碧と陽翔と石鹸
水炊きを食べて身体がぽかぽかになった碧と陽翔は、ちゃちゃっと土鍋や食器などの後片付けを終えて、ゆっくりと別々に風呂に入ると、人をダメにするカーペットの上に置かれたこたつに入り、ちょうどテレビで放送されている海外のファンタジー映画を見ながら、ちょびちょびとお猪口に梅酒を注いで飲み続けていた。
「もう十回くらい見てんのに飽きねえんだよな、不思議と」
「そうですね」
横並びになってこたつに入っていた碧は、顔を横に向けて陽翔を見つめた。
「………集中してんなあ」
小声で言ってみても、陽翔の耳には届いていないらしい。
非現実的なことに興味がないと思っていたが、存外そうでもないようだ。
「牛乳石鹸の匂いがするな」
「………」
「俺も同じ匂いがしてんのか?」
「………」
「シャンプーの匂いの方が濃いはずなのにな。何で石鹸の匂いの方が強いんだろうな?」
「碧さん」
「何だ?」
「放送中はちょっと黙っていてもらえませんか?」
CMに入った時点で、陽翔は碧へと顔を向けて、険しい表情でそう言った。
「ああ。悪い。もう少し。二時間後、か。デートも終わるだろ。少しでも構ってほしくてな。もう終わるまで黙ってるから安心しろ」
「………碧さん」
「CM終わったぞ」
「はい」
陽翔が前を向くと、碧もまた前を向いて映画に集中することにした。
(………心臓よ、ぼくの身体よ。すごいぞ。生命維持活動も形も保てているなんて。よく頑張っているな。でもまだだ。映画に集中するんだ。生き延びるんだ。延命だ。梅酒の匂いで誤魔化せ。碧さんの。いやいやいや。違う!ぼく。ぼくの体臭だ。この牛乳石鹸は!くう。隙間が空いているはずなのに、碧さんの体温。いやいやいや違う!こたつ。こたつの熱だから!)
集中集中だ碧さんを意識するな。
目を見開いた陽翔は、映画と梅酒とこたつに五感を注いだのであった。
(2023.11.25)




