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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター6:「それぞれの道。拡大する不穏――」
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6-2:「勇者と夜闇の獣」

 それから水戸美達は問題無く歩き続け、行程を順調に消化。

 そして今現在は、途中で見つけた木立の木陰で、小休止としていた。


「日が暮れて来たな……」


 休憩を取りつつも警戒監視の姿勢を疎かにしていなかったクラライナが、空を見上げて呟く声を上げる。上空はすでに夕焼け色に染まり、太陽は遥か先に見える山々の向こうへ沈もうとしていた。


「どうしよ?今日はもうこの辺で野営にしちゃおっか?」

「いや――待ってくれ」


 ファニールの発した提案に、しかしクラライナは待ったを掛けながら地図を取り出す。


「ふむ――この近くに〝草風の村〟という集落があるようだ。進路を外れて、少し歩く事になるが、よければそこを尋ねてみるのはどうだろう?」

「村か……どうする?ミトミさん」

「え?」


 唐突に意見を求められ、少し戸惑った水戸美。

 ファニールはそんな水戸美に、その村を訪ね、野営場所を借り受ける事ができれば、その方が安全である事。運が良ければ部屋などを借り受けられるかもしれない事を説明。

 水戸美の体力が許すのならば、少し歩いてでもその村を尋ねてみるほうが、良いであろうという提案を示して見せた。


「あ、私は大丈夫です。まだ十分歩ける余裕もあります」

「よし、じゃあその村を訪ねて見よっか」




「――あれかな?」


 それから予定の進路を外れてしばらく北上した水戸美達の視線の先に、その件の村と思われる集落が見え、先頭を行くファニールが声を上げる。


「――ん?」


 しかしその直後に、今度はクラライナが、何か訝しむような声を零した。


「どうしたんですか?」

「いや……何か、外周を妙に頑丈に固めているように見える……」


 クラライナの言葉を受け、水戸美やファニールも目を凝らして集落の外観を良く確認する。よくよく見れば確かにクラライナの言う通り、村の外周は簡易な柵などではなく、突貫工事のようではあるが木板などが並べ重ねられ、まるで城壁のように固められていた。


「まぁ、今は物騒なご時世だし、珍しいって訳じゃ――ッ!」


 クラライナの言葉に返そうとしたファニールだったが、直後、彼女はその言葉を唐突に途切れさせる。


「ファニールさん?どうし――きゃっ!?」


 それを不思議に思い声を掛けようとした水戸美だったが、彼女の言葉もまた途中で途切れ、そして小さな悲鳴が上がった。

 その理由は、ファニールが水戸美の体を唐突に抱き上げた事にあった。水戸美を抱き上げたファニールは、そのまま大きく後ろに飛ぶ。

 先程まで彼女達が居た場所を、〝何か〟が勢いよく通り過ぎたのはその直後であった。


「な!?勇者様!」


 突然の事態を目の当りにし、クラライナが声を上げる。


「ミトミさん、大丈夫?」

「は、はい――今のは?」


 ファニールは水戸美の体を降ろして後ろへ下がらせ、今しがた自分達へと飛び掛かって来た〝何か〟へと視線を向ける。


「こいつは……」


 彼女の視線の先にいたもの。それは「グルル」と唸り声を上げながら、牙を剥き出しにしてこちらへ明確な敵意を向ける、不気味な紫色の体毛を持つ狼であった。


「ナイトウルフか!?」


 クラライナがその不気味な体毛の狼の正体を口に出す。


「ミトミさん、離れて」


 ファニールは水戸美にさらに下がるよう促すと同時に、自らは前に出て、狼――ナイトウルフの注意を自身へと引き付ける。そのナイトウルフが「ガゥゥ!」と鳴き上げると同時に、ファニールへと襲い掛かったのは次の瞬間だった。


「ファニールさん!」


 その光景に、思わずファニールの名を口にする水戸美。ナイトウルフがファニールの眼前に迫る。

 ファニールがわずかに動きを見せたのは、ナイトウルフが彼女に食らい掛かる直前で会った。瞬間、彼女の前で一瞬だが光線のような物が走る。そしてすれ違うファニールとナイトウルフ。


「え?」


 ドサリと、すれ違ったナイトウルフが地面に倒れたのは、その直後で会った。思わず声を零しながらナイトウルフの姿を見れば、その体からは血と思しき液体が流れ出ている。

 そしてそのまま視線を移してファニールの姿に目をやれば、いつの間に抜剣されたのだろう、その手には彼女の相棒である一本の剣が握られていた。


「た、倒したの……?」

 再び倒れたナイトウルフに目をやり、再び零す水戸美。


「勇者様!」

「あ……」


 しかしそこでクラライナの張り上げられた声が耳に届き、そして水戸美は周囲の状況に気が付く。気付けば、周囲には複数匹のナイトウルフが集まり、水戸美達を囲っていた。


「うん、分かってる――水戸美さん、大丈夫」


 顔を青くした水戸美だったが、そんな水戸美にファニールの言葉が届く。彼女の声と表情は、状況に反して冷静な物であった。


「クラライナ、ミトミさんと村まで行って!ボクが援護する!」

「心得た!ミトミさん、失礼するよ!」


 二人が言葉を交わした直後、水戸美はクラライナの手により、彼女の愛馬の上へと抱え上げられる。


「ひゃ!」


 思わず悲鳴を上げてしまう水戸美。

 水戸美を愛馬に跨がせると、続いてクラライナは自身もすかさず愛馬に跨り、その手綱を握る。


「掴まって――はぁっ!」


 そして水戸美に促し、掛け声と共に、愛馬を走り出させた。

 クラライナの愛馬はナイトウルフ達の包囲を強引にこじ開け、村を目指してその速度を上げる。ナイトウルフは包囲を突破したクラライナ達を追いかけようとしたが、その前にファニールが立ちふさがった。


「いかせないよ~」


 ナイトウルフ達は標的をクラライナ達から、立ちふさがったファニールへと変え、彼女に向けてその牙を剥き、襲い掛かる。

 しかしナイトウルフ達の牙がファニールに突き立てられる事は無かった。

 彼女は人並み外れた俊敏な動きでナイトウルフ達を翻弄し、その愛剣でナイトウルフ達の体を次々と薙いで言った。


「クラライナさん!ファニールさんは!?」


 一方、包囲を突破したクラライナの愛馬の上で、水戸美は残ったファニールを心配する声を上げる。


「勇者様なら大丈夫だ、すぐに追いついて来る」


 そんな水戸美を説きながら、クラライナは村へ向けて愛馬を走らせる。


「もう少し……」


 村を目前にして、呟き声を零すクラライナ。

 しかしそんな彼女達の進行方向に、別働の個体がいたのであろう、一匹のナイトウルフが立ちふさがったのは、その時であった。

 そしてそのナイトウルフは大きく飛び、正面から牙を剥いて飛び掛かって来た。


「ひ!」


 その光景を前に、思わず目を瞑る水戸美。


「ふ!」


 だが、クラライナは臆さずに愛馬を操り、飛び掛かって来たナイトウルフを回避。そして同時に腰から下げてた鞘から抜剣し、すれ違いざまにナイトウルフの体を薙いでのけた。


「――すごい」

「しっかり掴まってるんだ!」


 背後を振り返り、感嘆の声を上げる水戸美。クラライナはそんな水戸美に促し、引き続き愛馬を走らせる。

 やがてクラライナの愛馬は村の入り口の前まで辿り着き、クラライナは手綱を引いて愛馬を停止させる。


「おーい!誰か、誰かいないか!?」


 村の入り口は強固に固められており、そのまま駆け込むことは不可能だった。クラライナは閉ざされた入り口を見上げ、その向こうに向けて声を張り上げる。


「な……なんだいあんた等は!?」


 その声は届いたらしく、入り口に併設されていた櫓に、村人らしき一人の男が現れる。しかしその村人は、突然現れたクラライナ達に困惑している様子であった。


「中に入れてくれないか!ナイトウルフに襲われ、追われているんだ!」


 そんな村人に対して、クラライナは事情を訴える。


「ま、待ってくれ!今入り口を空ければ、ナイトウルフが村内にまで入って来る!それに、アンタ達は一体……」


 しかし村に危険が及ぶ可能性と、正体不明なクラライナ達を前に、村人は入り口を開ける事に難色を示す。それをじれったく思ったのか、クラライナは表情を険しくして声を荒げる。


「今はそんな悠長な事を言ってる場合ではないんだ!早く――」

「クラライナ、焦っちゃダメ!」


 だがその時、クラライナの言葉を遮り、背後からファニールの声が聞こえ来た。


「ファニールさん!」


 聞こえ来たファニールの声から彼女の無事を確認し、水戸美はその名を口に出す。


「あ、あれ?」


 しかし背後を振り向けども、そこにファニールの姿は無かった。


「――え!?」


 そして直後。頭上に気配を感じて水戸美が視線を向けると、そこに――地上から10m近い中空を跳躍し、水戸美達の頭上を飛び越えるファニールの姿があった。


「はいゴメンね!」


 そしてファニールはそのまま、村の見張り櫓の上へと着地して見せた。


「ファニールさん……すごい……」


 その光景に、水戸美はただひたすら驚き、言葉を零した。


「うわっ!な、なんだ!?」


 一方、突然常人離れした跳躍力で櫓へと上がって来たファニールに、村人は困惑と警戒の色を見せる。


「ふぅ――驚かせてごめんなさい。ボクは、魅光の王国の勇者です」


 そんな村人に対して、ファニールは努めて冷静な口調と姿勢で、自らの正体を名乗って見せた。


「ゆ、勇者……!?」


 ファニールの自己紹介の言葉に、村人の顔に別種の驚きの様子が浮かぶ。


「突然、押しかけた上のお願いで申し訳ありません。ナイトウルフ達はボク達が何匹か倒して、今は仲間を失って怯んでいます。どうか今の内に、ボクの仲間を村に入れてはもらえませんか?」

「ほ、本当か……?」


 ファニールの説明の言葉に、村人は驚きながら村の外部のその先へと視線を移す。

 そこから少し離れた地点に、点在するナイトウルフの死体らしき物と、警戒しているのか、その場からそれ以上接近してこない、ナイトウルフ達の姿が見えた。


「わ、分かった……おーい――!」


 少なくとも目前の安全が証明された事で理解が得られたのか、村人は見張り櫓から村の内側へと声を送る。やがて固く閉ざされていた村の入り口が開かれ、水戸美達は村の中へと入る事ができた。




 村内へと避難することが出来た水戸美達は、しかし突然現れた一行に驚いた沸いた村人達に囲われ、ちょっとした騒ぎに揉まれる事となった。

 だが、やがてその場にこの村の村長を名乗る壮年の男性が現れ、水戸美達は村長邸へ案内される事となった。


「成程……魅光の王国の勇者様である事、間違いないようですな」


 そしてその村長邸の一室で、机を挟んで水戸美達と村長は対面している。

 机の上には、ファニール達の出身国である魅光の王国が出した証明書や、近隣提携国の証明書などが並べ示されている。


(すごい……)


 どれも描かれた紋様や文字列などが発光し、浮かび上がっており、その様子に水戸美は、何度目かも知れない驚きの言葉を内心で浮かべていた。


「此度は失礼の上、村にお入れするのが遅れて申し訳ありませんでした。危険な目に遭われていたというのに……」


 そしてファニール達の身分を確認し終えた村長は、彼女達に謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。


「いえ、あの状況では無理のない事です。ボク達こそ、突然押しかけて驚かせてしまって、申し訳ありません」


 それに対して、ファニールも謝罪を返して頭を下げ返す。


「クラライナは、緊急事態となると交渉事とかを軽視しがちになっちゃうんだから。ああいう時程、冷静にね?」

「面目ない……」


 そしてファニールに説かれ、クラライナも申し訳なさそうにしながら頭を下げた。


「頭をお上げください。それより、お怪我などなかったようでなによりです」


 そんなファニール達に対して村長は促し、発する。あまり穏便とは言えなかったファニール達と村のファーストコンタクトだったが、互いの事情が理解され、この場で両者により謝罪が交わされた事で落としどころとなった。


「――所で、この村がここまで頑丈に守りを固めているのは……」


 そこでファニールは、話題をこの村の状況を尋ねる物へと切り替える。


「えぇ、ナイトウルフへの対策です――」


 村長はファニールの言葉を肯定し、説明を始める。

 聞けば、ナイトウルフによる被害に悩まされ始めたのは、半月ほど前くらいからだと言う。元々ナイトウルフそのものの生息は、それ以前より村の近隣でも稀に確認されていたそうであった。しかしその半月ほど前を境に、ナイトウルフは急に活動を活発化させ、何より目に見えて獰猛姓を増し、村に被害を及ぼすようになったとの話であった。

 ナイトウルフは村の近辺に群れで出没しては家畜を襲い、田畑を荒し、時には村人にも牙を剥くと言う。そして本来夜行性であるはずのナイトウルフ達は、しかし異変後は日中も少数のグループが徘徊するようになり、猟や収穫などにも大きな影響が出ている事を、同席していた村人達は零した。


「明らかな異常事態ですね……国などに対応の要請などはされていないんですか?」


 ファニールの尋ねる言葉に、村長は首を横に振り、再び説明の言葉を口にする。

 近隣の町に駐留する国の警備隊に、対応の要請は出したそうだ。しかし警備隊からは「別案件に追われているため、村に部隊を派遣する事はできない」という、何か漠然とした突っぱねるような返事が返って来たと言う。


「えぇ……何それ」

「やはりこの国、何かあるな……」


 一連の説明を聞かされ、ファニールとクラライナはそれぞれそんな言葉を零す。


「皆、国の異変には感づいてはいます。しかし、現状はそれを探る所か、こうして目先の困難を解決することも、ままならずにいる事が現実です……」


 村長は二人の言葉を肯定するように言い、そして重々しい口調で現状を嘆く言葉を呟いた。


「お恥ずかしながら村は現在この有様で、安全をお約束する事すらままならない状況です。明け方には出没するナイトウルフの数もいくらか収まります。皆さんはその隙に村を発たれ、この地を離れられた方がいいでしょう」


 ファニール達にそう促した村長は、最後に「せっかくご来訪いただいた勇者様方を、満足にお迎えする事もできずに申し訳ない」と、謝罪の言葉を紡いだ。


「……あの」


 しかし一方のファニールは、少し何かを考えた後に、村長に向けて口を開く。


「差し出がましいかもしれませんが……ナイトウルフの討伐を、ボク達に任せてもらえませんか――」




「――ナイトウルフの巣穴自体は、この村から北にある山の麓に、確認されてるって事だったね」


 草風の村の村長邸にある、来客用の一室。その室内に、話し合うファニールとクラライナ、そして水戸美の姿があった。

 自分達に、ナイトウルフの討伐を任せてもらえないかと村長等に申し出たファニール。

 村長や村人達はその申し出に驚き、そして危険であることを訴えた。しかし重ねてのファニールの強い申し出に、彼女の言葉が驕りや半端な覚悟から出た物では無い事を察し、村長達はファニール達に、ナイトウルフの討伐を託す事に決めた。


「ナイトウルフは集団で行動する生き物だ。まして、ここまで多くの数が大規模に活動しているという事は、その巣に群れを統括しているボスがいるはずだ」


 ファニールの言葉に続けて、クラライナがナイトウルフの生態についての説明を述べ、次いで推測の言葉を発する。


「それを倒せば……」

「うん。少なくとも、組織的な行動は出来なくなるはずだよ。ボク達は明日の朝に、その巣穴に踏み込む」

「朝ですか?」


 ファニールの言葉に、水戸美は疑問の声を零す。


「昼にもいくらかの個体が活動しているようだが、大半のナイトウルフは夜に活動する。だから、多くの個体が活動を終えて疲弊している、明け方を狙うんだ」

「相手にする数は増えちゃうけど、それでも疲弊している所を狙う効果は大きいんだ」

「成程……」


 クラライナとファニールの説明に、水戸美は納得の呟きを零した。


「――といっても、危険な場に踏み込む事に代わりはないから、ミトミさんは村で待っててね?ナイトウルフは、ボクとクラライナで退治して来るよ」

「あ、はい……」


 ファニールのその言葉に、水戸美は心配と、自分だけが残る事に後ろめたさがあるのか、表情を曇らせる。


「そんな心配そうな顔をしないでくれ。大丈夫だ」


 そんな水戸美の不安を解そうとクラライナは発し、そしてファニールとクラライナは、水戸美に笑顔を作って見せた。




 話し合いが終わった後にファニールとクラライナは、明朝に討伐に向かう旨を村長達に報告すべく、部屋を一度出て行った。


「……すごかったな、ファニールさんもクラライナさんも……」


 一人部屋に残った水戸美は、椅子に腰掛けて呟き零している。

 思い返していたのは、先程ナイトウルフの群れの襲撃を潜り抜けた際の、ファニールとクラライナの姿だ。


「ファニールさんなんて凄い身体能力だったし、それに二人とも全く臆さずに状況に対応してた……勇者と騎士、か……」


 改めて二人が常人離れした存在である事を実感しながら、物思いに耽る水戸美。

 そうしている内に少しの時間が経過し、部屋の扉が開かれ、ファニールが部屋へと戻って来た。


「戻ったよ~」

「あ、お帰りなさい。――あれ?クラライナさんは?」


 水戸美は戻ったのがファニール一人であり、クラライナの姿が無い事に疑問の声を上げる。


「あぁ、クラライナは馬ちゃんの所に行ってるよ」


 そんな水戸美に、ファニールはクラライナが愛馬の元へ赴いている事を説明した。


「クラライナにとって――いやボクにとってもだけど、馬ちゃんも大事な旅の仲間だからね」

「成程……」


 ファニールは語りながら上着を脱ぎ、一本の三つ編みにしていたその後ろ髪を解こうとする。


「うーん、うまく解けない」

「あ、わたしが」


 しかし自らの髪を解くことに苦戦するファニール。そんな彼女に手を貸すべく、水戸美が声を上げた。

 水戸美はファニールをベッドに座らせ、彼女の三つ編みを解いてゆく。


「あはは、ありがと」

「いえ」


 言葉を返しながらも三つ編みを解き終えた水戸美は、続けて解いたファニールの髪を丁梳かし始める。


「……っと」


 その途中で、指先に何か髪とは別の物が引っかかる感覚に気付く。

 確かめて見るとそこで水戸美は、ファニールの首に掛かる紐に気が付いた。


「あぁ、ごめんごめん」


 同様にその事に気付いた、自身の首から下がるその紐を取り外す。

 それは、首飾りであった。銀で形作られ、小さな赤い結晶が中心に付いている。


「お守りなんだ。国も出る時、ボクのお姉ちゃんが持たせてくれたんだ」

「ファニールさん、お姉さんが?」

「うん、二つ上のお姉ちゃんなんだけどね――」


 ファニールの話を聞きながら、水戸美はファニールの髪を梳く行為を再開。

 ファニールの姉や故郷の話に、水戸美は興味深げに耳を傾け、また少しの時間が経過。そんな折に再び部屋の扉が開かれ、クラライナが戻って来た。


「あ、おかえり~」

「あぁ、戻った。――おや」


 戻って来たクラライナは、返事を返すや否や、二人の姿をまじまじと見つめだした。


「ど、どうしました……?」


 唐突に見つめられ、若干の困惑の声を零す水戸美。


「あぁ、いやすまない。そうしていると、ミトミさんがまるで勇者様の姉君のようだと、思ってしまってね」

「え?」


 そしてクラライナからの思っても見ない言葉に、今度はキョトンとした表情を作る水戸美。


「あ、そういえばそうかも。ミトミさん、お姉ちゃんとちょっと雰囲気も似てるし」

「そ、そうなんですか?」

「えへへ……おねえちゃ~ん」

「ふわっ!?」


 水戸美は丁度ファニールの髪を梳き終わった所であり、それを見計らったかのように、ファニールは水戸美の膝上へと寝転がった。


「おいおい、ミトミさんが戸惑ってるぞ」

「えへへ~」


 クラライナが呆れた声を上げるが、ファニールは構わずに水戸美の膝に顔を埋める。


「……ふふ」


 そんなファニールを微笑ましく思ってか、水戸美はファニールの髪をそっと一撫でした。

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