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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター6:「それぞれの道。拡大する不穏――」
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6-5:「夜闇の獣を討つⅡ」

 ファニール達が苦しい戦いに苦い言葉を零したその頃。

 ナイトウルフの巣である洞窟の入り口には、三頭の馬が辿り着いていた。


「ここだ」


 馬に跨っていたのは、草風の村の村人達。そして内の一頭には、騎手の後ろに同乗している水戸美の姿があった。


「すみません、無理なお願いを聞いてもらってしまって……」


 馬からおっかなびっくりと言った様子で降りた水戸美は、村人達に向けて謝罪の言葉を述べる。

 ファニールの落として言った首飾りを拾った際に、水戸美が感じた強烈な不安。

 水戸美はその不安が、ファニール達の身に何かがあるのではという予感に結び付き、それを払拭し切る事が出来ないでいた。

 そして意を決して村人達にその事を訴え、こうして応援を出してもらう事となったのだ。


「いや、いいさ。それより急ごう、俺達だけで長居をするのは、あまり好ましくない」


 村人の内の、この場の代表格である男性が、水戸美にそう返す。

 そして一人を馬の見張りに残して、水戸美達は洞窟内へと踏み入った。




 水戸美と二人の村人は、警戒しながら洞窟を進んでゆく。


「これ……」


 そして水戸美はその途中にある物を目にして、声を零す。

 洞窟内にはナイトウルフの死体がいくつも転がっており、奥に進むに連れてその数は増えて行った。


「勇者様達は、大分やったようだな……」

「これを辿って行けば、追いつけるはず」


 同様にナイトウルフの死体を目にした村人達が、推測の言葉を発する。


「ファニールさん、クラライナさん……!」


 そして願うように二人の名を発する水戸美。

 水戸達は歩みを進め、やがて洞窟の奥の、大きな空間へと出た。


「――あ!」


 その場へ出て、飛び込んで来た光景に、思わず水戸美は声を上げた。

 空間の真ん中には、巨大なナイトウルフの姿が。そして周辺には多数のナイトウルフの姿があり、その手前に、それ等と対峙するファニールとクラライナの姿を捉えた。


「あれがナイトウルフの親玉か……?ここまで巨大な個体だとは……」


 この場の代表格の村人の男性が、親玉の姿を目にして驚愕の言葉を零す。


「ファニールさん、クラライナさん……!」


 一方、水戸美の眼は、ファニール達に釘付けになっていた。

 ファニール達には何匹ものナイトウルフが襲い掛かり、二人がそれを懸命に振り払っている姿が見える。


(――ひょっとしてファニールさん達、あの親玉に攻撃したいのに、他の個体に阻まれてる……)


 ファニール達の一連の動きを観察していた水戸美は、そこでその事に察し気付く。


(――そうだ!)


 そして水戸美は、自分が持っている〝ある物〟の存在を思い出した。


「勇者様達、苦戦してるみたい……!」

「ッ、援護に行くぞ……!」


 一方、村人達はファニール達の援護に向かうべく、それぞれの剣を構え、その場から飛び出そうとする直前であった。


「待ってください!」


 しかしそこへ、水戸美が制止の声を上げた。


「ど、どうした?」


 思いがけぬ制止の言葉に、代表格の男性は困惑の声で水戸美を見つめる。


「考えがあるんです……!」


 水戸美は困惑の声に返しながらも、持ってきていた自身のバッグを漁り出している。

 そして彼女が取り出した物。それは防犯ブザーであった。


「お願い、うまくいって!」


 水戸美はその取り出した防犯ブザーのピンを引き抜くと同時に、声を上げながら、それを空間の奥へと投げ放った。




「うわっとぉ!?」


 何度目かも知れない、ナイトウルフの攻撃を回避するファニール。


「ええぃ!全然近づけない……!」


 多数のナイトウルフからの、間髪入れずの度重なる攻撃に、ファニールは親玉へ挑むどころか、配下のナイトウルフの数を減らす事すら、ままならないでいた。

 多数のナイトウルフに囲われ、相対しながらも、チラりと親玉の方向へ視線を向けるファニール。

 親玉は身構える姿勢すら解き、高みの見物とでも言わんばかりの様子で、ファニール達の姿を見降ろしていた。


「くぅ……」


 その親玉の姿に、思わず悔し気な声を零すファニール。

 ――その場にいる全員の耳に、けたたましい異音が飛び込んで来たのは、その時であった。


「え!?」

「な、なんだ!?」


 ピリリリリという聞いた事も無い異質な音声が、洞窟中に響き渡る。

 その音に、ファニールとクラライナの二人はもちろんの事、親玉を含めたナイトウルフ達も、その注意を持っていかれる。

 そして全員がその音の発生源を追い、音源が空間の端に落ちた、小さく見慣れない物体であることに気付く。


「ファニールさん!」


 そんな中、ファニールの元に声が届く。


「ミトミさん!?」


 振り向き、空間の出入り口にあった水戸美の姿に、その名を叫ぶファニール。


「今です!」


 そんなファニールに、続けて発する水戸美。

 唐突に響き出した異音や、この場に水戸美がいる事など、疑問点に思う事は多々あったが、しかし水戸美の一言が何を示しているのは、ファニールもすぐに察する事が出来た。


「――はぁッ!」


 ファニールは地面を蹴り、跳躍。

 異音に意識を取られていたナイトウルフ達は、彼女のその行動に反応するのが遅れた。慌ててファニールに追いすがろうとするナイトウルフ達だったが、それはすでに遅かった。

 ファニールは跳躍し、親玉のナイトウルフへと飛び掛かり、肉薄する。

 異音に気を取られていたのは親玉も例外ではなく、親玉のファニールに対する反応は、ほんの一瞬であるが遅れる。

 その一瞬が、決定打となった。


「でぇやぁぁぁぁぁッ!」


 ファニールが掛け声とともに、その両手に握った剣を薙ぐ。

 ――その一閃は、見事親玉の喉笛を掻き切った。


「ギャゥゥッ!?」


 直後、親玉の口から悲鳴の鳴き声が上がる。


「ふッ」


 その悲鳴を背後に聞きながら、ファニールは地面へと足を着ける。


「グゥゥ……」


 それと同時に、親玉のナイトウルフはその巨体を地面へと崩して落とし、その喉元から流れる血で、地面に血溜まりを広げた。


「やった……のか……?」


 一連の様子を見守っていたクラライナが、ファニールと、倒れた親玉の体を交互に見ながら零す。

 その他のナイトウルフ達が、あからさまに怯んだ鳴き声を上げ、散り出したのはその直後であった。

 親玉が倒され、ファニールがこの場で最も強い存在である事を本能で察し、戦意を失ったのであろう。

 この洞窟の奥の空間には、各所にナイトウルフ一匹が通れる程の穴が複数あるようで、ナイトウルフ達はそれらを通り逃げ去ってゆく。


「ッ!逃がさん!」


 一部逃げ遅れた個体もあり、それ等はクラライナの追撃を受け、討たれてゆく。


「こっちにも来た!」

「戦意喪失してる。この程度なら、簡単に相手取れる!」


 一部はファニールや水戸美達も通って来た通路を用いての逃走を試みようとしたが、その個体達は、待ち構えていた村人達の剣の餌食となり、討たれて行った。

 やがて全ての個体が逃走、あるいは討たれ、その洞窟の空間内から生きているナイトウルフの姿は無くなった。


「――よっと」


 水戸美はというと、ナイトウルフの脅威の無くなった空間内を小走りで駆け、未だけたたましい音を鳴らしていた防犯ブザーを拾い回収すると、抜いたピンを戻してその音を鳴り止ませた。


「ミトミさん!」


 そんな水戸美の元へ、ファニールが駆け寄って来た。


「今の音は、ミトミさんが……?」

「あ、はい。これで――」

「何ソレ?」


 水戸美が差し出して見せた防犯ブザーに、不思議そうな様子で視線を落とすファニール。


「防犯ブザーって言って――危ない人とかに襲われた時なんかに、助けを呼ぶための物なんですけど……」

「へー」


 水戸美の説明に、ファニールは依然として不思議そうな顔のまま、感心するような声を零した。


「何にせよ助かった。しかし……なぜミトミさんがここに?」


 そこへクラライナが合流。彼女は村に残して来たはずの水戸美が、この場にいる事に対する疑問の声を発する。


「あの……それは……」

「この子が、すごい剣幕で訴えて来たんだ。勇者様達が、危機に陥っているかもしれない、ってね」


 村に残っているよう言われていたにも関わらず、この場に来てしまった事による後ろめたさと気まずさからか、水戸美は言葉を言いよどむ。それを察してか、代表格の男性が代わって説明の言葉を述べた。


「確かに実際危ない状況ではあったが……なぜ分かったんだい?」

「その、これが……」


 クラライナの問いかけに、水戸美はバッグに腕を差し込み、そしてその腕をファニール達へと差し出す。


「あ、これ!」


 差し出された物を見て、ファニールが声を上げる。

 水戸美の手にあった物は、件のファニールが落として言った首飾りであった。


「部屋にこれが落ちているのを見つけて……それで、これを拾った時に、酷く嫌な予感がしたんです……」


 おずおずと説明した水戸美は、言葉を終えた瞬間、勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさい!村で大人しくしてるよう言われてたのに……それに、無理を言って村の皆さんにまで迷惑を掛けちゃって……!」


 そして謝罪の言葉を述べる水戸美。しかしそれを受けて困惑したのは、ファニール達の方だ。


「そんな!ミトミさんが謝ることなんてないよぉ!」

「そうさ。ミトミさんや村の皆さんが来てくれなかったら、それこそ私達は危なかった……」


 ファニールとクラライナは、水戸美に向けてフォローの言葉を返す。


「あ、ありがとうございます……でも、なんだったんだろう……あの不吉な予感……?」

「あ、それはきっと首飾りの効果だね」

「え?」


 疑問の声を零した水戸美に、ファニールが答える。そしてファニールは水戸美の手にあった首飾りの、その中心に付けられた赤い結晶を指し示して見せる。


「この首飾りに付けられた結晶――星の結晶って言うんだけど、不吉な事の前兆とか、そういった物を伝えてくれる効果があるんだ」

「そ、そうなんですか?すごい……」

「うん、前もコレに助けられた事もあってね」


 感心した様子で言葉を零す水戸美に対して、どこか自慢げな様子で言って見せるファニール。しかしその直後、ファニールは背後からの圧に気が付いた。


「所で……そんな大事なものを迂闊に落として、それに気づかなかった事について、何か弁明は?」


 振り返れば、クラライナがすごみを利かせた笑みで、ファニールを見つめていた。


「ギクゥ!ま、まぁ、かなり気まぐれな効果なんだけどね……!必ずしも予兆を感じ取れるわけでもないし!今回は、ミトミさんが落としたそれを見つけてくれたおかげで、助かったわけだし!?」


 クラライナからの圧を受けすごまれたファニールは、慌てて誤魔化しの言葉を発する。


「あはは……」


 二人のそのやり取りを目にした水戸美は、どこが緊張が解けた表情で、困り笑いを零した。


「勇者様、とりあえずここから引き上げないか?あまり長居は好ましくない」


 そんな所へ代表格の男性が言葉を挟む。彼の言う通り、親玉は倒されナイトウルフ達は散り去ったが、残党が戻って来ないとも限らず、この場で立ち話に耽るのはあまり好ましくなかった。


「っと、そうだね。とりあえずは村に戻ろっか」


 そうして水戸美、ファニール達と村人達は、ナイトウルフの巣穴を後にして、草風の村へと戻る事となった。

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