第二四話 「もう一度君のとなりで ※ただし百合ではなく」
間に切るところもなく今までで一番長い話になりました。
インタビューという趣旨からは離れていますが書いていて楽しかったです。こういう回があった方が印象的でいいんではないでしょうか。
第24話 「もう一度君のとなりで(※百合ではなく)」
白いワンピースと足先までを引き寄せるような長いスカートを履いて、少し目を伏せて街を歩く。うちの事に気付く人は誰もおらん。黒のヒールを出来るだけ音を立てないように歩くけど、それは何の束縛にもならず逸る足取りは焦る気持ちを体現させるように心臓の鼓動と一緒に表す。
うちはウルルンに会いにその場所へとやってきた。ウルルンは部屋の反対側で手を膝においてじっと座って、ずっとそこで待っていたようにうちの事を見た。
「うわぁぁ、うち、こんな所初めてきたわ、何か不思議やね。ホンマに全面ガラス張りやねんな、宝くじ売り場か質屋の受付かどっかの貸し付け業者の受付みたいやね」
「金借りたことあんのかよ」
「あらへんよ、でもうちの親父がカード持っとんのみて、何かその面接みたいなんイメージしとった。それにうち運試しに宝くじ買ったことあんねんやで、こう発表の日にやな、新聞をじぃーと見て照らし合わせるんや、一個も当たったことないねんけどな、当たったらどうしようとか考えるんが楽しいんや、そういうことってあるやろ?」
「何も知らなかったけど、結構家庭荒れてんだな」
「何を言うとんや、そうでもなきゃ東京来て一人暮らしなんてしとらんよ、家族と一緒に暮らしとるんが一番楽で一番幸せなことなんやで」
「そっかそっか・・・、あたし勝手に勘違いしてやがったよ、バカだな、無意識にエリは夢見る少女だと思ってたよ」
「あながち間違いやないんやろうけどね、夢を与える仕事しとるわけやし。でも本質は違うんやな、そんなん知らんでも、疑問に思わんでもうちはええんやけど、うちでも時々寂しさに麻痺することはあるんやね、てかウルルンのノーメイク姿見るん初めてやでうち」
「外された仮面を見てもちっとも驚かねぇんだな」
「うちも女やからな、気持ちは分かるんよ」
「あたしは三回目だからな」
「何や? 何のことや?」
「“ここに来るのがな”」
―――会話が止まる、ウルルンもいろんなこと考えて、この数日で相当まいってるってことが痛いくらいに分かった。うちは言葉を返せられへんかった。
「心配すんな、反省して罰金さえ払えばここを出られるんだ、今だけだっての」
「そうやない・・・、うちは・・・・・・っっ」
「何泣いてんだ、エリらしくもない、笑い飛ばしに来てくれたんじゃねぇのかよ」
「泣いてなんてへんわっ、そんな場合やあらへんのやっ! うちはっ!!」
「知らなくてもいいことだってある、あたしは自分で自分の犯した罪は背負っていくんだよ」
―――言葉にしたいことは沢山あるのに、一つとしてそれは自分の言葉にできることやなかった。うちにウルルンのことを分かってあげられる事はないんや、うちは所詮正義感だけでここにおるだけなんや、だから一つも理解してあげられへんのや。
「大丈夫だっての、余計な生き方だって分かってる、言葉にしなくてもエリの気持ちは分かるよ」
「ホンマうちアホみたいやないか、ごめんやで、ホンマごめんやでっ、ヘンに気を遣わせてもうて」
「いいっての、あたしは早くエリに会いたくてたまらなかったんだからな」
「ホンマかいな・・・」
「だってあたしの仲間は、またやらかしたのかって思ってるだろうからな。いちいち泣きながら会いに来たりしねぇんだよ」
「うちの方が異端なんかいな・・・、常識なんて信用ならんな」
「表裏一体になってるようなもんだ、どっちがどっちって話しじゃねぇよ」
「うちはこれでも、ウルルンに伝えにきたんやで」
「百合の花を持ってか」
「違うわっ!! これは知り合いの花屋に頼んだら勝手に用意しよったんやっ!!!」
「泣きながら言われても・・・」
「ちゃんと聞くんやで、時間もあるんやから・・・」
「わかってる、エリ相手だと安心しちまってな、すまねぇな」
「うちも田村さんも、みんなも待っとるんやで、ウルルンと撮ったラジオな、放送できへんのやけどな、手紙やハガキがいっぱい届きよんねん、ホンマ読み切れんぐらい・・・。
だからな、沢山これから大変なことあるやろうけどな、うちはウルルンと仕事続けていきたいんや、もう自分のためだけやない、みんなのためにも、うちはウルルンがおらんと何も喋れんようなダメなアイドルやから、だからこれからも一緒におりたいんや・・・・・・」
―――ウルルンは頷きながらうちの話しを聞いとった。そんでうちの話しを聞くと一言“あたしも同じ気持ちだ”と答えた。ノーメイクのウルルンは痛いくらい表情から感情が読み取れて、それはそれで悪くないかなって思ってしもうた。うちは見舞い品として適当に選んだ鉛筆削りと酸素ボンベと、それからカカオ85%のくそ苦いチョコレートとうちの三年前から使っとるファンデーションを百合の花に添えてガラスの壁越しに取り押さえられないように置いて足早にその場を去った。
「どういうことだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
ドアの向こうからウルルンの声が聞こえた気がした、うちは安心して家路に着いた。
―――ファンの方のためにも早く戻ってこれるといいですね。
「そうやね、うちはファンの方と一緒にウルルンが戻ってくるのを待ちたいと思います(ちなみに話しはプライベートな部分は外して話した)」
―――ありがとうございました、騒動の最中、今日はエリさんに来ていただきました、ありがとうございます。
「田村さんもお酒ばっかり飲んでないで、たまには奥さんに奉仕してあげてください。
―――あっ、はい・・・。(なぜ昨日家に帰らなかったのがバレている・・・)
―2ヶ月後―
「今回も聴いてくださってありがとうございます。OP曲はうちとウルルンで綿棒ラバーでした。めんぼう! めんぼう! 言ってくださったでしょうか。それでは今回もインタネットラジオ“なしくずし”スタートです! そして、ですね・・・、ここで聴いていただいている皆さんに大切なお知らせがあります、さっきからスタジオもざわついとって、うちもめっちゃ緊張しとるんですけど、今日はゲスト? いや新しい仲間が来ております、ずっと待っとった皆さん、ありがとうございます。それじゃあ呼びたいと思います」
“おかえりやで ウルルン”
心の中のメッセージと一緒にうちはウルルンを呼んだ、それは電波に乗って世界中の人々に届いた、うちは高鳴る心臓を押さえるのに必死で、でもたまらなく嬉しくてマイクの前に座るウルルンに笑顔を送った。
「長い間、お騒がせしました。こうして戻ってくることとなりました。あたしなんかを待っていてくれた方、いらっしゃいましたらありがとうございます。あたしは、もう一度皆さんの元でお仕事をさせていただきます。この泣き虫なバカと一緒に」
こうして、二人でのラジオが長い経過を経て初めて人々の元へと届けられました。