碧と陽翔と紅葉
碧は目を丸くして見た。
黒髪を金髪に染めてはオールバックにして、黒色の瞳に空色のカラーコンタクトレンズを被せて、ボタンを閉めていない黒のスーツと紅のシャツを着ている陽翔を。
心なしか、ちょっとだけ伸びているような気がするがまだ見下ろせる身長で、幼さが残っている陽翔を。
「高校受験に失敗したからグレたんだよ」
くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ。
これ見よがしに行儀悪くガムを噛んでいる姿を見せる陽翔を、碧はじっと見つめた。
「んだよ見んなよ気持ち悪いな」
「うん。ごめん。えっと」
変わった陽翔ちゃんも可愛いね。
と言ったら怒るだろうな。
と思った碧が何を言おうか考えていると、陽翔の名を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声だなあと、のんきに考えていた碧はその声の主を見て目を見開いた。
自分だったのだ。
正確には、モデルをしている時の自分、アオである。
「俺、アオさんと破壊しまくってんだ」
行こ、アオさん。
陽翔はアオの手を握っては引っ張って歩き出した。
碧などもう存在していないかのように目もくれずに。
「じゃあな。碧。おまえはもう」
アオは不敵に笑って去って行った。
続く言葉を言わなかったのか、聞こえなかったのか、碧にはわからなかった。
(………あ~~~。熟睡できなかった、かあ)
仰向けになっていた碧は寝息が聞こえて来たので、顔を横に向けた。
陽翔がほんの少しだけ口を開いて眠っていた。
「ちょっとは、息抜き、できたかなあ」
碧は畳に頬を押し付けて、じっと陽翔を見つめた。
三年後に会いに行った時に、例えば夢のような姿であっても、違う姿をしていても、多分。
「十八、だっけ。今は。成人って。あ。でも。お酒を飲めるのは、二十か。うん。よし」
想像しては、にまにまと笑った碧は、仰向けになって眠っている陽翔の肩をゆすり始めた。
「ん。んん。碧さん?」
「おはよう。陽翔ちゃん。おやつ。食べに行こう」
この国立公園に来る最中の電車の中で、海苔と白米の俵おにぎり三個、梅干し、たくあん、玉子焼き、醤油と塩のから揚げ二個ずつが竹皮に包まれた駅弁を昼食として食べていたので、国立公園内の喫茶店でモンブランか栗パフェを食べに行こうと、碧は決めていたのだ。
「ほらほら。陽翔ちゃん。早く。半分こしようね」
「はい」
小屋から出て、銀杏、楓、桜の紅葉がゆっくりと舞い散る中を小走りで進む碧を、陽翔はゆっくり歩きながら追うのであった。
「いい天気だな」
(2023.11.11)




