碧と陽翔と柑橘系フルーツタルト
クリスマスツリーの仮面を抱えて台所へと向かった碧は、見てしまった。
顔を真っ赤にした陽翔が冷蔵庫に背中を預けて、柑橘系フルーツタルトに直接フォークをさして豪快に、けれどゆっくり食べている場面を。
「あの。陽翔ちゃん」
「全身が暑いのでケーキを食べて冷やしています」
困惑気味の碧に尋ねられる前に、陽翔がゆっくりとした口調で現状を説明した。碧は目を見開いた。
「え?熱があるの?風邪?インフルエンザ?えっと、体温計。風邪薬。スポーツドリンク。冷えピタ。病院に。タクシー呼ばないと。陽翔ちゃん立てる?お姫様だっこしようか?」
「………」
「陽翔ちゃん。具合悪くてしゃべれない?」
碧はしゃがんでは、クリスマスツリーの仮面を太ももの上に置き、陽翔に目線を合わせると、陽翔は睨むように碧を見て具合は悪くないですと言った。
「自惚れで身体がカッカしているだけです」
「うぬぼれ?」
「碧さんは承諾してくれると思ったんです。絶対。一緒に暮らしてくれるって。なんだかんだ言って、喜んでくれるんじゃないかって。なのに、逆に困惑させてしまって。恥ずかしくなってしまったんですよ」
陽翔は話しながらも、ゆっくりと豪快に柑橘系フルーツタルトを食べ続けて、半分食べ終わっていた。
「柑橘系フルーツタルトを食べて身体を冷やしてから、ほかのケーキを持って行こうと思っていたんですけど。なかなか、熱がひかなくて。手も止まらなくて。美味しいですね。これ。ぜんぶ一人で食べられますよ」
「え。あ。うん。美味しそうだなーって思って。ぜんぶ別々のお店で買ったんだ。そっか。美味しかったんだ。よかった」
「………食べますか?」
「え?あ。うん。ううん。いいよ。陽翔ちゃんが気に入ってくれたんだもん。ぜんぶ食べて。いいけど。でも、一気にホール一個食べるのは、お腹が痛くなるかもしれないから。半分で止めておこうか」
「………はい。今度、ぼくが買ってきます」
「え?あ。え。いいよ。僕、自分で買うし」
「………碧さん。ぼくに何か、言いたいことがあってここまで来たんじゃないんですか?」
「あ。うん」
「一緒に暮らしたいっていう提案への返事ですか?」
「うん」
「聞きます」
陽翔が柑橘系フルーツタルトを箱に戻して冷蔵庫に入れるとその場で正座になったので、碧もまた正座になって、クリスマスツリーの仮面を太ももの上に置いて、陽翔と真正面に向かい合った。
「僕、本当に、情けない人間なんだよ。陽翔ちゃんに嫌われるのが………」
碧は一度言葉を切ると、陽翔から視線を下げてクリスマスツリーの仮面を見て、ゆっくりと掴む力を強めながら、視線を陽翔へと戻した。
「モデルのアオがよかったって。僕はいらないって、言われるのが、怖くて。陽翔ちゃんからすっごく、逃げたくて。だから。陽翔ちゃんと一緒に暮らすことはできません」
ドッドッドドドッドドッド。
心臓の音が大きくてしかも不規則。
やっと言えたという安堵感と言いようの知れない不安感がない交ぜになりながら、碧は陽翔の言葉をじっと待ち続けた。
(2023.12.17)




