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碧と陽翔と恐怖と甘え




 これは、甘えだ。

 自分は離れていくくせに、その場にいてほしいだなんて。

 自分にわかる場所にいつづけてほしいなんて。

 甘えでしかない、のに。


『モデルのアオがよかったって。僕はいらないって、言われるのが、怖くて。陽翔ちゃんからすっごく、逃げたくて。だから。陽翔ちゃんと一緒に暮らすことはできません』


 言い切った瞬間に襲いかかった、安堵感と言いようの知れない不安感。

 その場所から離れるかもしれない。

 自分がわからない場所に、手の届かない場所に、行ってしまうかもしれない。

 自分はその場所に行こうとしているくせに。

 相手にはそれを許さないだなんて。


 甘えでしかない、のに。


 こんな、

 こんな自分勝手な涙を見せることすら、流すことすら、許されるはずがないのに。


『碧さん一緒に暮らしますよ』


 どうして。

 どうしてこんな、ダメダメなのに。




 この人の傍にいたい。

 僕のままで、この人の傍に。


 このまま一生。

 アオがいいと、言われるかもしれない恐怖を消すことができなくても。

 その恐怖から逃れたいが為に動き出そうとしてしまう足を踏ん張らせてでも。


 この人の。

 この人を一生失くしてしまう恐怖より怖いものは。ない。はず。


 碧は自分の両の手を包み込んでくれた陽翔の両の手を見つめて、涙腺が崩壊した気がした。


 大きくなったなあ。とか。

 もともと立派だったのにさらに立派になったなあ。とか。

 どうしてこんなに頼もしくて逞しくてしなやかなのかなあ。とか。


 次から次へと陽翔に対する心強い感想が頭の中で流れるたびに、涙も流れ落ち続けた。

 本当は、涙を堪えて、言いたいのに。

 そんなの待っていられなくて。

 早く、言わないと。

 本当に見捨てられてしまうのではないか。


 かっこわるい。

 恐怖に突き動かされて言うなんて。

 かっこわるい。

 ダメダメだ。




「ば、陽翔、ちゃん一緒に住みたい!です!」


 あ、でもやっぱりかっこわるいやり直したいかも。

 こんな鼻水涙ズルズルで、赤面で、えぐえぐ声で。













(2024.1.8)




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