9-3:「逃げる者・追う者・迎え撃つ者」
偵察捜索隊は遭遇し攻撃を行って来た、正体不明の襲撃者達の検分に掛かった。
指揮通信車と各小型トラック、増強戦闘分隊が展開して周辺を警戒し、普通科4分隊が地面に転がった馬やその主達を調べている。
「今までの賊とはちと違うな。少し装備がいい」
竹泉が一体の襲撃者の死体を足元に見ながら発する。
竹泉の言う通り、周辺に亡骸となり転がる襲撃者達の装備出で立ちはある程度統一され、そしてこれまで遭遇して来た山賊や野盗達の物と比べて、いくらか上質な物と見受けられた。
「統制された武装組織――それが何の理由があって、私達を襲って来たんだ……?」
「この辺に、何ぞ都合の悪ぃモンでもあるのかもな」
続けて発された鳳藤の言葉に、制刻がそんな推測の言葉を返す。
「――東側、丘の方から影!」
そんな所へ声が響き渡ったのはその時であった。声の主は、指揮通信車のターレット上で警戒に付いている矢万だ。聞こえ来た声に合わせて、各員の視線は該当方向へと向く。
偵察捜索隊の現在地から東方向少し先には、小高い丘が聳えている。その稜線の向こうから、一騎の馬が姿を現す様子が見えた。
新手の敵性分子である事を警戒し、各車輛の搭載火器がそれぞれの銃口を、その一騎へと集中させる。
「――待て、まだ撃つな!」
しかしそこで河義が制止の声を張り上げた。
「何か様子が違う」
その一騎が襲撃者と様相が違う事に気付き発し、各員の発報を押し留める河義。
現れた一騎は、何か焦れた様子で丘を下り駆けている。その一騎の後方、稜線の向こうから、別の複数の騎兵が姿を現したのはその直後であった。
「あれは――」
何かを察し、河義は双眼鏡を繰り出し構えて覗く。
まず先に双眼鏡越しに捉え見たのは、先んじて現れた一騎。馬上に見えた男性は、この世界の猟師やスティルエイト家の面々も着用していた、ある程度の軽い活動に適した服装装具を纏っている。そしてその彼は、何か酷く切迫した様子で手綱を操っていた。
そして次に河義は後続の騎兵の群れを捉える。その装具出で立ちは今先程検分した襲撃者達と同様の物であり、そして次の瞬間には、騎兵達は先を行く男性に向けて、矢や鉱石の魔法攻撃を放つなどの、攻撃行為を行う様子を見せた。
「追われている」
河義は先の光景の状況を察し、言葉を零す。
「どうします!?」
同様にその光景を見ていた指揮通信車上の矢万が、指示を求める言葉を発する。
「――逃げているあの人を救う。各員、後ろの集団へ発砲しろ!」
河義は決断し、指示の言葉を下す。それを合図に、各車輛の搭載火器が、一斉に照準を騎兵達へと合わせ、唸り声を上げた。
「ッ……はッ!」
村長セノイの命により草風の村を飛び出し発した村人イノリアは、必死の形相で手綱を操り、馬を走らせていた。
「ッ……!」
一度背後を振り向くイノリア。彼の後方からは、4騎の騎兵が追いかけて来る姿があった。
――村へ襲撃を仕掛けて来た武装集団は、十中八九商議会が雇い入れ差し向けて来た傭兵であろうと思われた。その目的は明白。魔王軍と商議会のつながりを知り、その上での企みの障害と成り得る村長セノイと、村長の支持者である村人達の口を封じるためであろう。
魔王軍と商議会のつながり、企みを隣国月詠湖の国へ持ち込み伝えるべく村を飛び出したイノリア。まだ不完全であった傭兵の包囲の隙を突き、なんとか突破に成功した所までは良かったが、傭兵達は彼を追撃。現在イノリアは追われる身となり、そして追撃の傭兵達からの攻撃に晒されていた。
「くッ……!」
イノリアの後方からは、矢や魔法により生成された鉱石針が襲い着て、彼の側を掠めてゆく。それ等を受けながらも、イノリアは前を見てひたすらに馬を走らせる。
「――!」
しかしそんな彼の眼が、直後に進行方向の先に異質な光景を捉えた。
先に見えたのは、何か荷車のような物と、複数の車輪を持つ不可解な物体。そしてその周辺には、何者かが複数名展開している。
「ッ、監視か……!?」
不可解な物体についてはよく分からなかったが、イノリアは前方に展開するそれ等も傭兵の一派と考え、その表情を苦く染める。
しかし直後には意を決し、突破を試みるべく跨る馬の腹を蹴ろうとした。
――彼の耳に、何かが爆ぜるような音が聞こえ届いたのは、その瞬間であった。
「ッ――!」
突如響き出した連続的な破裂音。そして同時に、日が暮れ薄暗くなった空間の中に、光の線のようなものが瞬き走り、イノリアの側面や頭上を飛び抜けて行く。それらの現象に、反射で身を竦めるイノリア。
「がッ!?」
「ごッ!」
しかし直後に、イノリアは背後に悲鳴のような物を聞く。
「……え?」
そして背後を振り向き見たイノリアは、思わず呆けた声を上げてしまう。彼を後ろから追撃していた傭兵達の、落馬し地面に倒れた姿がそこに見えたからだ。呆けるイノリアをよそに再び破裂音が響き、閃光が飛び抜けてゆく。そしてイノリアの目は今度は、その閃光が傭兵達の元へ飛び込み、そして馬上の傭兵達がまるで何かに打ち飛ばされるように吹き飛び、落馬する様子を捉えた。
「何が……」
突然の不可解な事態に、イノリアは零しながらも馬を停止させる。そしてもう一度後ろを振り向けば、そこには今さっきまで自分を追いかけていたはずの傭兵達の、おそらく亡骸となった姿。
「……あれが……やったのか?」
そしてイノリアは視線を戻し、進行方向を見る。
その先に見えるは、依然として居座る不可解な物体と、一連の出来事から正体不明となった者達。状況、位置関係的に傭兵達を倒したのは彼等であると推察し、言葉を零すイノリア。
そんな彼の目に、さらに異様な光景が立て続き飛び込んでくる。先に展開する不可解なそれ等の内の、荷車のような一台が走り出し、こちらへと向かって来たのだ。引く馬も無しに動き接近するそれを前に、イノリアは逃げるべきかと手綱を握る手を動かし掛ける。
「……え?」
しかしイノリアの眼は直後に、思わぬものを捉えた。近づく荷車に乗る人物の、こちらに向けて手を振る姿が見えたのだ。周囲には彼等とイノリア自身以外誰もおらず、それがイノリアへ向けられた物である事は明確であった。
どう対応するべきか決めかねている内に、不可解な荷車は近づき、異質な唸るような音が聞こえ来る。やがて荷車はイノリアの目先まで来て止まる。
「――大丈夫ですか?」
そして荷車に乗っていた、同じく不可解な姿格好の者達の内の一人が、イノリアに向けてそんな第一声を投げかけた。
偵察捜索隊の各車輛は、搭載火器を用いて武装集団を撃退無力化。そして河義は小型トラックに飛び乗り発進させ、追われていた一人の人物に接触を試みる。
「大丈夫ですか?」
小型トラックでその人物の元まで乗り付け、河義は車上から安否を尋ねる声を掛ける。しかし馬上の人物――イノリアは、河義等や小型トラックを前にたじろぎ、そして警戒の色を見せた。
「あぁ、心配しないでください。私達は、危害を加える者ではありません」
それを察した河義は、イノリアに向けて、お決まりの文言を述べて見せる。
「……今のは、あんた等が……?」
対するイノリアは、しかし依然として警戒の色を浮かべたまま、質問の言葉を返す。
「えぇ、あなたが武装集団に追われているとお見受けして、介入させていただきました」
「そ、そうか……」
河義の説明に、戸惑う様子で声を返すイノリア。
「――あの、大丈夫ですか?何か顔色が……」
そこで河義は、そのイノリアの顔色が酷く優れない物である事に気付く。
「大丈夫だ……それより――」
河義に返し、何かを発しかけたイノリア。しかし馬上の彼の体がフラリと崩れ、そして彼が落馬したのは次の瞬間であった。
「ッ!どうしました!?」
唐突に崩れ落馬したイノリアを目にし、河義は慌てて小型トラックから飛び降り、彼の元に駆け寄る。
「これは!」
そして河義はイノリアが崩れた原因に気付く。うつ伏せに倒れたイノリアの背中には、30㎝程の長さと思われる一本の鉱石の針が突き刺さっており、纏う衣服には流れ出た多量の血が染み出していた。
「負傷者発生だ!誰か衛生器材を持って来いッ!」
河義はインカムに向けて叫ぶと、イノリアの元に寄り屈む。
「……頼む、助けを……村が、襲われた……!」
その河義に対して、イノリアの口から掠れた声色で、そんな訴える言葉が紡ぎ出された。
「村――この先にある集落ですね?あなたはそこの方なんですね?」
イノリアの言葉に河義は先程地図上に確認した、チェックポイントの集落の存在を思い出し、イノリアに向けて尋ねる言葉を掛ける。
「襲われたというのは、あの追撃していた集団にですか?」
「奴等は……商議会の雇った……傭兵!商議会は、魔王軍と……繋がっている!」
続き尋ねた河義に、イノリアの口からそんな言葉が紡がれる。
「魔王軍?」
「それを知った我々の、口封じに……あの野郎共……ッ!」
紡がれ聞こえたワードに疑問の声を零す河義。一方のイノリアは、語尾を荒くして憎々し気な言葉を吐き上げる。
そんな所へ河義の背後からエンジン音が聞こえ来た。振り向けばもう一輌の小型トラックがその場に到着して乗り付け、車上から制刻や鳳藤等四名が降車して来る姿が見える。
「おまたせしました!」
「この人に応急処置を、出血が酷い!」
降車した四名の内、竹泉と多気投が周辺警戒に入る。そして河義の訴えを受け、制刻と、衛生器材を肩から下げていた鳳藤がイノリアの元に駆け寄る。
「酷い……!」
「この摩訶不思議鉱石は抜かねぇ方がいい。そのまま止血だ」
「あぁ、分かっている」
イノリアの傷口を目にし、言葉を交わす制刻と鳳藤。鳳藤は衛生器材を広げ、イノリアの背の傷口周りへ止血処置を施し始める。
「伝えなければ……!村が……国、この大陸が……ッ!」
そんな中でイノリアは苦し気なその声色にしかし怒気を込め、訴える言葉を零し上げている。
「分かりました。ですからもう喋らないで、出血が酷くなります」
そんなイノリアに河義は宥めるように言葉を掛け、それ以上の発言を控えさせる。
「何です?」
「よくは分からない……どうにもこの先の集落が、襲われたようだ」
そこへ尋ねる言葉を発した制刻に、河義は訝しむ表情を浮かべて返す。
「そして、〝商議会が魔王軍と繋がっている〟、そんな事を訴えていた。さらに村を襲ったのは、その商議会が雇った傭兵だとも――」
「魔王軍だぁ?」
そして続け発された河義の言葉に、警戒の片手間にそれを聞いていた竹泉から声が上がった。
「おーん、良く分かんねぇぜぇ?商議会ってなぁ、確かここのお偉いさんの集まりなんだろぉ?それがマモー君とやらとグルまでは分かるが、なんで国ん中の村を襲うんだぁ?」
「魔王軍だろヴォケ、どんな聞き間違いだ」
多気投のふざけているのか本気なのか不明なそれに、竹泉が呆れた声で返す。
「口封じ――この人はそんな事を言っていた」
「ヨォヨォ、良くは知らんがなんぞ臭ぇ話が飛び込んできたぞぉ?」
そこに河義が補足の言葉を入れ、竹泉は一連の説明に顔を顰めて言葉を零す。
「詳細は不明だが、まずはその集落を確認する必要がある――」
河義は先に聳える小高い丘へ視線をやり、そう呟いた。




