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碧と陽翔と恋人




「友人、同居人、恋人、結婚相手。のどれかでしょうか。ぼくたちの関係の名称を付けるとしたら」

「うん」


 二人が住んでいる二階建ての一階にある居間にて。

 食卓を挟んであおと向かい合って椅子に座る陽翔はるとは、ホワイトボードに関係を示す名称を書いた。


 二人はどんな関係なのか。

 三年前に陽葵ひまり結菜ゆいなから受けた質問を、三年経った今も、陽翔と碧は一緒に住みたい相手としか答えが見つかっていない状態であった。


 お互いに好意を抱いていることは知っている。

 けれどその好意の種類を問われたら、どうなのかと首を傾げてしまうのだ。


 傍にいてほしい。これは四つの名称すべてに当てはまるのではないか。

 性的接触はない。これもまた四つの名称すべてに当てはまるのではないか。

 セックスレスの恋人や結婚相手もいるのだ。


「「う~ん」」


 友人と恋人の違いをネットで調べたが、今一つピンと来なかったので、一般的な定義に当てはめようとせず、二人で導き出すしかないようだ。


「僕は陽翔ちゃんに恋に落ちたけど。陽翔ちゃんは僕に恋に落ちてないでしょ?」

「え?」


 陽翔は目を丸くした。


「え?碧さん。ぼくに恋しているんですか?」

「え?うん。アオの仮面を被っている時で。あの。陽翔ちゃんが中学生の時に、深夜に公園で陽翔ちゃんを砂の山に勢いよく背中から着地させた時に。陽翔ちゃんのぽかーんとした顔が、ね。無防備な顔がキラキラ輝いて、可愛くって、胸にね。恋の矢が刺さったんだよ」

「初耳なんですけど」

「え?そう。か。な。ねーちゃんと結菜ちゃんには、言ってたんだけど」

「そうですか。じゃあ、恋人同士でいいんじゃないですか?」

「え?だめでしょ」

「え?何でですか?」

「だって、陽翔ちゃん。僕に恋してないでしょ?恋をしているのは、仮面のアオなんでしょ?」

「ぼくが考える恋で言えば、確かに。恋をしているのは、モデルのアオにですけど。でも。別に、人によって恋の定義がそれぞれあるように、ぼくもぼくの中に恋の定義がそれぞれあるんじゃないかって。定義を一つに絞らなくてもいいんじゃないかって」


 二人はどんな関係なのか。

 一緒に住みたい相手。

 断言できるその答えのほかにも、他の答えがあるのではと、陽翔は考えたことはあった。

 モデルのアオに抱くような、恋と自覚したドキドキを、ときめきを、確かに、碧に抱いたことはなかった。

 自分は、好意を抱いていたとしても、碧に恋をしていないのだと、思っていた。

 ずっと。

 でも、恋をしていなくてもいいのではないか。

 友人でも同居人でも、一緒に住みたいという気持ちが揃った、それだけでもう。

 何なら、関係の名称付けなどしなくたって構わないと、思っていた。

 ずっと、ずっと、一緒に住みたい相手で、いいのではないか。




「ぼくは、碧さんが好きです。碧さんに名前を呼ばれるのが好きです。碧さんのふにゃふにゃした笑顔も好きです。モデルのアオより、碧さんが好きです。碧さんの傍にいる時に、一番、生まれて来てよかったって、時々かみしめます。ぼくの考える恋を、身体も心も翻弄される恋を、モデルのアオに抱いた恋心を、碧さんに抱いてはいません。これからも多分、抱くことはないです。でも。だからって。それだけが。そのひとつだけが、恋だと、決めつけたくない。と、今思いました。碧さんがぼくに恋しているなら、なおさら。ぼくは、」




 ああ、怖いな。

 陽翔は思った。

 かつて思ったことがある。

 自分が碧に飽きる可能性もあるのだ。

 それは、自分にも言えることだ。

 碧に飽きられる可能性もあるのだ。


 怖いな、とても怖い。

 飽きられて、一緒に住めなくなっても、死にたいとは思わない。

 けれど、半身をごっそり奪い取られるような感覚になると、容易に想像できる。

 ずっと。ずっとだ。

 死ぬまで一生、不自由さを感じながら、日々を過ごしていく。


 住みたい相手だろうが、友人だろうが、同居人だろうが、恋人だろうが、結婚相手だろうが。

 二人の関係にどの名称に付けようが、多分、根幹は変わらない。

 けれど。




「ぼくはあなたの恋人になりたい」











(2024.2.11)




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