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第五十話
「~~~♪~~~♪」
男が歌を歌っているが、私の耳には届かなかった。
「何か、歌わないのか?」
「私は聞いている方が良いです」
「えっ。今から、二時間、俺一人で歌い続けるの?」
歌を歌う気分には、なれなかった。
だって、楽しくないから。
「えー。流石に一人で歌い続けるのは―――」
「はい。次の曲、選択しておきましたよ」
適当に、過去に歌われた曲を選択した。
私の耳には届かないのだから、何を歌われても一緒。
スピーカーから、渋いメロディーが流れる。
「演歌?!」
「はい。私、日本人ですから演歌が得意な男性しか付き合わないんで」
もちろん。今、私が言った事は嘘である。
上手いこと会話をしているに過ぎない。
男が一生懸命に演歌を歌っている中、この退屈な時間が早く終わることだけを考えていた。




