碧と陽翔と仮面
「陽翔」
「はい」
「………おまえの望む俺は、恐らくもう。おまえの前に現れることはない」
「………わかるんですか?」
「医者は俺の今の状態を記憶喪失って言ってたけどな。俺は違うと考えている。俺とは違う俺は、自分で自分を消したんだ。消えたやつが戻ることはない」
「………」
「それでも、おまえは、求め続けるのか?」
「………」
「おまえが望むなら、俺は、おまえの望む俺を演じる。仮面をずっと被り続ける」
もう、日を跨いだのだろうか。
陽翔は思った。
デートの時間が終わったから、碧はこんな、胸が張り裂けるようなことを淡々と口にするのか。
信じられない。
あの人が自分自身を消すなんて。そんな。
(………何言ってんだ。実際にこの人が海に入って行くのを見ただろう。呼び続けてもずっと、奥に行き続けて。あれは入水自殺)
勢いよく何かが腹から喉元にせりあがってきて、慌てて口元を両の手で押さえ、耐え忍ぶ。
それほど。
それほどまでに絶望することだったのだろう。
演じていたことを、仮面の存在を誰かに気づかれることが。
(でも、陽葵さんも母さんも知ってた)
二人以外には絶対に知られたくなかったのか。
それ、とも。
(ぼくには、知られたくなかった?)
(2023.11.27)




