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碧と陽翔と甘ったれた声




 碧が隙間なく陽翔の口を片手で覆ったまま、無言で視線を絡め合って数分後。

 碧はゆっくりと陽翔の口から離した片手とは違う、もう片方の手で乱暴に陽翔の髪の毛を掻き回してのち、後頭部に手を回して強く押すと自分の肩に陽翔の額を押し付けた。


「俺はだめか?」

「だめじゃないですけど、だめです」

「はは。どっちだよ」


 笑った時に生じた碧の身体の小さな揺れを、けれど強く感じた陽翔は、不意に涙が込み上げては口を結んで嗚咽を我慢した。


「あなたに恋しています」

「そうか」

「恋しているのに………求めているのは。あなたでは、ないようです」

「そうか」

「俺を選ばないならぶっ壊す、とか言わないんですね」

「言ってほしいか?」

「………言ってほしい気持ちと言ってほしくない気持ちがせめぎ合っています」

「そうか。どうするかな。言って、俺に傾くなら、いくらでも言ってやるが………おまえ。多分揺らがないだろ。俺じゃない俺を求めるだろ」

「………はい」

「中学生の時に一緒に暮らしていたのが俺だったら、また違っていたのかもしれないな」

「そう、ですね。そうかもしれないです」

「俺を選ばないとぶっ壊す」

「っはは。本当に言った」

「ああ。言った。どうだ?」

「はい。せっかく不調が治まっていたのに、身体がまた暴れ始めました」

「そうか。ずっと言い続けて、本当に壊してやろうか」

「………」


 止めてください。

 そう、すぐに返すことはできなかった。

 喉に何かがつっかえて。

 破壊を望んでいる自分も確かにいるのだ。

 けれど。


『陽翔ちゃん』


 あの甘ったれた声が、聴きたかった。

 聴きたいのだ。











(2023.11.26)




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