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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター6:「それぞれの道。拡大する不穏――」
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6-4:「夜闇の獣を討つⅠ」

 翌朝早朝。

 紅の国、草風の村。

 ファニールとクラライナはナイトウルフを討伐すべく、村の北方にある山の麓に存在すると言うナイトウルフの巣穴を目指して、日が昇るよりも前に村を発した。


「二人とも……大丈夫だよね?」


 草風の村の村長邸の客室には、呟く水戸美の姿があった。

 昨晩ファニールの言葉にも合った通り、戦う事のできない水戸美がファニール達と共に行くわけにはいかず、こうして村に残り二人の帰りを待つ事となった。


「……あれ?」


 落ち着かなそうに室内をうろうろしていた水戸美は、しかしその途中で、ベッド脇の床に何かが落ちている事に気が付いた。


「え、これ……」


 落ちていた者を屈み拾い上げ、水戸美はそれがなんであるのかに気付く。それはファニールの首飾りであった。


「なんで……?ファニールさん、朝ちゃんと付けていったはずなのに……?」


 水戸美は、ファニールがお守りであるその首飾りを、出発前にちゃんと首から下げる姿を目にしていた。にもかかわらず、その首飾りが床に落ちていた事を不可解に思いながら、水戸美は首飾りを観察する。


「あ!紐が切れてる……」


 そして水戸美はその原因を見つける。首飾りの紐は、一か所が弱くなっていたのだろう、そこで切れてしまっていた。


「それでかぁ……ファニールさんが帰ってきたら、渡さなきゃ」


 そんな事を呟きながら、首飾りをその手の平に乗せる水戸美。


「――!」


 その時であった。水戸美を漠然とした、しかし強い不吉な間隔が襲ったのは。

 心が騒めき、背中に寒い物が走る感覚が、水戸美を支配する。


「……何?この嫌な感じ……」


 水戸美はその感覚が、首飾りが伝えてきた物だという事を直感で感じ、その手の上にある首飾りを、不安な瞳で見つめた。




 水戸美が正体不明の不安に襲われていたその頃、ファニールとクラライナの二人は、草風の村を北上した地点にある、山の麓へと辿り着いていた。

 多数のナイトウルフの徘徊が予想される場所に赴く事から、クラライナの愛馬を用いる事も避け、二人とも現在は徒歩だ。


「ここだね」

「あぁ」


 そして二人は言葉を交わしながら、視線を山の麓の一角へと向ける。そこには、洞窟の入り口が二人を待ち構えるように存在していた。

 二人は周囲を観察し、次いで洞窟内を覗き込むが、今の所ナイトウルフと思しき物の姿は無い。


「よし、中を調べよう」


 ファニールのその言葉と共に、彼女は、そしてクラライナも腰の鞘から剣を抜く。そして洞窟の開口部を潜り、内部へと足を踏み入れた。


「――不気味なくらい静かだ……本当にここが巣穴なのだろうか?」


 内部に踏み込み、警戒しながら少し歩みを進めた所で、クラライナが疑問の言葉を発する。

 洞窟内は今の所物音一つせず、静寂に包まれていた。


「分かんないね。もしここじゃなきゃ、他の所を――」


 クラライナの言葉に返しかけたファニールは、しかしその時、気配と殺気を感じて言葉を切る。

 そして洞窟の奥に目を向けた瞬間、暗闇の中から二匹のナイトウルフが現れ、唸り声と共に二人に向けて襲い掛かって来た。


「やぁッ!」

「はッ!」


 しかし二匹のナイトウルフの牙が届くよりも早く、二人はそれぞれの剣を振るう。

 振るわれたそれぞれの剣はナイトウルフの身を切り裂き、ナイトウルフは「ギャウッ」という悲鳴を上げながら、二人の体の脇を通り抜けて地面へと倒れた。

 ナイトウルフを撃退してのけた二人は、しかし警戒を解かずにさらなる襲撃に備える。が、幸いにもその場でそれ以上の襲撃が来る気配は無かった。


「ふぅ……どうやらこの洞窟で、間違いないようだ」


 そしてこの洞窟がナイトウルフの巣穴である事を改めて確信し、言葉を零すクラライナ。


「だね。さぁ、行こう」


 そして二人は洞窟の奥へとさらに歩みを進めた。




 その後、二人は洞窟内を順調に進み続けた。

 途中二度ほど、先と同様に少数のナイトウルフの襲撃を受けたが、二人はこれらを全て撃退。それらを潜り抜け、やがて洞窟の最深部と思われる、大きな空間へと辿り着いた。


「……いたね」


 暗闇に慣れたファニールの眼が、その空間の中心部に、巨大なシルエットを見る。

 それは、これまでのナイトウルフの数倍――いや、十数倍の大きさの体を持つ、巨大なナイトウルフであった。


「こいつが親玉か?これと比べると、虎も子猫だな……」


 その巨体を前に、圧巻されながらも呟くクラライナ。


「眠ってるのかな?」


 親玉と思しき巨大なナイトウルフは、地面に横たわっていた。その姿に、睡眠中である事を予測するファニール。

 ――その巨体の頭部にある眼が開かれ、暗闇の中で不気味に輝いたのは、その瞬間だった。


「ッ!」


 そしてその開かれた眼が、ギョロリと二人の方向を見る。

 突然開かれ自分達を見た眼に、ファニールはビクリと身を震わせる。

 一方のナイトウルフの親玉は、二人の姿を見止めても、慌てる様子を見せる事は無く、倦怠感を感じさせる動作で、のっそりと起き上がった。

 起き上がった親玉を前に、身構えるファニール達。

 対する親玉は、そんな緊張状態にある二人を嘲るかのように、その頭を上げて大きな欠伸をした。そして――


「グォォォォォォン!!」


 次の瞬間、親玉は二人に向けて顎を開き、咆哮を上げた。


「うわッ!」

「くッ!」


 咆哮は洞窟内で反響し、そして二人に様々な角度から襲い掛かる。

 そして吠え猛た親玉は、二人に向かって重々しくその前脚を踏み出した。


「寝首を掻けるかなと思ったけど、これは正面から戦うしかないね……」


 言いながら、ファニールは腰に差していた松明を繰り出して火を付ける。そしてそれを放り投げて洞窟内に光源を作り、視界を確保する。


「クラライナ、援護お願い!」

「任せろ!」


 言葉を交わすと同時に、ファニールは足を踏み切り、親玉のナイトウルフ目がけて飛び出し跳躍した。

 ファニールの跳躍は常人離れしたそれを見せ、彼女は洞窟の天井にぶつかるギリギリの高さまで飛び上がる。

 そして中空でその両手に握った剣を振りかぶり、落下の速度を利用して親玉目がけて切りかかった。


「でぇやぁぁぁぁッ!」


 そのまま行けば、彼女の剣は親玉の脳天を貫けるだろう。


「ッ!?」


 しかし次の瞬間、親玉はその巨体に見合わぬ素早さで、横へと飛んだ。


「く!」


 目標を失い、ファニールはそのまま地面に着地。攻撃が空振りに終わり、悔し気な声を零す。


「まだまだッ!」


 しかしすぐさま意識を切り替え、ファニールは側面に逃げた親玉を追う。

 地面を足で蹴り、再び親玉の元へと肉薄。今度はその前脚を狙い、ファニールは剣を横に薙いだ。

 しかしその刃が親玉の前脚を切り裂く直前、親玉はまたもその見かけに反した俊敏さで、今度は後方へと飛んだ。

 そして親玉は、跳んだ先にあった洞窟の側壁を後ろ脚で蹴り、その身を反転。ファニール目がけて飛び掛かって来た。


「まずッ!」


 それを目にしたファニールは、地面を蹴り後方へ跳躍。

 直後、先程まで彼女がいた場所に、親玉の巨体が突進により突っ込んで来て、衝突音を上げた。


「あぶなかったー!」


 寸での所で親玉からの攻撃を逃れ、冷や汗を掻きながら言葉を零すファニール。

 一方、親玉は再度の突進を企てているのか、ファニールの姿をその眼で追い、構えの姿勢を取っている。


「隙ありッ!」


 そんな親玉の元へ、クラライナが剣を振りかぶり、襲撃を仕掛けた。

 しかし親玉は攻撃の姿勢を解除し、クラライナの剣が届くよりも早くに側方へと飛び、彼女の攻撃を回避してみせた。


「ッ――見かけの割になんて速さだ!クソ、もう一度……」


 悪態を吐いたクラライナは、親玉の姿をその目で追い、そして追撃を試みようとする。


「クラライナ!上!」


 しかしその時、ファニールからの警告の言葉が響き届く。クラライナが頭上を見上げれば、中空に今まさに彼女に襲い掛からんとする、別個体のナイトウルフの姿があった。


「やぁッ!」


 しかしその牙がクラライナに届くよりも前に、ファニールがその場に跳躍で飛来。クラライナに牙を剥こうとしていたナイトウルフを、その剣で薙ぎ、排除した。


「すまない、勇者様!」

「ううん全然!それより……」


 二人は一度合流して背を合わせ、周囲を見渡す。

 いつの間にか集まっていた、複数のナイトウルフにより、二人は洞窟内で囲われていた。


「集まって来ちゃったねー……」

「あぁ……こいつ等は私が引き受けよう。勇者様は親玉を!」

「分かった!」


 クラライナの言葉を受け、ファニールは他の個体を相方に任せ、親玉へと向かい駆け出そうとする。しかし彼女は親玉へ向かう事を妨害するためか、ナイトウルフ達はファニールへと襲い掛かり出した。


「わっ!」


 一匹の個体が襲い掛かり、ファニールはそれを寸での所で回避する。


「貴様らの相手は私だッ!」


 クラライナはファニールとナイトウルフ達の間に入るように布陣し、ファニールを襲おうとするナイトウルフ達を相手取り始める。

 クラライナは襲い掛かるナイトウルフを一匹、また一匹と屠って行ったが、しかし彼女だけで全てのナイトウルフを止める事は叶わなかった。


「このぉ!って、おわっと!」


 クラライナの手を零れた何匹かのナイトウルフが、ファニールにその牙を剥き、飛び掛かる。

 ナイトウルフ達の妨害により、ファニールは親玉の元へと踏み込む事すらできずにいた。


「ッ、このままでは損耗してしまう……!」


 多数のナイトウルフを相手取っているクラライナが、苦々しい声を上げる。数に物を言わせた賢しい妨害行為は、彼女達を苦戦に陥らせた。


「これ……マズイかも……!」

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