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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター8:「淡々と進む行程」
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8-1:「コンタクト」

 夜を越え、翌朝を迎えた。

 調達隊は、昨日襲撃とその対応により中断した行程を再開。昨日の物に大型トラック1輌と装備をさらに増強した編成で森を発し、今は目的地である〝星橋の街〟という名の街を目指し、平原にできた轍を辿り進んでいた。


「でぇ?向こうに着いたら何すんだぁ?」


 4輌編成の車列の最後尾に位置する旧型73式小型トラックの後席で、多気投が声を上げる。


「最初に警察機構あるいは軍と接触する――」


 それに対して、助手席上の河義が説明を始める。

 先日河義等が物資食料調達のために訪れた、ニニマ、フレーベル達ウルワレーシュ姉妹の住まう〝星橋の街〟も見られたように、この月詠湖の国の主要な町には、兵団という名称のこの国の軍事組織が駐留しているとの事であった。

 調達隊の本来の目的は必要な物資の調達にあったが、野盗に関する一連の事態が判明、及びそれに介入してしまったため、隊はそれを報告、及び可能であれば引き継いでもらうため、この国の警察機構に接触する必要を伴っていた。


「それを終えたら、よーやくお買い物タイムだなぁ」


 運転席で、謹慎待機のために抜けた策頼に代わって、ハンドルを握る竹泉が気だるげに発する。


「あぁ、それで竹泉がメガトン級アイスで腹壊して死ぬ様が、拝めるわけだ」

「残念だったな。これでも俺様の腹は頑丈なんだよ」


 そして後席から制刻の煽る声が飛ぶ。それに対して返す竹泉。


《各車へ、前方より接近する物体あり。あれは馬――騎兵だ》


 そんな折、飛び交う皮肉に顔を顰めてた河義を始めとする各員のインカムに、先頭を行く指揮通信車の矢万からの声が届いた。


《数は4騎、轍に沿って真っ直ぐこっちに来る。おそらくこちらが目的と思われる》


 続けて報告される、接近する者達の概要。


「河義三曹。援護できる位置に出た方がいいかと」

「だな――各車へ、こちらジャンカー4。こちらは車列を外れ、援護できる位置に出ます」


 制刻は河義に進言。それを受け入れた河義は、インカムで先を行く2輌にその旨を発報する。


《了解ジャンカー4》


 発報には、車列の2輌目を行く大型トラックに乗車する、麻掬より了解の返答が来る。


「竹泉、道を外れて脇に出るんだ。多気投は軽機に付け」

「今度は矢とかぶっ飛んで来ねぇといいよなぁ!」


 河義が指示の声を発し、竹泉は皮肉気な声を上げると同時にハンドルを切る。小型トラックは轍を外れて車列を離れ、車列を援護できる位置へと移る。




「――別れた。2騎が轍を外れた」


 先頭を走る指揮通信車の車上で、双眼鏡を構え覗く矢万が声を零す。

 少し前に目視できた4騎の騎兵と思しき隊伍は、次に内の2騎が分かれて轍を外れてゆく様子を見せた。


「武装らしき物が見える。クロスボウか?」

《向こうも、こちらを警戒しているようですね》


 矢万の続けて零した言葉に、インカム越しに操縦手の鬼奈落が返答を返す。


「だな――宇現。MINIMI軽機に付いてくれ」

《了解》


 矢万はインカムを通じてまた別の隊員に指示を送る。

 そして矢万の視線の先、指揮通信車の前方助手席上の天井ハッチが開かれ、そこから宇現と呼ばれた野砲科の陸士長が半身を現し、指揮通信車の前方に据え付けられたMINIMI軽機に着く姿が見えた。

 それを確認した後に、矢万は車列の進路上に視線を戻す。二手に分かれた騎兵の内のもう一方は、轍の上を一直線にこちらへ向けて駆けて来る。矢万は警戒の姿勢を強め、自身の側に据え付けられた12.7㎜重機関銃の握把を手繰り寄せようとした。しかしその直後、矢万は接近する騎兵の馬上に動きを見た。


「――手を振って来た?」


 真っ直ぐ接近して来る騎兵の内の、先頭に位置する騎兵。その馬上に跨る人物が、こちらに向けて手を掲げて大きく振るっていた。それはこちらに向けられた、明確なコンタクトの姿勢であった。


「麻掬三曹。彼等、こちらに向けて手を振って来ました」

《敵意は無いという事か――?》


 矢万は後続の大型トラックの、この場の先任者である麻掬に報告を送る。インカム越しに、麻掬から疑問の声が返って来る。


「おそらく――こちらでコンタクトを試みます」

《頼む。油断はしないでくれ》

「了解――鬼奈落。彼等に接近し、停車しろ」


 麻掬との通信を終えた矢万は、入れ替わりに操縦手の鬼奈落に指示。指示が反映され、指揮通信車はその速度を落し始める。速度を落し始めた指揮通信車の車上で、矢万は向かってくる騎兵に向けて手を翳し返す。それに呼応し、騎兵もまた手を振り返す姿が見えた。

 やがて双方は、肉眼で相手の顔がはっきりと確認できる距離まで近づき、それぞれ速度を完全に落とし切り、互いに相対して停車した。


「我々は、星橋の街駐留、月詠第12兵団の者です。そちらの身分と、旅路の目的を教え頂きたい!」


 接近相対と同時に先に声を上げたのは、2騎の内の前側に位置する騎兵だった。三角帽被り、青を基調とした軍服と思しき衣服を纏うその男は、馬上より通る声で、調達隊側に向けて身分と目的を問う。


「こちらは日本国陸隊です。私達は街に訪問し、物資の補給調達を行わせていただく事を希望します」


 それに呼応し、矢万は自分達の組織と目的を名乗り返した。


「……ニホン国。それにフォートスティートの方向から……」

「えぇ、おそらく彼等でしょう」


 矢万の名乗りを聞いた二人の馬上の騎兵達は、顔を見合わせ、何かを確認するように会話を交わす様子を見せる。そして内の、先に声を張り上げた片方が、馬を操り指揮通信車の側面へと近づいて来る。


「唐突で申し訳ないが、少しお尋ねしたい。荒道の町で野盗を撃退し、商隊を救った一団というのは、あなた方ではないか?」


 そして騎兵の男は馬上よりさらに若干高所にいる、指揮通信車上の矢万を見上げ、そんな尋ねる言葉を投げかけて来た。


「あぁ――えぇ、確かに私達は先日訪問した町で、襲撃に居合わせそれに対処しました。おそらく、それは私達の事でしょう」


 騎兵の男の言葉に、矢万は先日の町での野盗への対応行動の件を思い返し、肯定の言葉を返す。


「やはりですか――!いえ失礼、受けていた報告と似通った特徴をなされていた物ですから」

「私達の事をすでにご存じなんですか?」

「えぇ。荒道の町からの早馬で、商隊を救った一団がいるとの報告は、すでに受けておりました」


 矢万の発した疑問の言葉に、騎兵の男はそんな説明を返す。


「成程」

《まぁ、私達は居るだけで悪目立ちしますからね。噂も広まるでしょう》


 矢万の納得し呟く言葉に、インカム越しに鬼奈落のどこか飄々とした口調での言葉が返って来た。


「先程もお伺いしましたが、あなた方は我々の街へ、物資調達が目的で来訪されたのですね?」


 そんな所へ、騎兵の男から確認の言葉が掛けられる。


「はい――あぁいえ、それと……お尋ねしたいんですが、あなた方はこの国の軍ないし警察組織の方ですか?」


 騎兵の質問に矢万は肯定したが、直後に逆に尋ねる言葉を返す。


「?――はい――」


 質問に対して騎兵の男は、彼等は兵団を名乗るこの国の軍事組織であり、防衛や、街の内外の治安維持活動を受け持ち行っている事。現在も哨戒活動の途中である事など回答を返した。


「あぁ、良かった。実は私達の訪問目的は、物資調達だけではありません。そちらに、お伝えしたい事があります――」


 矢万は騎兵の男に、自分達がここまで来る行程の途中で、町で対処した者達とはまた別の野盗集団に遭遇した事。その野盗の根城を制圧し、被害者と思われる複数の遺体と、多数の強奪品を発見。また、一名の生存者を保護した事。そしてこれらの案件を、この国の警察組織に報告引継ぎを行いたい旨を説明した。


「それは――大事だ。フラロ、彼等の来訪の今の件。先に戻り、本部に伝えてくれ」

「分かりました」


 矢万からの一連の説明を聞いた騎兵の男は、その表情を神妙な物に変える。そして背後に控えていたもう一人の騎兵に指示を発する。指示を受けた騎兵は手綱を操り愛馬を反転させ、来た方向を駆け戻って行く。


「もしよろしければ、あなた方からも詳しくお話を伺いたい」

「もちろんです。私達はそのために来訪しました」


 騎兵の男の要請に、承諾の言葉を返す矢万。


「では、我々の街までご案内します」


 言うと騎兵の男は、離れた位置で警戒に付いていた残りの騎兵達に何か合図を送る。それを合図に騎兵達は警戒を解いた様子を見せる。そして騎兵の男も手綱を操り愛馬を翻し、そして調達隊に追走を促す姿勢を見せる。


「各車へ、コンタクトは成功――」


 矢万は無線越しに、コンタクトは無事成功した旨を発報し、続けて一連のやり取りの内容を簡潔に報告する。そして警戒に付いていた小型トラックの4分隊に、警戒を解き車列に合流復帰するよう要請。

 調達隊は縦隊を組み直し、先導をかって出た騎兵達の追走を始めた。




 少しの間、先導を受けながら調達隊の車列が平原を進むと、やがてその先に人工物――目的の街の物であろう城壁がその姿を現した。遠目にもその城壁が長大な物である事が分かり、目的地である街が、これまで隊が訪れて来た中でも最大規模の物である事が伺えた。


「でかいな」


 その大きさに指揮通信車の車上で矢万は思わず零す。

 程なくして騎兵達と調達達の車列は、その城壁の元へと到着。城壁の一角に設けられた城門の前へと乗り入れ、停車した。

 城門脇に設けられた詰め所前には、数名の衛兵らしき人影が見える。すでに先んじて戻った伝令により調達隊の来訪は知らされているのであろう、衛兵達が大きな騒ぎを見せる事は無かったが、彼等は少しの警戒と、物珍しそうな色の視線を調達隊の車列へと向けていた。

 そんな視線を受ける中で、大型トラックの助手席より麻掬が降車。麻掬は一度周囲を見渡した後に、少し先に停車した指揮通信車の方向へと歩く。向かった場では、指揮通信車上の矢万と、馬上より降りた先の騎兵の男が、何やら短く言葉を交わしている様子が見える。


「――あぁ、こちらの者と話してください。この場の先任者です」


 麻掬に気付いた矢万は、騎兵の男に麻掬を紹介し、促す。


「日本国陸隊の麻掬三曹と申します」


 麻掬は組織と己の姓階級を名乗りながら、挙手の敬礼動作を行う。


「月詠第12兵団のハイテムです。星橋の街へ」


 その敬礼動作の意味を察したのであろう、ハイテムと名乗った騎兵の男は、歓迎の言葉を述べると同時に、おそらく兵団式の者であろう敬礼動作を返して見せた。


「さて、街へと入っていただく前に、来訪者の方には身分と来訪目的。そして所有している武器等危険物類の確認をさせていただいております。ご身分と来訪目的はすでにお教えいただいていますので……」


 そこでハイテムは言葉を区切り、城門前に停車した各車輛や各員の姿を一度眺める。そしてその後に、どこか困ったような色をその顔に浮かべた。


「――申し訳ありません。私達は道中での脅威との遭遇を警戒し、車輛にそれなりの重装備――武器の類を搭載して来ました」


 そんなハイテムの思う所を察して、麻掬は説明の言葉を発する。発された通り、調達隊は再びの野盗あるいはモンスターの類との遭遇を警戒し、引き続き――いや調達行程開始時よりもさらに上乗せされた規模の装備を有していた。それは調達隊単体で、ある程度の小規模な作戦を行えるレベルの物であった。


「やはりこの状態では街へは入れませんか」


 そして麻掬は懸念の言葉を発する。


「そうですね……申し訳ないのですが――」


 ハイテムは、現在街へ入る旅人等には、持ち込む武器を護身に必要な最低限に留めてもらっている事。それ以上の物は衛兵隊に預けるか、街の外で待機してもらっている旨を説明した。


「問題事ですか?」


 そこへ麻掬等の背後から声が掛かる。振り向けば、小型トラックを降りてこちらへ歩いて来た、河義と制刻の姿があった。


「あぁ――」


 麻掬は河義等に、今しがた説明された旨を伝える。


「面倒だな」


 それを聞き、制刻が呟く。


「車輛を乗り入れられねぇと、調達行動に支障が出る。なんとか融通利かねぇか?」

「おい制刻……」


 制刻はハイテムに向けて聞き尋ねる。その若干不躾な態度に、横に立つ河義が咎める声を上げる。


「ほほう、これはまた珍しい光景の数々だ」


 そんな所へ、集う各員の別方から声が聞こえ来た。各員がそちらへ視線を向ければ、開かれた城門から出て来たと思しき、数騎の馬の姿がある。

 そしてその先頭に位置する馬の馬上で、遠目にも良い体躯であると分かる壮年の男性が、周辺の車輛に物珍しそうに眼を配る姿があった。


「司令」


 ハイテムがその壮年の男の姿に、声を上げる。司令と呼ばれたその男は直後に馬上から降り立つと、引き続き周囲に珍しそうな視線を向けながら、集った各員の元へと歩いて来た。


「あなたは?」

「おっと失礼――私はエレノム。この街に駐留する、月詠第12兵団の司令を務めております」


 麻掬の尋ねる言葉に、壮年の男は自身の名と身分を名乗って見せた。


「司令官の方ですか――!失礼しました、私は日本国陸隊の麻掬と言います」

「ようこそ私達の街へ」


 おそらく最高階級者と思われる人物の登場に、麻掬は少し驚き、そして謝罪と挨拶の言葉を返す。それに対してエレノムと名乗った壮年の男性は、その荘厳そうな顔に温和な笑みを浮かべて、歓迎の言葉を述べた。


「頭が直にお出ましか。話が早く済みそうだ」

「制刻!」


 一方、背後では制刻がそんな言葉を発する。無礼とも取れる態度に河義が再び咎める声を上げたが、当人は気に留める様子も無い。


「いえ、私も自ら赴き、荒道の町の恩人である皆さんと、直接お話がしたいと思っていました」


 対してエレノムは、特段気にした様子は無い様子で、そして自らこの場に赴いた理由を説明する。


「恩人などと――私達はたまたま、あの場に居合わせたに過ぎません」

「ご謙遜を。あなた方のご活躍は、聞き及んでいますよ」


 麻掬は謙遜の言葉を発したが、エレノムはそれに笑いながらそう返す。


「――して、何か皆さんお困りのようだが。何かあったのかな、ハイテム大尉?」


 そしてエレノムはその場の様子をすでに察していたのだろう、横に立っていたハイテムに振り向き、尋ねる言葉を発した。

 ハイテムはエレノムに対して、調達隊が物資調達のために街を訪れた事と、そのために各車輛を町へ乗り入れたいと要望している旨を説明。


「しかし、このまま皆さんをお入れすれば、住民に混乱を招きかねません。それに、皆さんかなりの武器装備をお持ちのようです」


 そして続けて懸念事項を発した。


「ふむ――まずこの不思議な乗り物を街へ入れるには、事前に町内への通達と、整理を行う必要がありそうだな」


 それを聞いたエレノムは、車輛が街へ入る上での必要な対策を口にする。そして周囲にいた配下の各兵に向けて行動を命じ、各兵はそれに掛かって行った。


「皆さん。すみませんが少しお時間をいただけますかな?

「えぇ――それよりも、よろしいのですか?」


 そんな様子を眺め、そして言葉を聞いた麻掬が、エレノムに向けて言葉を返す。


「皆さんは気になさらないで下さい。恩人の皆さんに、私達の街で不便な思いはして欲しくありませんからな」


 そんな麻掬の言葉に、エレノムは屈託ない笑顔で返す。


「申し訳ありません。私達の方でも装備を最低限に抑え、残りは街の外で待機するよう、対応策を取らせていただきたいと思います」

「あぁ、お手間を取らせてすみません。しかし、ご協力に感謝いたします」


 麻掬は続けて自分達側でも対応策を取る事を申し出、エレノムはそれに礼の言葉で答えた。

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