碧と陽翔と冷蔵庫
『僕もう陽翔ちゃんには二度と会わないから!』
これはしょうがない。
会いたくないならしょうがない。
生きていてくれるなら、いい。
『僕もう陽翔ちゃんの前でモデルのアオになれないから!』
何だこれは?
つまりは。何だ?
自分の前ではもうモデルのアオになれないから、会えない、と言っているようにしか聞こえないのだけれども。
(………それだけ根深いってこと、か)
モデルではない自分はダメダメだともう植え付けているのだ。
その考えを改めることなんて、そうそうできやしないのだろう。
(………だったら)
陽翔は碧と絡めていた小指を解いては、小刻みに揺れ始める小指ごと鷲掴みにした。
ひぃっと、小さな悲鳴が聞こえたような気がしたが無視をして微笑んだ。
またまた、小さな悲鳴が聞こえたような気がしたが以下略。
「碧さん」
「はい何でしょうか陽翔さん」
「ぼく、碧さんに、モデルのアオさんじゃない時の碧さんに、陽翔ちゃんって呼ばれるのが好きなんですよ」
「有難き幸せに存じます」
「だから、碧さん」
「はい何でしょうか陽翔さん」
「碧さんが嫌でなければ、新しい家を探して、ぼくと一緒に暮らしませんか?」
「嫌です」
「ダメです」
「え?ん。え?」
「付き合ってくれと告白したんですから、ぼくのこと、嫌いじゃないですよね?」
「え?うん。え?あ、でも、それは、モデルのアオがしたことで。僕だけど僕じゃないって言うか」
「ぼくのこと、嫌いじゃないですよね?」
「はい嫌いではございません」
「だったら、一緒に暮らせますよね?」
「え?あ。うん。えっと。そうかな。そうかも。そうじゃないかも」
「暮らせますよ」
「ええっと。あの。陽翔さん。顔が笑っていらっしゃるのに、怖いですよー」
「碧さん」
「はい」
「ぼくは碧さんと一緒に暮らしたいです。ぼくと一緒に暮らしてください」
「あ………」
「………」
眉が下がった碧を見た陽翔は、片腕で抱えていたクリスマスツリーの仮面をそっと碧に手渡し、鷲掴みにしていた手を解いて碧の手から離した。
「ごめんなさい、急にこんなお誘いをして。戸惑うのは当然のことだと思いますが、ぼくは本気なので、考えてください」
「あ、うん。はい」
「あ。ケーキ。ケーキを食べましょう。あんなにたくさん。朝昼晩食べないと。取ってきますね」
「あ。うん。はい」
碧はクリスマスツリーの仮面を抱えたまま、台所へ行く陽翔を見続けた。
「あーーー」
台所に辿り着いた陽翔は少しの間、冷蔵庫に額を当てて小さく唸り続けていたのであった。
(2023.12.5)




