第八話
「あなた。おかえりなさい」
リビングの扉を開けると妻の沙苗が出迎えてくれた。
「ただいま」
俺が仕事から帰って来たものだと思っていると心が痛い。
「あれ。美喜は?」
美喜とは、中学生になる娘の名だ。
いつものならこの時間はリビングのソファに座って、「おし」?と言うやつを見るため、テレビにかじりつく様にしているのだが、今日はその様子もなくテレビの画面は真っ黒のままだった。
「美喜は私の実家で今日は泊まるそうよ」
「えっ?!急にどうしたの?」
少し驚いた。
美喜と沙苗のご両親―特にお義母さんとは、はっきり言って良い関係と言い難い。
その理由は、お義母さんの性格。孫にとても過干渉で美喜が小学校や中学校に上がる際、受験のある私立の学校へと進めてきた。美喜自身は友達と別れたくないと言っているのに、美喜の為になると言って、勝手に受験の申請書を提出したりて学校から電話がかかってきた事が何度もあった。きわめつけは、美喜の友達に対して「あなたと一緒にいると美喜が駄目になるから二度と顔を合わせないで頂戴」と言い放って、美喜の友達の親御さんを怒らせて話し合いにまでなってしまった事がある。
だから、そんな実家に美喜が一人で、ましてや泊まりに行くなんて。
「たまには、私の親にも顔を見せてあげたいと思ったんだって」
「そうなのか」
美喜がそう言っているならいいのだが。後でこっそり美喜に連絡を取る事にした。