表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

妹に誕プレ何が欲しいと聞かれ冗談で彼女と答えたら本当に彼女を連れてきた

作者: 底花

「お兄ちゃん誕プレ何が欲しい?」


 休日、リビングでくつろいでいると妹の(らん)に声をかけられた。


「誕生日プレゼント? ああ、俺の誕生日そろそろか」


 あまり気にしていなかったが蘭の言葉で自分の誕生日が来週まで迫っていたことを思い出した。


「そう。それで何が欲しいか先に聞いておこうと思って」


 俺と蘭は誕生日プレゼントをお互い毎年贈り合っている。蘭は今年もくれるつもりのようだ。


「うーん。難しいな、欲しかったゲームは自分で買ったし。あと特に欲しい物は……」


「無かったら無いでもいいよ。こっちで適当に選ぶから」


「じゃあそれで頼む」


「分かった」


 用事が済んだのか蘭が自分の部屋の方に戻ろうとする。俺はその時自分が欲しい存在が頭に浮かんだ。それは物ではないし妹に頼むことでもないので言うか悩んだが言うのはタダと思い口に出すことにした。


「俺が欲しいのあったわ」


 蘭が俺の声を聞いて振り返る。


「何?」


「彼女が欲しい」


 沈黙が流れる。これは滑ったか? まあ返答に困る発言ではあったと思う。少し時間が経過した後、蘭が再び口を開いた。


「……分かった」


 それだけ口にすると今度こそ蘭は自分の部屋に戻っていった。どうやらスルーされたようだ。完全に無視されなかっただけありがたいと思おう。俺は自分の最後の発言を少しだけ後悔したものの数日後にはすっかりその事を忘れてしまっていた。




 翌週の休日、自分の部屋でダラダラ漫画を読んでいるとノックの音が聞こえ、ドアを開くとそこには蘭が立っていた。


「お兄ちゃんちょっといい?」


「いいけど、どうしたんだ?」 


「今年の誕プレ渡したいんだけど」


 そう言えば今年はまだ誕生日プレゼント貰ってなかったな。あまり気にしてなかったけど。


「用意してくれたのかありがとう。で、誕生日プレゼントどこにあるんだ?」


 見た限り蘭は何も持っているように見えない。自分の部屋に置いているのだろうか。


「ちょっと待って。今連れてくるから」


「え? うん」


 連れてくるって言ったか? 一体何を渡すつもりなのか。ちょっと不安になってきた。


「おーい、来てちょうだい」


 蘭が自分の部屋の方に呼びかけると蘭の部屋のドアが開いた。そして中から1人の少女が出てきてこちらに歩いてきた。


「はい、今年の誕プレ。お兄ちゃんが欲しかった彼女だよ」


 蘭は何事もないかのようにそう言い放った。




「いやいや、なんだよ俺の彼女って」


「お兄ちゃん言ったじゃん。誕プレに彼女が欲しいって」


 そんな馬鹿なこと言うわけ……。いや、言ったかもしれない。なんかその発言を蘭にスルーされて少し落ち込んだ記憶がある。


「確かに言った気がするけどだからって本当に連れてくるとは思わないだろ普通」


 そう言いながら蘭が連れてきた少女の方を見る。あれ? さっきは急な展開すぎて気づかなかったけどどこかで見たことがある気がする。そうだ、蘭にしては珍しく家に呼ぶ友人の子であるはずだ。名前は確か……。


「君、(しずく)ちゃんだったよね?」


 そう少女に問いかけると少女がこくりと頷く。良かった、どうやら合っていたようだ。


「蘭、お前友達に何させてるんだよ。雫ちゃんもゴメンね。こんなことに付き合わせちゃって」


 蘭は普段滅多にふざけないので自分の友人を巻き込んでこんなお茶目な行動とるとは思わなかった。


「お兄ちゃんが彼女欲しいって言ったから現実的になってくれそうな人考えたら雫だっただけだよ。それに雫だって無理やり呼んだわけじゃない」


 再び雫ちゃんの方を見ると彼女と目が合う。雫ちゃんは顔を少し赤らめながら今日初めて口を開いた。


「蘭ちゃんの言う通りです。私がお兄さんと付き合いたいと思ったからここに来たんです」


 今度は蘭の方を見る。いつも通りのポーカーフェイスで表情からは何も読み取ることが出来ない。


「ほらお兄ちゃん。無理やりじゃなかったでしょ。じゃあ、誕プレは渡したし私はこれで……」


「ちょっと待った。この状況で2人きりにしないでくれ」


 ほとんど交流がない年下の異性といきなり楽しく会話が出来る程、俺のコミュニケーション能力は高くない。


「しょうがないな。まあいきなり気まずくなられても困るし。じゃあ、お兄ちゃん雫に聞きたいこととかある?」


 正直、聞きたいことは無限にあるけどここは1番疑問に思った点を聞くことにしよう。


「雫ちゃんはなんで俺と付き合いたいと思ってくれたのかな?」


「雫、答えられる?」


 蘭の隣にいる雫ちゃんが頷く。なんか蘭が雫ちゃんの保護者みたいだな。


「蘭ちゃんと話していると結構な頻度でお兄さんの話が出るんですけどそれを聞いていて優しくて良い人そうだなって思って。それでお兄さんが彼女を募集していると蘭ちゃんから聞いたのでまだ大丈夫なら立候補しようかなって」


 一応それなりに理由があったらしい。自分で聞いていてあれだけど正面から優しいとか良い人とか言われるの結構恥ずかしいな。それに学校で蘭が俺の話をしているのは意外だったな。


「教えてくれてありがとう。でも俺そこまで良い人じゃないよ? 色々抜けてるとこあるし」


「いいえ、お兄さんは良い人だと思います。私と初めてこの家で会った時も優しくしてくれました。それにちょっと抜けているところがあるのは蘭ちゃんにも聞きましたが可愛いです」


 年下に可愛いと思われるのは複雑な気持ちだがまあプラスのイメージなので良しとしよう。それと最初は無口で受動的な子かと思っていたが思ったより自分の意見を伝えてくれる子みたいだ。


「雫もいいって言ってるしとっとと付き合っちゃいなよお兄ちゃん」


 蘭が横から口出ししてくる。


「そんな簡単に言うなよ。付き合うっていうのはそれなりの手順を踏んでだな……」


「そんなこと言ってるから高2になっても彼女出来ないんでしょ」


 止めろ、正論を言うな。時にそれは何よりも人を傷つける刃物になるのだぞ。


「ふふふ、やっぱり兄妹の仲がいいんですね」


 雫ちゃんが何故か笑っている。今の会話に笑うところと仲いいと思えるところあったかな。蘭の方はため息をついている。


「ヘタレなお兄ちゃんはまだ付き合うつもりがないみたいだね。ならこっちがすぐにでも付き合いたいと思わせるような雫の魅力を言っていきます」


「蘭ちゃん!?」


 雫ちゃんが蘭の方を見る。その焦った様子からどうやら予定にはなかった展開らしい。


「魅力その1料理が上手い」


 蘭がスマホを見せてくる。そこにはお菓子が写った画像がいくつもあった。蘭の発言からして雫ちゃんが作ったもののようだ。見てみるとどのお菓子もおいしそうだ。


「雫はお菓子作りが趣味なんだよ。家庭的な女の子好きだよねお兄ちゃん」


 なぜ蘭は俺の女性の趣味を把握しているのか。確かに料理が出来る女の子は良いと思うとても。


「まだあるよ。魅力その2意外とたくさん食べる。雫、お兄ちゃんのお弁当と同じくらいの量食べてるんだよ。それを幸せそうに食べるからこっちも見てて楽しくなるんだよね」


 なるほど自分で作って自分で食べる。お菓子作りは実益を兼ねた趣味だったのか。雫ちゃんの方を見るとあまり言われたくなかったのか蘭に抗議の視線を送っている。蘭は全く気にしていないが。


「うーん。まだ折れないか。他にも優しいとか可愛いとかちょっと天然とか良いところは無限にあるんだけど。何が1番お兄ちゃんに響くかな……。そうだ、魅力その3」


 そう言うと蘭は雫ちゃんの胸部を指さした。


「胸が大きい。お兄ちゃん巨乳派でしょ。雫のおっぱいはかなりすごいよ」


「いきなり何言い出すの蘭ちゃん!」


 思わず雫ちゃんの胸に視線を向ける。雫ちゃんは顔を真っ赤にしながら両腕を使って胸部を隠す仕草をする。だが腕に隠されていても分かる。中々立派なものをお持ちだ。たくさん食べた栄養はそこに集まっているのか。


「……確かにすごいな」


「お兄さん!?」


 口から本音がつい漏れてしまった。雫ちゃんに幻滅されたかもしれない。蘭は俺に冷ややかな視線を浴びせてくる。いや、お前は俺に雫ちゃんの胸をアピールした側だからその視線はおかしいだろ。


「まあこれで雫の魅力分かってもらえたかな? お兄ちゃんの疑問も聞いたし雫の魅力も伝えられたし私はそろそろ自分の部屋に戻るね。後は2人でごゆっくり」


 言うだけ言うと蘭は本当に自分の部屋に帰っていった。そして俺の部屋の前にはポツンと立つ俺と雫ちゃんだけが残された。


「とりあえず俺の部屋入る?」


「は、はい」


 俺はずっと立たせっぱなしだった雫ちゃんを座らせてあげたくて自分の部屋に案内した。




 数分後、俺と雫ちゃんは俺の部屋で向かい合って座っていた。俺の部屋に招いた後から2人とも口を開けておらず沈黙が続いている。改めて雫ちゃんの方を見る。こんな可愛い女の子が自分と付き合ってもいいと言ってくれてるなんて俺はなんて幸せなんだろうか。そしてだからこそ今の自分の気持ちをしっかりと伝えねばなるまい。軽く息を整えた後、俺は意を決して口を開いた。


「雫ちゃんちょっといいかな?」


「はい、大丈夫です」


「はじめはふざけてるのかと思ったけど話を聞いて蘭も雫ちゃんも真面目に考えてくれたのが分かった。雫ちゃんが魅力的な女の子だってことも伝わったしそんな子が恋人になってくれたらすごく嬉しい。こんな形になっちゃったけど良ければ俺と付き合ってくれないかな?」


再び部屋に静寂が訪れる。チラッと雫ちゃんの方を見るが俯いていて表情は読み取れない。今日の行動や言動から幻滅され嫌われてしまったのだろうかと不安になってくる。


「……今日は私のことたくさん知られちゃったし逆にお兄さんの色々なことを知れました」


 雫ちゃんが顔をこちらに向け話し始めた。


「お兄さんは私が思ってたよりエッチな人でしたけどでもやっぱり優しくて好きだなって思いました。こんな私ですが彼女にしてください」


「……もちろん。これからよろしくね」


 そう言うと雫ちゃんは俺の胸に飛び込んできた。思っていたより感情表現する子みたいだ。飛び込んできた雫ちゃんをドキドキしながら抱きしめる。若干不安だったが雫ちゃんも抱きしめて返してくれた。どうやら抱きしめて良かったみたいだ。これからは正解不正解を繰り返しながら2人で恋人として歩んでいくのだろう。その結末が少しでも明るくなればいいと思いながら雫ちゃんを強めに抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんな妹が欲しかった・・・ 現実は・・・
[一言] こういうファンタジーが脳に沁み渡る日もあるんや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ