碧と陽翔と食欲の秋
きゃべつ、にんじん、たまねぎ、おくら、とまと、ぶなしめじ、塩麴漬けの鮭のホイル焼き、もずくと豆腐のみそ汁、白米を夕飯で食べながら、碧は陽翔を誘った。
ちょっと足りなかったかなと、ホイル焼きにしょう油をかけてから。
今度の土曜日に遊びに行かない。
「無理です塾があるので」
陽翔は即断した。
陽翔の真向かいに座る碧は唇を尖らせた。
「えー。いいじゃん。一日くらい」
「その甘い考えで成績が大きく揺らぐんです。絶対に行きません」
「お願い」
「何度お願いされても無理です」
「ときどき思いっきり遊んだほうが勉強も捗るって言っている人もいるよ」
「知っていますけど、ぼくには当てはまりませんね」
「えー。だって。陽翔ちゃん。成績、上がらないんでしょ?」
「………母ですか?」
「うん。そもそも、陽翔ちゃんがずっと勉強をしていて心配だからって、結菜ちゃんがここに連れて来たわけでしょ。息抜きも必要だよ」
「でも」
陽翔は口を閉ざして、黙々とご飯を食べ続けた。
不安なんですと、言いたくなかった。
勉強していないと、どんどんどんどん成績が下がるんじゃないかって。
言いたくなかった。
「大丈夫だよ。陽翔ちゃん」
「大丈夫なんて、軽々しく言わないでください」
「えー。無理。軽々しくしか言えない。僕、とっても軽い男だから」
「………」
「行こう。陽翔ちゃん。一日だけ。ね?」
「………一日だけですよ」
「うん。ありがとう。えへへ。あ~。美味しいなあ。お箸が止まらない。ご飯をおかわりしてこよーっと」
碧は立ち上がると、テーブルに乗せてある炊飯器から白米をもりもりと茶碗によそった。
(了承しないといつまでも付きまとわれそうだから。それだけだし)
陽翔もまた白米をもりもりと茶碗によそって、ゆっくりと食べ続けたのであった。
(ごはん、うまっ)
流石は、食欲の秋。
流石は、ぼく。
(でも、ちょっと意外だな。断られたら、すぐに諦めそうなイメージだったのに)
(2023.11.6)




