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第七十一話
「手を出すのは良くないですよ」
「・・・」
道徳さんは黙って席に座ると、何かを考えて黙り込んでしまった。
「卓也さん。ありがとうございます。後は、家に帰って話をします」
緩奈がそう言ってきたが、正直心配である。
手を上げようとした人の元へ、このまま緩奈を送り出してもいいのか?
「父も家に帰ったら冷静になれると思うので。ね、お父さん?」
「え、あ、そうだな。今のはちょっと冷静じゃなかった。卓也さん。今日は来ていただきありがとうございます。一度、家に帰って娘としっかり話をしてから、もう一度、会ってもらってもいいですか?」
「分かりました」と言うしかなかった。
さっきの騒ぎで店員が来て、カフェを追い出され、この場で会話するのが出来なくなったからである。




