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2-1

突然だが僕はかなり無口なほうだ。その無口さたるや相当なもので、学校では一日中話さない日もある。まあ挨拶くらいは返すが雑談はまずしない。話したいことがないからだ。

別に無趣味なわけではない。人並みにゲームで遊んだり漫画を読んだりするし、それらを十分に楽しんでいる。ただその楽しさを他人と共有したいとは思わない。それが何故かと聞かれれば返答に困るのだが、とにかく思わないのだからしょうがないのだ。

そんな僕には当たり前だが友達がいない。しかも今でこそ挨拶くらいはちゃんとしているが中学生のころはその挨拶すら無視して黙々と一人で本を読んでいた。クラスではかなり浮いていた方だと自覚している。今思えばよくいじめられなかったなと思う。

そんな僕を父はとても心配していた。どこから情報が漏れたのか分からないが急に夕飯時に父がパスタをフォークに巻きながら

「なあ■■■、学校は楽しくないか?」と聞いてきた。

「そりゃ別に楽しくないよ。」

「話せる子がいないからか?」

「うーん...違うと思う」

「じゃあどうして楽しくないんだ?」

「そんなことわかんないよ」少し語気を強めて僕は父に言葉を返した。

 これ以上この会話が続くことはなかった。今にして思えば、あの時僕が強い口調になったのは父が僕のことを理解してくれていないように感じたからかもしれない。「他人に感情を共有してもらえなくても結構だが、家族にだけはそのことを理解してほしい」というある意味矛盾した信念がそのころの僕にはあった。

 それ以降父との会話は減った。決して険悪になったわけではないが、もしあの時ちゃんと話し合いができていれば、父も僕のことを理解してくれたかもしれないし僕も父のことを理解できたのかもしれない。そうすれば母が殺されることも... 

、と考えているところで急に世界が切り替わった。あれから意識を失っていたのだろうか。窓からセミの鳴き声と柔らかい朝日が入ってきていた。

 そこで初めて気が付いた。ここは僕の部屋じゃないか。昨日あんなことがあっても日常はお構いなしにやってくるんだな、と布団から出ようとしたところで僕は急に非日常に引き戻された。

 焦げた食パンの匂いとバターの香りが部屋にまで漂っている。もう僕に朝食を作ってくれる人間はこの家にいないはずなのに。

僕はおそるおそる階段を下りた。この日常の皮を被った非日常がたまらなく恐ろしかった。匂いの出元であるリビングに入るためのドアノブに手をかけたとき僕の心臓は寝起きとは思えない速さで鼓動を刻んでいた。緊迫状態のまま僕はそのドアノブを捻って中へ入った。もう聞けるはずのなかった言葉が僕に向かって発せられた。

「おはよう、■■■」

昨日殺されたはずの母がそこにいた。


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