僕と俺
時々、思い知らされる。
必要とされているのは、仮面の俺で。
本当の僕は不要なのかもしれない。
と。
ねえ、陽翔。
君だって、そうなんでしょう。
全国津々浦々撮影に行って来てください。
事務所の社長から言われた。
期間は三年間。
一か月後に出発しますので、それまではお休みということです。
北から南に順繰りに、なんて言いません。
ご当地の旬の風景とともに、破壊する写真を撮影するので、行ったり戻ったりの繰り返しです。
体力的に厳しいですし、何より、本当の自分を出せる時間が格段に減ります。
それでも、私はあなたにこの仕事を引き受けてほしい。
三十歳を迎える前の、二十代のあなたを、あますところなく、撮影したい。
もちろん、三十代、四十代、五十代、六十代、七十代、八十代、九十代、百代のあなたも撮影したいですよ。
(仕事だから引き受けない、なんて、考えないけど)
熱で朦朧とする頭の中、碧は三年かと呟いた。
三年。経っても、陽翔はまだ十七歳。
まだ、好きだと言ってはいけないし。
(そもそも、モデルのアオの時に好きになっちゃったわけだし。なあ。でも、僕は、モデルのアオだって、言う気はないし。陽翔ちゃんが成人になったって、好きだって。どっちにしたって。言えない。かあ。あ~あ~。なんで。アオの時に、好きに、なっちゃった、かなあ)
碧は目元を前腕部で覆った。
覆って、引き結んだ唇を大きく離して、音の出さない大きな息を吐き出した。
(2023.11.1)




