碧と陽翔と夕飯
確かに。
大学には行かず、ずっと一緒にいるべきだったのかもしれない。
あの状況で、大学に行ってきます話は帰って来たら聞きますと足早に家を出るべきではなかったのかもしれない。
けれど大学生なのだ。
学生なのだ。
親の死に目にすら立ち会わず、学業に勤しむべき学生なのだ。
あそこで講義を放り投げて傍にいるなど、ありえない話である。
ので。
ずっと一緒にいなかったことを悔いてはいない。
まったく。
そもそも、待っていてくれると思うだろう。
話は帰って来たら聞きますと言ったのだ。
返事は、なかったけれど、返事がないだけで待っていてくれると信じていた。
のに。
(本当は、)
本当はここで満足すべきなのかもしれない。
あんなに名前を呼んでもらえただけでもう満足すべきなのかもしれない。
もうこの先出会うことはなくても、同じ空の下で生きていけるだけで十分な気持ちも確かにある。
多分もう、心配もない。
あの人はもう自分で自分を殺すことはないと、根拠なき確信を抱いている。
大丈夫、だ、と。
果たして本当に大丈夫、か。
一度は自殺しようとした人間なのだ。
もう一度と、自殺をするかもしれない。
姿を消したのがいい証拠ではないか。
思考を巡らせた陽翔が、碧がそっちに行ってないかと、母である結菜と陽葵に電話をかけたが、知らないと返ってきた。ちょっと様子を見て家で待っていてほしい、とも。
碧の連絡先は教えてもらっていたので、出る可能性がなくてもかけるべきなのかもしれないが、そうするつもりはなかった。
(母さんも、陽葵さんも、ちょっと待っていればって言ったし)
不思議だった。
自殺するかもしれないとの考えが浮かぶも、焦燥感は生じていないのだ。
「………よし」
夕飯を作って待っていよう。
(2023.11.29)




