碧と陽翔と謝罪
もにゃもにゃもにゃもにゃと、碧は小声で言い続けていた。
モデルのアオであることを黙っていてごめんなさい。
モデルのアオとして夜中に砂の山に身体を落として破壊させてごめんなさい。
何も言わずに姿を消してごめんなさい。
モデルのアオとして成人式にみんなの前で告白してごめんなさい。
いきなり海に入って行ってごめんなさい。
名前を呼び続けてくれたのに無視してごめんなさい。
入水自殺を直に見せてごめんなさい。
一時的にバケツに入れられた花束を碧と陽翔の視界に入る場所に置いた陽翔が、碧の前に正座になると、碧はゆっくりと謝罪を口にしたのだ。
入水自殺をした後の、モデルのアオとしての振る舞いは全部演技だったのか、それとも本当に記憶喪失だったのか。
頭を掠めた疑問を、けれど陽翔は尋ねようとは思わなかったし、謝罪されたことぜんぶに赦すも赦さないもないと思ったし、入水自殺した理由を問い詰めようとも思わなかった。
とりあえず今はその気は起きなかった。
まったく。
訊きたいことはほかにあった。
のに。
「陽翔ちゃん。本当にモデルのアオじゃ、ダメだった?」
口を開く前に尋ねられた陽翔は、ダメですと断言した。
「え、何で?あいつの方がお金稼げるし、家事も積極的に手伝ってくれるし、細やかな気遣いもできるし、時々おっかないし、外見もいいし、何より、陽翔ちゃんが恋しちゃってるの、あいつでしょ。何で、ダメなの?」
「じゃあ、逆にお尋ねしますけど、何でそんなにモデルのアオさんを推すんですか?何でモデルのアオではないご自分を推さないんですか?」
「………世間一般的にぼくってダメダメだから?」
首を傾げて言われた言葉に、陽翔はそれはそれはもう重たい空気を、口からも鼻からも吐き出したのであった。
(2023.12.1)




