碧と陽翔とただいまとおかえりなさい
「ダメダメだからまた自殺するんですか?」
「多分、もう、しない、と思う」
心もとない小さな声だった。
陽翔は碧の顔を覆い隠すクリスマスツリーの仮面にゆっくりと手を伸ばした。
碧は陽翔がクリスマスツリーの仮面に触れた瞬間、正座を解いて立ち上がり逃げようとはしなかったものの、背中を反らして距離を開けた。
手が届かなくなった陽翔は立ち上がると距離を縮めて、碧を見下ろす形でクリスマスツリーの仮面の両端にそっと手を添えた。
「その態勢きつくないですか?」
「きついです」
「背中を反らすのやめた方がいいんじゃないですか?」
「う、ん、ん。いい、かな。腹筋と背筋が鍛えられそうだから」
「そうですか」
「うん」
「仮面を外していいですか?」
「ダメです」
「………」
「いやかなー」
「………」
「陽翔ちゃん。見たくないんじゃないかなー」
「いいえ見たいです」
「そうなのー?」
「はい」
「………あの。背中、まっすぐにするね」
「はい」
陽翔は仮面から手を放して、身体を後ろにずらした。
碧が反らしていた背中をまっすぐにすると、陽翔は正座になって伸ばした手を仮面に添えた。
碧はまるで心に直接触れられたような気がした。
「仮面を外していいですか?」
「………はい」
陽翔は時間をかけてゆっくりとクリスマスツリーの仮面を外した。
碧はゆっくりと離れていくクリスマスツリーの仮面と顔の間に流れる空気をはっきりと感じた時、とてつもなく不安な気持ちが襲いかかったが、拳を作っては強く握りしめつつ太ももに強く押し付けた。
碧の拳を見た陽翔は、クリスマスツリーの仮面を外そうとする手を一旦止めた。
「仮面を外すのを止めますか?」
「ううん………お願い。できますか?陽翔ちゃん。仮面を外してください」
「はい」
陽翔は一旦止めていた手を自分の身体へと引き続けては、クリスマスツリーの仮面を胸元に抱きしめ、碧の顔を見つめた。
眉を下げていた碧は頑張って平行にすると、もう一度、ただいまと言った。
陽翔もまたもう一度、おかえりなさいと返したのであった。
(2023.12.3)




