4-3:「訪問・遭遇・発見」
長沼等は青年に案内され、玄関扉を潜って家屋内の一室へと足を踏み入れた。
「親父、お客さんだ」
青年は、室内に居た彼の父親へと声を飛ばす。
青年の父親は窯の前で椅子に座り、鋭い目を入って来た長沼等へと向けていた。
さらに父親の片手は、彼の膝の置かれた剣に乗せられており、父親は明確な警戒の姿勢を、長沼等へと見せていた。
「驚いた事に、今さっき話した不思議な一団さん達だよ」
そんな父親に向けて、青年は説明して長沼へと視線を移す。
「はじめまして。私は日本国陸隊の長沼と申します。この度は、突然押しかけてしまい申し訳ありません」
長沼は青年の横へと歩み出ると、父親に向けて会釈をし、そして挨拶の言葉を発した。
「なんでも、ハクレンさんの紹介でウチを訪ねて来たらしい。そしてこの人達は、どうにも地下油が目的らしいんだ」
「ハクレンから?――それに、地下油だと?」
そして続いた青年の補足の言葉に、父親は訝し気な表情を作る。
「はい。こちら――スティルエイトさんの所有する領地内に、地下油の採掘施設があるとお伺いしまして、私達はそちらを使用させていただけないか、交渉させていただきたく、お訪ねさせていただきました」
そんな父親に、長沼は説明の言葉を紡ぐ。
「……わざわざ訪ねて来た所を悪いが、地下油の採掘井戸はちょっと前にぶっ壊れちまった所だ。だから今、地下油をくみ上げる事はできねぇぞ」
「あぁ、それも説明した。だから彼等、採掘井戸を自分等で修理させて欲しいって言うんだ」
「何?」
青年が再び挟んだ補足の言葉に、父親はより訝し気な顔を作る。
「私達にとって、その地下油は重要な資源と成りうる物なのです。もしご不都合、ご迷惑などなければ許可を。そして採掘できた地下油をお譲りいただけないかと思うのですが。もちろん対価は払わせていただきます」
そんな父親に向けて、説明し、願い入れる長沼。
「………ふん、好きにしな」
父親は長沼に向けて、ぶっきらぼうに一言言い放つと視線をはずす。そして膝の上にあった剣を持ち上げて睨み、検査作業を再開した。
「よろしいのですか?」
「どうせたまたまウチの領地内にあったモンを、家計の足しにとちょこちょこ拝借してただけのモンだ。ただし――領地内で面倒事だけは起こしてくれるなよ」
父親は一度じろりと釘を刺す言葉と共に長沼等を睨むと、再び手元の剣へと視線を落とした。
「ありがとうございます。それと、その上で私達は、短くない間こちらへ逗留させていただく事となりそうなのですが、それはご迷惑とならないでしょうか?」
「あぁ、それは別にいいよ。最近は物騒になってめっきり減ったけど、ちょっと前までは旅人や商隊がキャンプを張って一時的に逗留する事も、珍しくなかったから」
長沼のその質問には、青年が答えて見せた。
「申し訳ありません。では、その採掘施設の場所を――」
長沼が発しかけたその時だった。
「おぁッ!?」
「うひゃぁッ!?」
家屋の外から、そんな複数の叫び声が、飛び込み聞こえて来た。
「あんだぁ?」
「今の声――」
制刻が訝し気な声を上げ、青年が何かに気付いたように発する。
そして父親を除く全員が玄関扉を潜って外へと出ると、車列の近くに驚き佇む、籠を抱えた一人の銀髪の少女の姿が。そしてそれを遠巻きにしながら、驚愕の表情を浮かべている竹泉を始めとする隊員等の姿があった。
「ありゃぁ――」
制刻が思い出したように声を零す。その銀髪の少女は、先程燃料調査隊の車列が丘を迂回した際に、出くわしすれ違った少女に他ならなかった。
「何事だ?」
青年や制刻等は少女や隊員等へと小走りで駆け寄る。そして長沼が隊員等に向けて、問い尋ねる声を発した。
「人だ――人が突然現れやがった!」
その声に、困惑の混じる険しい表情で返したのは竹泉だ。彼の視線は、少し離れた位置で佇む少女に向けられている。
「あわわ……」
一方の少女は、その場で動揺して立ち尽くしていた。
「〝ティ〟、こっちだ」
そんな少女へ、青年が声を掛ける。青年に〝ティ〟と呼ばれた彼女は、青年の姿に気が付くと、慌てた様子で彼の元へと駆け寄って来た。
「あ、兄貴~!何なのこの人達ぃ……?」
駆け寄って来た彼女は、青年に向けて困惑した様子で尋ねる。
「お前が月橋の町で聞いて来た、勇者と共に合われたっていう不思議な一団の人達だよ。なんでも、ハクレンさんの紹介でウチを訪ねて来たらしい」
「え、ええ~……?」
青年の説明に、しかし少女はより困惑した声を上げた。
その一方、長沼は竹泉の投げ寄越した声に、怪訝な表情を作っていた。
「人が突然?どういうことだ?」
「そのまんまですよぉ!何もない空間に、何の前触れも無く突然人が現れやがったんだ!」
長沼の質問に、竹泉は声を荒げ、相変わらずの上官に対するそれとしてはかなり無礼な言葉づかいで、目撃した事態を訴える。
「ちょいと説明してくれるか?」
それを端から聞いていた制刻が、青年と少女の方を向き、尋ねる。
「あぁ、それはこいつの転移魔法だよ」
「転移魔法?」
発された青年の言葉に、今度は河義が言葉を返す。
「あぁこいつ――俺の妹なんだけど――こいつは転移魔法を使う事ができるんだ。たぶんあんた達の仲間は、その着地の瞬間に遭遇したんだろう」
「ほう、成程。あの距離のある丘ん所から、この短時間でここに現れたのは、そういう訳か」
青年の説明に、制刻は納得したように呟いた。
「ティ、お前また着地先が見えない長距離を飛んだな?危ないからやめろって言っただろ」
「だって~、家の前なら安全だとおもったんだよ~……こんな人達が居るなんて思わなかったもん……」
青年の何かを咎める言葉に、ティと呼ばれる彼女は依然動揺した様子で発する。
「はじめまして、私達は日本国陸隊という者です。私達の突然の来訪で、驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
そんな二人の元へ長沼が立ち、長沼はティと呼ばれた少女に向けて謝罪の言葉を発した。
「ああ、謝らないでくれ。これに関しては、着地先を確認せずに飛んだティの落ち度だ」
そんな長沼に、青年はそう返した。
「今度は空間を跳躍できる摩訶不思議かよ、バリエーション豊富で飽きねぇなぁ!――でぇ、肝心の原油の話は結局どうなったんですぅ?」
そんな所へ、嫌味の含まれた声が飛んでくる。見れば長沼の背後に竹泉が立っており、そして竹泉は続けて、原油についてがどうなったのか尋ねる言葉を発した。
「あぁ。こちらの所有者から、使用させていただける許可はもらえた。ただ、その採掘施設は現在故障しているらしく、まずは修理可能な物かどうかを、見させてもらおうとしていた所だ」
竹泉に対して、長沼は説明する。
「そいつぁ、一々面倒な事で。だったらとっとと拝見しに行きましょうぜぇ。そもそもまずは、ここの地下油とやらイコール原油なのかどうかも確認しねぇとなぁ。ここまで来て〝実はイカ墨でした〟なんてオチだったら目も当てられねぇ!」
長沼の説明を聞き、竹泉は相変わらずの態度で捲し立てる。
「ブツ自体は、研究者のねーちゃんの所で、イコール原油なのを確認してる。その出所がここだって話だ、心配ねぇだろう。だから、オメェは静かにしてろ」
「ケッ」
制刻の説明と続けての釘を刺す言葉に、竹泉は吐き捨て返した。
「悪ぃな、あのうるさいヤツの事は無視してくれ」
「あ、あぁ……」
そして発された制刻の言葉に、青年はやや困惑しながら返す。
(この人凄い見た目だな~……)
その横でティと呼ばれた少女は、制刻の風貌を見て内心でそんな感想を浮かべていた。
「ところで何の話だったの?」
そこで少女は、先の隊員等のやり取りを思い返し、疑問の言葉を発する。
「あぁ、彼等がウチを訪ねて来たのは、地下油が目的らしいんだ」
「地下油?鉱山跡にある井戸の?あんなもんのためにわざわざウチに?」
「俺もよく分からないが、彼等にとっては重要な物らしい」
青年は自身の妹にそう説明し、長沼等へと視線を向ける。
「それで、その採掘井戸の場所だったね。案内するよ」
「いいんですか?スティルエイトさん?」
青年の申し出に、長沼はやや驚いた様子で発する。
「構わないよ、今は丁度暇になる時間帯だし。ああそれと、名字は何か堅苦しいな。俺は〝ディコシア〟でいいよ。で、もう言ったけどこいつはティ」
青年改めディコシアは自身の名を名乗り、そして妹を紹介して見せた。
「さて――じゃあ馬を出さないとな。その採掘井戸までは、少し距離があるんだ」
「あ、じゃああたしも途中までついてこ。あっちの辺で取れる野草も採っときたかったんだよね」
そう言い、二人は身を翻し、彼等の住居に併設されている馬小屋へと歩いて行った。
「ではお言葉に甘えて、彼等の案内を受けよう。半数はここで待機。もう半数の人員で、その採掘施設の確認に行くぞ」
ディコシア達の姿を見送った後に、長沼は各員へと指示の言葉を発した。
それから数分後。
燃料調査隊の内のピックアップされた半数と、ディコシアとティの兄妹は、スティルエイト邸を発って敷地内を進んでいた。
先をディコシアとティのそれぞれ操る二頭の馬が進み、その後方を安全距離を保ちつつ、一輛の旧型小型トラックと、一輛の大型トラックが追走していた。
「道が悪くなってきました」
「速度を乱して、彼等との距離を詰め過ぎないようにな」
小型トラックの運転席で、ハンドルを握る策頼が発し、助手席の河義がそれに返す。
途中までは草原にできた轍に沿って進んでいた彼等だったが、やがて進路は轍から外れ、草原の緑はだんだんと少なくなり、今現在は乾いた地面の露出した荒地を進んでいた。
「――あれか?」
少し間乾いた荒地を進んだ所で、河義は進路の向こうに人工物らしき物を見た。広い荒地の真ん中に、櫓のような物と、小さな小屋がポツンと立っていた。
やがてディコシア達の乗る馬と隊の車輛はその採掘施設と思しき人口物の元へと到着。それぞれは適当な所へ馬を、そして車輛を止めて降り立った。
「こちらですか?」
大型トラックの助手席から降り、ディコシアの元へと歩み寄って来た長沼は、目の前に立つ櫓を眺めながら、彼へと尋ねる。
「あぁ、そうだよ」
ディコシアは長沼の問いかけに答えると、その櫓に向かい、長沼もそれに続く。
櫓の根元には、採掘装置の地表部分の物と思われる機械があった。最低限の簡素な作りの機械であり、この採掘施設自体が、比較的簡易的な物なのであろう事が伺えた。
「あまり複雑そうな装置ではなさそうだな……それでディコシアさん、故障個所というのは?」
「ああ、故障なんて言うとおおげさだけど、装置の一部を支えてる、櫓の滑車が落ちちゃっただけなんだ。ただ、それでも自分達だけで修理しようとなると手間でね。そのままになってるんだ」
「成程――」
ディコシアの話を聞いた長沼は、背後に振り向く。そこには、同行して来た施設科の隊員等が待機していた。
「麻掬三曹。どうだろう、直せそうか?」
長沼はその施設科班の長である、麻掬という名の三曹に尋ねる。
「滑車を直すだけなら簡単ですが――ざっと見たかぎりでも、この施設はだいぶ老朽化が進んでいるように見えます。少し全体を見させてもらってもいいですか?」
麻掬の分析の言葉と申し出を受け、長沼は採掘施設の所有者であるディコシアへと再び視線を向ける。
「あぁ、構わないよ」
「ありがとうございます。では皆、頼む」
ディコシアの許可と長沼の言葉を受け。麻掬を筆頭とする施設科各員は、採掘施設の調査へと掛かって行った。
「でぇ、こっから出てくんのはホントに墨汁やイカ墨じゃなく原油なんですかねぇ?」
「しつこいなお前も」
そこへ少し離れた位置に立っていた竹泉が言葉を寄越した。彼は皮肉気な表情で、採掘施設をしげしげと眺めている。そしてその横に立っていた河義が、呆れ顔で言葉を零した。
「いやしかし、できればここで採掘できた物の実物を確認したい所だな」
だが長沼は、竹泉の疑心に同調する言葉を発する。
「それなら小屋に汲み置いて出荷してない分があるから、それを見るかい?」
「あぁ、そりゃいい。竹泉のイカ墨オーダーも、実物を見りゃ静かになるかもな」
ディコシアの発案に、制刻が竹泉をおちょくるように発する。
「言ってろ」
竹泉はそれに対して吐き捨てるように返すと、制刻の脇を縫って、併設されていた小屋へと向かった。
結果として、採掘施設から採掘されている物は、原油で間違いない事が確認された。
そして採掘施設の各所はやはり原油を扱う場だけあってか、各が油に塗れており、採掘装置を調べていた施設班。そして小屋内をついでに調べた制刻や竹泉等は、一様に油汚れに塗れる事となった。




