碧と陽翔ととくとくと
梅酒とこたつと映画に、五感をすべて注いだ結果。
陽翔は酔っぱらってしまった。
の、だろうか。
酒の高揚感と陽翔の高揚感がぶつかり合っては、冷静さをもたらしたのだろうか。
碧を前にしても身体の不調を来さなくなった陽翔は、映画が終わると同時にこたつから出した身体を碧へと向けて、座を正した。
自分に向かい合った陽翔の様子を横目で一瞥した碧はテレビのスイッチを消し、こたつから身体を出して正座になって陽翔に向かい合った。
しゅんしゅんと加湿器の沸騰音だけが部屋を占める中。
碧と視線だけを交じらせていた陽翔は、ゆっくりと口を開こうとしたが、その前に碧がやわく片手で陽翔の口をふさいだ。
陽翔はその手を退かそうとは思わなかった。
今は。
梅酒を飲んでいてよかったと思った。
そうでなければ、心臓や脈やその他身体の生命維持活動の音がとてつもなく活発化して、碧の言葉をまともに聞けそうになかったから。
(本当に)
本当に、どうして。
(この人を求めているはずなのに、なあ)
求めているのだ。
それはもう強く。
反して、この人ではない違うと訴える声は、とても小さくて。
搔き消されてもおかしくないはずなのに。
どうしたって、消えないのだ。
消えやしないのだ。
「陽翔。もう一度だけ。言う」
陽翔は小さく頷くと、陽翔の口と碧の掌の開いていた隙間が、ぴったりと埋まった。
「松江陽翔、おまえが好きなので恋人として付き合ってほしい」
酒の効果は切れたようだ。
ほんの少しだけ。
心臓音がほんの少しだけ強く鳴り始めた。
心地よいと感じられる音だった。
とくとく。
とくとくと。
(2023.11.25)




