5-4:「問題隊員無事確認」
場所は制刻等のいる窪地へと戻る。
《生きてるわドアホウッ!勝手に殺してくれてんじゃねぇ!》
大型無線機の受音スピーカーから、竹泉の苛立ち混じりの声が流れ聞こえて来た。
制刻は再度竹泉への通信を試み、結果彼からの応答を受け取る事に成功した。
「無事なようだな」
《あぁ、一応な!今さっきまで、どえらい目に遭ってたトコだけどなぁ!》
制刻の問いかけに、竹泉の皮肉気な言葉が返って来る。
「どえらい目?皺共に襲われたか?それとも、蜘蛛のバケモノとやらか?」
「あぁ、そっちもすでに知ってるか。なんともうれしい事に、両方のお得なセットだよ!マジでヤバかっんだぞ!たった今さっきまで、蜘蛛のバケモンと鬼ごっこの最中だったんだ!」
質問の言葉に、竹泉は捲し立て返してくる。
「そいつぁ、大したもんだ」
それに対して、制刻は端的な皮肉の言葉を発する。
《うるせぇ。それとよぉ、こっちゃ逃げてる最中に、多気投とはぐれちまった》
「投(多気投)なら今さっき、こっちで拾った。大体何があったのかも、聞いた所だ」
《そうかい、なら是非とも早いトコ救出頂きたいモンだね。あのバケモン相手に、こっちだけじゃどうにもならねぇ》
竹泉は喚き立て、早期の回収の要請を寄越す。
「オメェ、ハチヨン(84㎜無反動砲)はどうした。その化け蜘蛛相手に、試さなかったのか?」
対戦車火器射手である竹泉は、84㎜無反動砲を装備しているはずであった。制刻はその事を尋ねる。
《んな余裕あるワケねぇだろ!ただでさえ鬼ごっこで必死だった上に、周りは遮蔽物だらけで射線も安全距離もスペースも確保できやしねぇ。おまけにこっちゃお一人様。悠長にノロノロ装填してたら自殺行為もいいトコだ!――ああ少し違った、お一人様ではなかったわ。足手まとい様が、もう一名追加だったな》
《あ、足手まといってあたしの事ッ!?》
竹泉がうるさく捲し立てたその後、無線の向こうから別の声が混じり、聞こえて来た。
「待った!今の声はティ――?妹は無事なのか!?」
その声が妹のティの者である事に気付いたディコシアが、横から言葉を挟んだ。
「竹泉、案内のねーちゃんもそこにいるのか?」
《あぁ!一々喚き散らかしてうるせぇのなんの――》
「んじゃ竹泉、ねーちゃんに一旦インカムを渡せ」
制刻は発されかけた竹泉の愚痴を抑え込み、指示を発する。
「兄ちゃん、これに向けて喋れ。そうすりゃ、向こうと会話ができる」
そして傍で通信を聞いていたディコシアに、大型無線機のマイクを渡した。
「あ、あぁ……――ティ、聞こえるか?」
ディコシアは戸惑いつつもマイクを受け取り、そして恐る恐るといった様子で、マイクに向けて声を発する。
《うわわっ!》
すると大型無線機の受音スピーカーから、ティの物と思われる声が流れて来た。
《すっごい、ほんとに聞こえて来た!兄貴の声だ!》
流れ聞こえて来るティの声は、無線機の機能に驚いているのか上擦り、そして何よりはしゃいだ様子であった。
「お、おいティ。大丈夫なのか?怪我はしてないか?」
《あ、えっと一応大丈夫。大変だったけど、怪我とかはしてないよ》
「そうか、良かった」
ティからのその報に、ディコシアは胸を撫でおろす。
《っていうかコレ凄いね!珍しい音声魔法だよ!詠唱や前準備も特に無しに、発動できるみたいだし!》
ティは初めての無線通信を体験し、大分はしゃいでいる様子であった。
「そ、そうか……」
そんな妹の様子に、ディコシアは少し困惑した声を零す。
《ねぇねぇ、これ他にもなんかできたり――》
《要点だけ言ったらはよ外せトロカス!まだ、ヤツの脅威は去ってねぇんだぞ》
《わわ!?》
しかしそこで竹泉の声が割り込み、そしてティの台詞は途絶えて雑音が入る。どうやらティに貸し渡されていたインターカムを、竹泉が強引に奪い戻したらしい。
そして受音スピーカーからは再び竹泉の声が響き出した。
《――とにかく!こっちだけじゃどうしようもねぇ。今は無事だが、早いトコ対策を打たねぇと、最悪末路は化け蜘蛛の腹ん中だぞ!》
「落ち着け。そっちは今、どの辺だ?」
竹泉の声に対して、ディコシアからマイクを返された制刻が答え、尋ねる。
《さぁな、見当もつかねぇ。あっちこっち逃げ回ったからな》
「見つけるのは、難しそうですね」
竹泉からの言葉に、策頼が横から言葉を挟む。
「信号弾上げますか?」
「得策じゃねぇな。こっちの位置が皺共にも知れて、またパーティーになる可能性がある」
策頼の進言に、制刻はしかしその危険性を発する。
「ハハァ!またトマト祭りと行くかァ!?」
多気投が陽気に言葉を発したが、制刻等はそれは無視した。
「兄ちゃん、この森ん中に、なにか合流の目当てになりそうな場所か物はねぇか?」
「目当てかい?この近くなら、南下すれば川が流れてるけど……」
制刻の問いかけにディコシアは答えるが、その言葉には難色が含まれていた。
「川を目指すにしても方角が分からないと……向こうは現在位置を見失っているんだろう?この深い森の中で、方角を調べるのは無理だし……」
「いや、方角なら竹泉の方でも分かる」
懸念の色を見せたディコシアに、しかし制刻は言う。そして自身の胸元から、方位磁針を取り出して見せた。
「それは――随分小さいけど、ひょっとして羅針盤の類かい……?」
「あぁ」
ディコシアの推測の言葉を、制刻は肯定して見せる。
「竹泉の方でも、これで方角は分かる。その川に出させれば、そのまま川に沿って合流できるはずだ」
「本当に色々できるね、君達は……」
ディコシアは、関心とも呆れとも付かない声を零した。
「竹泉。南下すれば川が流れてるらしい、そこを目指せ。川に出たら、その場で待機しろ。俺等の方で、お前等を川沿いに探して拾う」
制刻は竹泉に向けて無線越しに指示の言葉を飛ばし、そして自分等の方で彼等を捜索する旨を伝えた。
《あぁ、了解だ。是非とも急いでもらいたいモンだね》
「切るぞ」
制刻は竹泉の皮肉気な言葉は聞き流し、通信を終了した。
「それじゃ、俺等もその川を目指すぞ」
制刻は大型無線機を多気投に渡しながら、各員に向けて発する。
「所で、そのバケモノ蜘蛛にまた出くわしたらどうするんだ?君達で、なんとかできるのかい?」
そこへディコシアが懸念の声を発する。
「その化け蜘蛛とやらがどれほどの脅威度なのか掴めねぇが、竹泉に合流すれば対戦車火器が使える。それで相手してみるしかねぇ」
発する、制刻は多気投に視線を向ける。
「投。予備弾はちゃんと持ってんな?」
「あぁ。栄えあるハチヨン射手である竹しゃまに代わって、たーっぷり持ってるぜ」
問いかけに対して、多気投はふざけた調子で言って見せる。
「よく分からないけど……策はあるんだね?」
「竹泉に、盛大な花火を上げてもらうとしよう」
やり取りに、ディコシアは少し不安げにしながらも発し、続けて策頼が呟いた。
「時間が無い、行くぞ」
そして制刻が促し、各員は窪地を後にし、川を目指して南下を始めた。
視線は再度、竹泉等の元へと移る。
二人は救援に来た制刻等との合流を目指し、森の中を南下し進んでいた。
「糞見晴らしが悪ぃな……」
竹泉は愚痴を吐きながらも、周囲に警戒の目を向け、時に手にした方位磁針に目を落としながら、脚場の悪い森の中を、一定のペースを維持して歩み進んでいる。
「ちょ…待ってよ……!」
しかし同行者であるティは、ペースを維持できずに、竹泉のやや後方を息を切らしながら歩いていた。
「ったく、もうちっとキビキビ動けねぇのか?この森はオメェさんのホームじゃねぇのかよ?」
一度歩みを止めて振り向き、追いついて来たティに対して呆れた言葉を零す竹泉。
「ぜぇ……しょうがないじゃん!あたし正直あんまり体力ある方じゃないし……!それに普段、長い距離の移動には、転移魔法使ってるから……」
「あぁ、そういやそれだ。その転移魔法とやらで、この森から脱出できねぇのか?」
転移魔法の言葉を聞いた竹泉は、ティに向けて尋ねる。
「使えなくはないけど……目視できない場所へ飛ぶのは、その場所に何があるか分からないから危険が伴うよ?昨日、兄貴にもやるなって注意されたばっかりだし……」
しかしティは、そんな説明を返した。
「んなリスクがあんのかよ」
「事前に転移魔方陣を接地しておけば、遠地でも安全に飛べるけど……」
「あぁもういい、素直に自由等と合流すっぞ」
「むぅ」
あしらうように言った竹泉に、ティは不服そうに声を零す。
その後二人はしばらく進み、やがて森を抜けて件の森の中を通る川へと出た。出た先はそれなりに開けた砂利場が広がっており、その向こうにはそれなりの幅がある川が流れていた。
「やっと出たぁ……」
やっとの事で森を抜け、ティは零しながら膝に両手を付く。
「ヘッド自由、聞こえっか?こちら4-2竹泉。こっちゃ森を抜けて川に出たぞ」
一方の竹泉は、インカムを用いて制刻へと通信を送る。
《オーケー、俺等が到着するまで、そこで待機してろ。その間、十分警戒しろ》
「わーってる、そっちこそ急げよ」
通信を終えると、竹泉は川沿いの砂利場へと出て周辺を見渡す。辺りは開けており視界は良かったが、その分遮蔽物も少なかった。
「こっちはこっちで、良い事ばかりの環境とも言えねぇな」
そうぼやく竹泉。彼が自分等に向けられた害意を察知したのは、その次の瞬間だった。
「――ッ!隠れろ!」
「え――わっ!?」
竹泉はティを側にあった岩の影へと突き飛ばし、そして自らもそこへと飛び込む。
森の方向から手斧が飛来し、二人が身を隠した岩に音を立てて命中したのは、その直後であった。
「ぐぇ――な、何すんの――!?」
岩場に強引に転がり込まされたティは、抗議の声を上げようとする。
「顔を出すなッ!」
「ふんぎゃッ!」
しかしティは竹泉に頭を押さえつけられ、砂利場に顔をうずめた。
「――チッ!」
岩の影から慎重に視線を出し、自分達が出て来た森の方向を確認する竹泉。
そして複数匹からなるゴブリンの群れが、森から湧き出て来る姿をその目で確認した。
「厄日だぁ……」
一方、砂利に顔を埋めたティは、しくしくと悲し気な言葉を零している。
「嘆くのは後にしろ!皺共が森から湧いて出て来やがった!」
「またぁ!?」
「応戦する。オメェは顔出すなよ!」
竹泉はティに忠告すると、ホルスターから再び9mm拳銃を抜き、構えて照準を覗き、ゴブリン達へ向けて発砲を開始した。
最初の発砲音が響くと共に、森を出てこちらへ向かって来ていたゴブリンの内の一体が、9mm弾により撃ち倒される。
「次、お前だ!」
竹泉は次の個体へ向けて照準を付け、再び引き金絞る。しかし撃ち出された2発目の9mm弾は、命中弾とはならなかった。
そのゴブリンは開けた砂利場の上で、左右に素早く跳躍しながらの前進を始めたのだ。
「野郎ブサイク、ちょろちょろすんなッ!」
竹泉は照準方法を変更し、ゴブリンが次に身を置くであろう予測地点に照準を付けて、再び発砲。予測射撃は功を成し、ゴブリンの跳躍先と9mm弾の弾道は合致。
ゴブリンは自ら弾を受けに行く形となり、9mm弾をその身に受けて、その場に崩れ倒れた。
しかしその間に、ゴブリン達はさらに森から出てきて数を増し、数の暴力で竹泉等へと迫っていた。
「ひぇぇ、いっぱい来たぁ!」
「あぁ畜生、どんだけいんだよ!手持ちの弾も少ねぇ――こいつぁやべぇぞ!」
狼狽する声を上げるティ。
そして竹泉はゴブリン達の数と、自身の保有弾数を鑑み、自分達が不利な状況に置かれた事を察し、首元に一筋の汗を垂らした。




