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碧と陽翔とうぐいす餅




 歴史公園内の茶屋にて。

 ぎゅうひなどの餅生地で中餡を包み、うぐいす色のきな粉をまぶした餅菓子であるうぐいす餅とお抹茶を頂いて、碧と陽翔は外に設置されている野点傘の下、緋毛氈がかけられた長椅子に腰をかけた。

 一月下旬。

 寒さが緩和されているのは、惜しみなく注ぐ日光と凪いでいる風のおかげだろう。

 この短い時間でしか味わえない恩恵を受けつつ、うぐいす餅に竹串を刺して半分口の中へ放り込む。

 もにゅもにゅ。

 ゆるゆる。

 弾力を楽しんでは溶けていくうぐいす餅を飲み込んで、余韻が消えてしまわない内にお抹茶を注ぎ込めば甘さが際立ち、次には苦味が口の中でほのかに浮き立ってはゆっくりと消えていく。


(碧さんは、碧さんで、アオさんじゃないだろ)


 陽翔は激しく落ち込んだ。

 引っ張られている。

 モデルのアオに。

 碧とは別人の一個体人だと思わされている。


(流石はモデル。惑わせるのはお手の物ってことか。いや。碧さんは別に演じているわけじゃ。ないのかどうなのか)


 記憶喪失かどうか疑わしいのは、疑わしいまま。


(………ぼくはどうしたいんだろう)


 もしも記憶喪失が本当だったとしたら。

 モデルのアオではない碧の記憶を思い出させるべきなのか。

 もしも碧がモデルのアオを演じたままでいたかったとしたら。

 このまま何も指摘せずに受け入れるべきなのか。


(ぐうたらな碧さんとの交際が想像できる、し、ぐうたらな碧さんにも会いたいけど)


 実際に交際したいかどうかはわからない。

 恋しい恋しいと涙を流す日々を送っているのなら、答えは明白なのだがそうでもない。


(ぼくって、恋愛に関しては淡白なのかな。いや。モデルの碧さんには体調不良になるくらい、恋、しちゃっている。今も。心臓と脈が危機的状況だし………う~ん~)


「陽翔。どうした?疲れたか?」

「いえ。ちょっと。大学の提出物が気になってしまって。すみません」

「謝るな。ただ今は。集中しろよ。俺に」

「………」


(やっぱり、交際したら命がいくつあっても足りないから、危機回避のために脳が拒否しているだけなのかな)


 本当は交際したいのだろうか。


「っふ。顔がヤバいな」

「やばいですよ」











(2023.11.21)




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