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第18話 マッサージ、やばい感じ

 その後、深夜になって日野からラインが来た。ミナミちゃんとのツーショット。伊月にも送られたらしい。


「……ったく、こっちはとんだ巻き込まれ事故だよ」

「まーいいじゃん、幸せそうなんだから」


 確かに。ま、末永く爆発しろってことで。



 明けて日曜日。またぼーっとすごしてしまった。

 笑点の時間もとっくに過ぎ、夕飯を食べたら、もはや二十一時前である。何とはなしに点けていたテレビを椅子にもたれながら見る。カップ麺のCMが流れていた。猫耳を付けた女優が、カップ麺を食べる男優を見ている。つまり擬人化した飼い猫らしい。


「こんなCMあるんだな」

「知らないの? 割と話題だけど」

「知らん。最近までテレビ自体あまり見てなかったから」

「ふうん。で、わざわざ気になったってことは、猫耳好きなの?」

「たまたまだよ……まあ、嫌いじゃないけど……」

「じゃあうちが付けてあげよっか?」


 対面で座っている伊月の顔。そこから想像すると、悪くない。いや、かなり似合いそうだ。特に目つきが似合う。


「……からかうなよ」

「からかってないよ、うちは。にへへ」

「じゃあそのにへら顔はなんだよ」


 観たい番組もなく、俺はテレビを消した。


「はあー……」


 明日からはまた労働が待っている。ならば、早めにシャワーを浴びて寝た方がいいのだが……いかんせん、腰が重い。椅子から動けない。


「疲れてるねぇ、朝也さん」

「明日は月曜だからな。いつものことよ」

「そっか。五千兆円欲しいね」

「うーん、よく言われるけど、五千兆円あったら多分自然人じゃなくて国家として扱われる気がするんだよねぇ」

「だから疲れるんだと思うよ……」


 溜め息とともに呆れた声音。だってそうだろう、五千兆円って日本の一般会計総額の十倍以上あるからな。


「あ、そうだ!」


 伊月はいじっていたスマホを置き、おもむろに立ち上がった。


「この前会った友達がマッサージ店で働いてたんだけど、ちょっと教わったんだ! 朝也さんにやってあげる」

「えっ……」


 素人のお前が実践して大丈夫なのか? ……と、思ったが、目がきらきらしている。試してみたくてうずうず、と。その瞳の前に、無粋なことは言えるはずもなく。促されるまま、リビングのカーペットにうつ伏せで寝そべっていた。


「よーし」


 腕まくりして、俺の脇でヒザ立ちする伊月。

 最初は肩、次に肩甲骨へと手が伸びていく。


「お客様、凝ってますね~」

「客じゃないが」

「形から入るもんなの、こういうのは」


 ――案外、悪くなかった。少しくすぐったいが、ソフトなタッチで筋肉の隙間を突いていく。ほぐれていく感覚がある。


「いかがですか、お客さ~ん?」

「あ、はい……気持ちいいです」


 だから客ではない。のだが、雰囲気に飲まれてしまった。実際心地いい。


「では、あぐらかいてください」


 言われるがまま一旦体を起こしてあぐらをかく。肩たたきでもするのだろうか。


「えーと確か……」

「ふぐっ!?」


 首根っこに伊月の右腕が縄のように巻き付く。だから自然に胸が後頭部に当てられる形。マシュマロのような柔らかさが首筋の神経を伝って、むずかゆくなってくる。


「それで、こうやって……」

「ををっ!?」


 かと思えば、首が伸びる。いや、むりやり伸ばされているのだ。


「ちょ、待って、ほんとに習ったのこれ? ねぇ、伊月さん?」


 気恥ずかしさは消え、どんどん押し寄せる。恐怖が。


「大丈夫、ゆっくり首の筋肉伸ばすだけだから」

「何が大丈夫なの?」


 このまま首の骨折れたりしない? 気付いたらなぜか俺が横たわってる俺自身を見てるってことない?


「もう少し……」

「いや、もういい、よ……」


 ――コキンッ!


 謎の甲高い音が、響いた。


「ひゃ……」

「あ……」


 伊月も察したのか、腕を解いた。


「……死んでないよね、俺」


 大丈夫、とりあえず意識はあるようだ。よかった!


「……いや、大丈夫だよ。血行が良くなる音だよ」

「それで安心すると思うのかぁ~お前は!」

「ごめんて」


 顔の前で両手を合わせる伊月。眉尻が下がって、今にも取れて落ちててしまいそうだった。

 その顔を見ると、さすがに強くは出れない。


「……ま、だいぶ肩はラクになったよ。ありがとう。シャワー浴びて寝るわ」


 実際肩は軽くなったし、どこも痛くはない。

 ただなんだか、すごく首が熱いだけ。ぽかぽかする。おっぱいを押し付けられたからだろう、きっと。大丈夫……なはず。

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