで聞いていってくれ! 曲は“サイハテの異分子”」
そして、ピアノの旋律が流れ始めると同時にざわついていた会場は静まりかえった。
ドレスを着て 歩き始めた うちらは大切な何かを探してた
空を眺めて ご飯を食べて 電車に乗って 踊っていたとしても
君の気持ちは一つも見えなくて それでも 傍にいたかった
いつしかあたしは 予感していた
君が遠ざかってくことを それを悲しいとは感じられなかった
どうしてだろう・・・ 離れた途端に・・・ 知らないくらいの悲しみがくるの
それは・・・ 真っ直ぐに向けられた 君からの別れの言葉
何が足りなくて別れてしまうの? 何がそんなに私を不満でいるの?
私には、何一つ、わかるための言葉は与えられずに・・・
君は離れてしまうの・・・
あたしの言葉は無邪気すぎて 意味のわからない言葉だった
自分が自分で無くなるほどに 恨むしかないほど傷跡深く あたしの心は枯れていくの
なんでも知ってるふりで話して 一つずつそれに気付かれて
君は一つずつ嘘に気付いて 静かに離れていくの
二人は そうして どうしようなく 別れの時を刻んでいった
君の好きなあの人と 私は何が違うの?
気付いているのに問いかけて 思い出の分を数えて
そして それが何の価値のないほどに 君はあの人と・・・ 思い出を・・・重ねてた
サイハテにあるものを行き着いて それが幸せになると信じた
どうか この願いを受け取ってよ 一人分の幸せでいいからっ
いくらでも 出会う日はあるのに ひとすらに一つを守るのに必死だった
それが大切だとわかるけど それでも 私は一つずつ進むんだ
だって・・・、今見える沢山の光は・・・、眩い光は生きている証だから・・・
私も光り輝く一つになって また出会うよ・・・大切な絆に・・・
“演奏が終わり、うちらは後ろへと下がった”
「ホンマに最後みたいやね」
「あぁ、最後にふさわしいもったいないステージだな」
「発言が矛盾しとるやん・・・」
拍手が次第に手拍子に変わり、観客は一人一人声を張らしてうちらを呼ぶ。何度聞いて鳥肌が立ってしまう。ずっとこの空間に居座りたいような余韻が胸を包む。
「やっぱりいかねぇとダメか・・・」
「時間は止まってはくれへんね」
「最後に綿棒か・・・」
「でも、もう歌なんて歌いたくないって思わしてくれる曲やな」
「そんな曲が代表曲として一生付いてまわるとしたら嫌だな」
「泣かんでええだけいいやろ」
「そういうもんかな・・・」
「“うちららしくて”ええやないか」
「それもそうか・・・」
そしてカーテンが上がり、凄まじいドラムフィルインと共に最後の一曲が始まった。
「「め~んぼぉ~う!!!」」
それから火花が散るほどに恥ずかしい最後の5分間が休み無く続いた。
綿棒ラバーの歌詞の作ろうかとも思いましたが尺が長くなりそうなのでやめました(笑
サイハテの異分子はエリが歌詞を付けたという設定です、それなりに感情の入った歌詞になっているんではないでしょうか。
明日でいよいよ最終話です、このまま追って来れてる人がいるかわかりませんが、あまり読む分には時間はかからなかったんじゃないかと思います。
それでは最終話、お楽しみに!