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賢者の森の外へ

「そういや、異世界人に会いに行くって、アリスの知り合いとかに会いに行くのか?」

「そうだな・・・タケルはいないのか? ナミ以外の異世界人の知り合いは?」


 新たに加わったロイにアリスが目的を説明している間に、タケルが簡単に夕食を用意した。そして、焚き火を囲んで食事をしながら、これからどうするかの話し合いだ。


 朝は出掛ける前に昨夜のスープの残りを食べたが、それで持っていた食材が切れたので、移動中に見つけた食べられる野草や果物、川で捕まえた魚などを調理した。

 新鮮な魚があれば、内臓を取って軽く塩をふるって焼くだけでも十分に美味しいが、果物があったのでフルーツソースも作って添える。果物の酸味が良いアクセントになって食が進む。


 上位魔物であるロイも、やっぱりアリスと同じで人間のような食事は必要ないようだが、食べることはできるというので3人分用意した。

 最初は遠慮なのかちょっと拒否ったが、アリスに「タケルの料理はうまいぞ」と言われて、更に美味しそうに食事をするアリスにつられたように一度口をつけると、そこからは無言だが食べる速度が落ちないので気に入ったようである。


 その様子にちょっと頬をゆるめて、タケルは口を開く。


「ガイラルディアの異世界人なら会ったことあるけど、知り合いというほどじゃないんだよな」

「ガイラルディア? もしかしてナミが所属していた国か?」

「ああ、俺も小さいとき住んでた」


 異世界人はその有能さから国が取り合いになることがあるので、大抵の場合、現れた場所の国で保護されるのが普通だ。

 保護された国で基本的なこの世界の知識や魔法の使い方を教わり、異世界人は生活の基盤を作ることができる。

 所属する国をはっきりすることで、身の安全も保証され、国から金も出してもらえて何不自由なく生活できるのだ。

 もちろん、国にとっても利益のあることで、有能な人材を国に縛る思惑がある。

 異世界人は有事の際には力を貸すことが求められるのだ。


 ナミもそうしてガイラルディアで保護され、こちらの世界に慣れてからは旅に出る生活を送っていたが、国に求められれば直ぐに戻ることを約束させられていた。

 今思えば、それは契約で縛られていたのかもしれない。

 ナミは旅先で簡単な仕事をすることもあったけれど、基本的には国から支給された金で生活していたから、実のところタケルもその恩恵を受けていたのだけど。


 そして、ガイラルディアには定期的に帰ることも約束させられていて、ナミが国に戻るときはタケルも一緒に王宮に行くことがあった。

 その時は同じく集められた他の異世界人とも会うこともあったのだが、そうそう親しく話すような間柄でもない。

 ナミは違うかもしれないけど、タケルは本当に顔見知り程度だ。


「ふむ、それでも行ってみる価値はあるな。ロイ、お前はどうだ?」

「我々が異世界人に(じか)に接触するのは難しいです。彼らは国に厳重に守られている上に魔力が強いので、下手に接点を持とうとすると、私たち(まもの)の存在が露見する危険がありますから。基本的には近付きません」


 魔物が人間社会に入り込んでるといっても、異世界人みたいな国の重要人物に簡単に会えるほどではないようだ。

 (つて)がないのかと残念に思う気持ちもあるけど、ちょっとホッとしていると。


「ただ、ガイラルディアの王になら繋がりがありますので、会わせてもらえるように交渉は可能です」


 またも爆弾発言に固まる。

 え? 王様に会える?

 ポカンとしていると。


「ガイラルディアの上級貴族とは付き合いがありますので」


 貴族と付き合いがある? ・・・ちょっと何言ってるかわからない。


「それは助かるな。王に頼めば異世界人に会うのは簡単だ」

「ふふ。アリスが会いに行ったらガイラルディアの王は驚くでしょうね。今の王の名前はなんと言ったかしら?」

「エラルド王です。人間にしてはそこそこまともな思考回路の持ち主ですから、問題ないと思いますよ」

「じゃあ、森を抜けたら、ガイラルディアに向けて出発だな」


 話がとんとん拍子に進んでついていけない。

 いや、行き先がガイラルディアなのはわかるし、順調に行きそうなことは良いんだけど。


 ・・・魔物って思った以上に人間の国に入り込んでる?

 ちょっと怖くなってブルッと身体を震わせた。


「タケル、地図は持っているか?」

「っ・・・ああ」


 アリスに声をかけられて、ついビクッとしてから頷いて、荷物から地図を取り出して渡す。


「お、思ったより良い地図だな」


 タケルが大賢者の棲家に向かうために新調したそれは、最新版の詳細な世界地図だ。

 ナミを亡くして独り旅になったのもあって、身の安全は最優先。そのためには詳細な地図が必要だったからだ。

 地図というのは国の機密にも関わるから、あまり一般的ではないのだが、実際は金さえ払えばそこそこ詳細なものが手に入る。

 中でもタケルが持っているのは、旅人向けに書かれたもので、旅に必要な主な街道や寝泊まりできる集落の場所、川にかかる橋の位置などが詳細にわかるものだ。


 この森は大陸の東の端にある。

 深い谷に区切られた陸の孤島だ。

 ちなみに広さは小さい国ひとつ分くらいあるので、そこそこ広い。

 形は左向きの扇形で、海側も断崖絶壁だ。

 その中で、大賢者の棲家は森のほぼ中央にある。


 そして、大陸は横長の菱形に近い形をしている。

 その一角、北側の4分の1は魔物が棲む地域で、人の国とは緩く弧を描く大きな山脈で隔てられている。


 ガイラルディアは大陸の中央から少し東よりの山脈の近くに位置している。

 大きな街道が交わることで交易が盛んな豊かな国だ。比較的治安も良く、住みよい国である。


 この森からガイラルディアに向かうには、まず森を抜けたところにあるモナルダという小さい国に入り、街道を使って、少し南に領土が広いペンタスという国のの北の端を通り抜けて行くことになる。


 ちなみに大陸の西側には最大の領土を持つヘリクサリムという帝国があるのだが、代々の皇帝が領土を広げることを続ける野心的な国で、大陸中央の国家の驚異になっていたりする。

 ナミと一緒にいろんな国を旅したタケルもヘリクサリムにだけは行ったことがなかった。


 ガイラルディアならそこまで遠くはないから、数日かけてこの森を抜けることになっても、モナルダに入れば街道で馬車も使えるし、2ヶ月もあれば行くことができるだろう。


 って思ったはずだったのに。



 翌日、タケルはモナルダの街道沿いの村にある食堂で腕を振るっていた。



 朝起きて夜営の荷物を片付けたアリスが急に「うん、もうこの森に用はないな」と呟いたと思ったら、急にでかい魔方陣を展開し、驚いてるうちに賢者の森に一番近い、モナルダの街道沿いの村の前に移動していたのだ。


 歩きにくい森を抜ける必要もなく、渡るのが容易ではない谷も一瞬で通りすぎてしまって唖然とするしかない。

 驚くタケルにアリスは。


「タケルの地図のおかげで村の位置がわかったから簡単だったぞ」


 とか得意げに言ったが、そこじゃない感が半端ない。

 その上、ロイは当然とばかりに全く驚きもしない。

 なんか悔しくて文句も言えなかった。


 とりあえず、村に着たからには旅に必要な食料などの買い物をする必要がある。

 生活能力に疑問しかない二人には任せられないし、一緒にいても邪魔になりそうなので別行動をすることにしたのだが。


「大人しく待ってろよ」


 つい、不安が口に出る。

 見た目は子供でも大賢者だし、心配する必要なんてないはずなのに。

 ただ、エリー姐さんは人前では話せないから、今はアリスが斜め掛けしている鞄の中に収まっていて、いつもと違って当てにならないのが不安なのかもしれない。


 ちなみに魔物然とした容姿のロイは村に入る前に、髪と瞳の色を一般的な亜麻色と灰褐色に変え、角も魔法で隠し、服装も無難な物に変えていた。

 顔はそのままだから、一見無愛想な美形の出来上がりである。


 こういう変装で魔物は人間社会に紛れ込んでいるらしい。

 それでも人狼であるタケルにはヤバい警報が鳴り響いていて魔物であることを隠せてはいなくて、逆にちょっと安心した。


 いくら変装していても、面と向かって会えば魔物かどうかわかるということだから。

 今まで知らずに人間に化けた魔物と会ったことはないのだとホッとしたのだ。


 そして、アリスがタケルの契約首輪にも目眩ましの魔法をかけた。

 さすがに人間の姿に首輪は不審すぎて悪目立ちしてしまう。

 他人に見えないだけでしっかり存在を感じるが、ちょっと気が楽になった。


「じゃあ、私たちはあの店で待つことにする」


 アリスが指差したのは、この村で唯一の宿屋だ。ちなみに食堂と夜には酒場も兼ねている。


「久しぶりに森を出たし、ちょっと情報収集したいしな」


 どこかウキウキと、好奇心が押さえきれない様子。

 つい苦笑をこぼして頷いた。


「わかった。・・・ロイ、アリスのお守り、よろしくな」

「な!? お守りってなんだ!」


 怒って顔を赤くする様子にハハッと笑って、タケルは食料品を扱う店に足を向けた。

 この村は大賢者の森に一番近い村で、森に向かう前に立ち寄ったから、店の場所は把握している。

 手早く買い物をすませてタケルも宿屋に向かうことにした。



 ***************

国名とか名前系を考えるのが苦手です。今回は夏頃に咲く花の名前を流用させていただきました。

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