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碧と陽翔と名前




 加湿器がうまく作動してないのだろうか。

 碧はふと、そんな疑問を抱いた。

 乾燥しすぎて静電気が発生しているようなのだ。

 パチパチパチパチと。

 二人の間に。

 いや。

 静電気の発生源は。


「そんなにおっかない顔をしてどうした?」

「碧さん。オラオラ系破壊モデルなんですよね?」

「ああ。そうだな」

「『おまえが破壊したいと願えば、俺がいつでも破壊してやる』。そう言ったことを覚えていますか?」

「ああ。言ったな。何か破壊してほしいものができたか?」

「できました」

「何を破壊してほしい?」

「碧さん」

「何だ?」

「だから、碧さんです。碧さんを破壊してください」

「陽翔………本気か?」

「死んでほしい。と言っているわけじゃありません。碧さんが抱いている碧さんじゃだめだって考えを破壊してください」

「俺には無理だな」


 重苦しい空気の中、碧はあっさりすっぱりと言った。

 陽翔の碧へ向ける視線がより鋭くなった。


「『おまえが破壊したいと願えば、俺がいつでも破壊してやる』って言いましたよね」

「じゃあ訂正する。破壊できるものと破壊できないものがありますご了承ください。付け加えておけ」

「碧さん。茶化さないでください」

「茶化してはいない。俺には本気で無理だ。おまえの望む碧が自分自身で破壊しないとだめだろ」

「………」


 陽翔は片手を碧の胸に置いたまま、もう片方の手で碧の頬を軽く引っ張った。

 碧は目を細めた。


「悪いな。簡単に外せる仮面じゃなくて」

「………ぼくはあなたにひどいことをしていますね」

「ああ。まったくだな。失恋でできた、どでかくてふっかい傷に塩をこれでもかって擦りこみやがって。痛くて痛くて、涙が止まらねえわ」

「すみません」

「謝られるより絆されてくれた方が嬉しいんだが………無理か」

「はい」

「即断しやがって」


 碧は陽翔の頬に添えていた手でそっと陽翔の頬をつまんだ。


「おまえには仮面なんていらないんだろうな」

「そうですね」

「また即断か」

「今は。ですよ。これからどうなるかは、わかりません。大人入りする十八歳を越えて二十歳になっても、まだまだ世間知らずのがきんちょですから。もしかしたら、仮面を作って被ることがあるかもしれません」

「ないな」

「即断ですね」

「ああ。その年になっても仮面を作ってねえなら、もうこれから一生作らねえよ。やーい。仮面なし野郎」

「意気地なし野郎みたいに言わないでください」


 ジト目に、軽く笑って返したのち、碧は名を呼んだ。

 陽翔の名を、何度も何度も。

 ただただ優しく、ゆっくりと、あらゆる感情を籠めて。

 名前を呼び続けた。











(2023.11.28)




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