碧と陽翔と見栄
「ば、陽翔、ちゃん一緒に住みたい!です!」
「はいじゃあ行きましょうか」
陽翔は碧の両の手を包み込んだまま言った。
このまま一緒にいたとしても。
碧の心中は乱れまくって穏やかさとは無縁のままかもしれない。
お互いに一緒にいない方がよかったかもしれないと、悩む日々がずっと続くのかもしれない。
もしくは。
一緒にいてよかったと思う日々がずっと続くのかもしれない。
どうなるか、なんてわからない。
ただ、確かなことが一つ。
一緒に住みたいという気持ちは確かにあるのだ。
それさえあれば今は無敵である。
ふふん。
陽翔は上機嫌になって、碧を見た。
碧は鼻水涙ズルズルで、赤面で、えぐえぐ声で、行くってどこにと尋ねた。
「決まっているじゃないですか」
陽葵さんと母さんのところにですよ。
言い終えた陽翔はちらと時計を見た。
次の日を今まさに迎えようとする時刻だった。
会いに行くには、大事な話をするには適した時刻ではない。
嬉しくてつい逸ってしまったなと苦笑しつつ、陽翔は母と陽葵にそれぞれ大事な話がしたいのですが、いつが都合がつきますかとメールで送った。
「今日は止めて、陽葵さんと母さんの都合のいい日に行きましょうか。あ。碧さんが心変わりをしたとしても、もう一緒に暮らすことは決定事項ですから。ただ、無理強いはしたくないので、とりあえずの期間を設けましょうか。まずは。ぼくが大学を卒業するまで。というのはどうでしょうか?」
陽翔は嬉々として、てきぱきと言った。
碧は目を丸くしてのち、ふにゃりと相好を崩し、そして、引っ張ってもらってばかりじゃいけないと、できうる限りに真面目な顔になって言った。
「陽翔ちゃんが飽きるまでお願いします!」
よし、これで情けない姿を上書きできるくらい、大人の男っぷりを魅せられただろう。
すびっ。
鼻水を控えめにすすろうとした碧は、その途中で息を止めた。
ご機嫌笑顔だった陽翔の表情が、変わった、ように見えたのだ。
(2024.2.7)




