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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター4:「力を保つ手段を探して」
56/224

4-2:「異質な来訪者」

 同時刻。

 月読湖の国の北東。〝月流州〟のある地域。


「大量大量!この辺は薬草の宝庫なんだよね~」


 そこに聳える丘の麓に、薬草がいっぱいに詰められた籠を抱えた、一人の少女の姿があった。やや青みがかった長い銀髪と、紺碧の瞳が特徴であり、美少女と言っても過言ではない顔立ちをしている。


「さてと、そろそろ帰ろっかな」


 そんな呟き声を零す。

 しかし直後、そんな彼女の耳が奇妙な異音を聞いた。


「うん?」


 音の発生源は、丘の麓に伸びている轍の向こう。丘の死角からだ。疑問の声を上げながら、銀髪の少女はそちらへ視線を向ける。

 丘の死角から、唸り声と共に奇怪な物体が姿を現したのは、次の瞬間だった。


「ぎょぇぇぇぇッ!?」


 現れたのは、全体が濃い緑色で、車輪を6っつ持つ奇妙な外観の荷車のような物体。

 さらに続いて、馬も無しに動く巨大な荷車が二台。そして最後に小型の同様に馬も無く動く荷車が、隊列を組んで丘の影から姿を現す。

 突然現れた異質な物体の隊列は、けたたましい異音を唸らせ、尻もちをついた少女の脇を次々に走り抜けてゆく。


《俺の自慢のお手製チャーハンッ!勢い任せで月までテイクオフッ!!》


 そして最後に、最後尾の荷車の上から、奇妙な歌声のような何かが聞こえ、そして謎の隊列は去って行った。


「な――なんだったの……!?」


 少女は持っていた籠を落として、尻もちをついた姿勢のまま、しばらく謎の隊列が去った方向を、呆然と見つめていた。




《地球に侵略インベーダーッ!俺様、フライパン片手にぶっ飛ばすッ!ボォォォウッ!!》


 轍に沿って目的地を目指している燃料調査隊の車列。その殿を務める旧型小型トラックの上では、多気投が上機嫌に、デスヴォイスで歌い散らかしていた。


「うるっせぇんだよ、多気投ェッ!こっから放り出されてぇのか!」


 そんな歌声を隣で嫌がおうにも聞かされていた竹泉が、耳を塞ぎながら怒声を上げる。


「いいじゃねぇかぁ、天気も景色も最高なんだぁ。この絶好の喉自慢日和に、歌わないなんて損だぜぇ」


 そんな竹泉の怒声に、しかし歌を中断した多気投は悪びれもせずに陽気な声色で返す。


(歌詞も歌声も酷い……)


 そして竹泉の隣では、出蔵がゲンナリとした表情を作りながら、内心でそんな感想を浮かべていた。

 そんな不真面目なやり取りをしている多気投等をよそに、助手席に座る河義と、その真後ろの後席に着いている制刻は、地図を広げ行程の確認を行っていた。


「もう一つ丘を越えりゃ、酒場のオッサンが言ってた、フォートスティートとか言う個人所有領に入るはずです」

「そして道なりに行けば、そのスティルエイトという人のお宅に辿り着けるとの事だったな」


 確認を終え、河義は地図を畳んで仕舞う。


「所で、さっき丘の麓に人がいたよな」

「えぇ、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてた」


 河義は今しがた通過した地点にいた少女について言及し、制刻はそれに答える。


「この近くに住む人かな?驚かせてしまったようだな、悪い事をしたな」

「まぁ、しゃあねぇでしょう。この世界で俺等が動く以上、多少驚かしちまう事は、避けられねぇようだ」


 申し訳なさそうな表情で呟いた河義に、一方の制刻はいつもの淡々とした調子で答える。


《ヤツ等の親玉炒め上げッ!晩飯一品追加で、ハイに決まるぜぇッ!!》


 そんな折、車上で多気投の破壊的な歌声が再び響き出す。


「――ただし多気投。お前ぇは静かにしてろ」

「オウチッ!今日にオーディエンスは皆辛口だずぇ」


 しかしそこへ制刻が釘を刺し、それを受けた多気投は、言葉と共に肩を竦めた。




 月読湖の国、〝月流州〟の南東に広がる個人所有領。

 通称、スティルエイト・フォートスティートと呼ばれているその地の、およそ中央付近。

 適度に広がる平地の中に、ポツンと立つ一軒の家屋があった。


「親父、来週の納品分が一本足りないみたいなんだが」


 その家屋の内部。物々しい窯が作りつけられた作業場らしき一室で、一人の青年が声を上げる。整った顔立ちに、青み掛かった銀髪と紺碧の瞳持つ、かなりの美青年であった。

 そんな彼が声を発した視線を向けた先には、椅子に座り、難しい表情を作っている中年男性の姿があった。青年と反した無骨な顔つきと外観であったが、しかし青年と同様の銀髪と紺碧の瞳が、彼と青年が血縁者である事を物語っていた。


「今最後の確認中だ」


 中年男性の腕の中には、一本の剣が持たれている。彼はその剣を鋭い目つきで睨みながら、青年に返事を返した。


「またやってるのか?どうせ親父の剣は、物好きが飾り物として買うくらいだろ?そこまで手間をかける必要があるのか?」

「うるせぇ!そういうもんじゃねぇんだ!――まだかかるから、お前は昼飯の仕度でもしてろ」


 青年の言葉に、親父と呼ばれた中年男性は怒声を飛ばし、そして続けて発した。


「もう準備してあるよ」

「じゃあ洗濯物だ」

「とっくに終わってる」

「なら終わるまで待ってろ!」

「はいはい……」


 父親の再びの怒声に、青年は呆れた声を零しながら返すと、近くの窓際へと寄り掛かった。


「……なぁ親父。いつまでこの地に籠ってる気だ?」


 一息置いた後に、青年は父親に向けてそんな言葉を紡ぐ。


「最近、国境周りでは野盗の被害が頻発してるらしい。ちょっと前に、荒道の町の近くでも旅人が襲われる事件があったそうだ。それで、この前町に行った時に、ハクレンさんが親父の事を心配してたよ。できれば、安全のために町に戻って欲しいってね」


 青年の言葉に、彼の父親は返事を返さず、手の中にある剣に視線を向け続けている。


「正直、俺もそう思うよ。この領地の管理は、別に荒道の町で暮らしながらでもできるだろう?親父は昔は俺達をほっぽりだして、各地で無茶をしてた身だから、腕に覚えはあるのかもしれない。それでも、こんな僻地で一人で居るのはやっぱり危険だよ。――なぁ、考え直す気はないのか?」


 父親に問いかける青年。しかし、その問いかけに対して、父親から返事が返って来る事はなかった。


「……はぁぁ」


 そんな父親の姿に、青年は窓際に身を預け直し、深くため息を吐いた。


「……そういえば。一昨日〝ティ〟が月橋の町まで〝飛んだ〟時に、妙な噂を聞いて来たらしい」


 青年は再びの短い沈黙の後に、そこで思い出した別の話題を振る。


「なんでも月橋の町に、勇者が立ち入ったらしいんだ」

「勇者?今のご時世、珍しいモンでもねぇだろ」


 青年の言葉に、父親は視線を変わらず剣に注いだまま、つまらなさそうに返す。


「あぁ――だが、それだけじゃないんだ。その勇者は、妙な一団と一緒だったらしい」

「妙な一団?」


 漠然とした表現に、父親は懐疑的な言葉を返す。


「話によると、全員が緑色の妙な服装で、同じく緑色の鉄の荷車に乗って、勇者と共に現れたそうだ。その一団の来訪で、町はそれなりの騒ぎになったらしい」


 言いながら、青年はなんとなしに窓の外へ視線を向ける。

 異質な唸り声のような音を轟かせ、六つの車輪を持つ奇怪な鉄の車が、敷地内へと姿を現したのは、丁度そのタイミングであった。


「うん、そうだな。聞いた話を再現するなら、たぶんあんな感じ―……」


 そこで青年は、言葉を途絶えさせて、一瞬沈黙する。


「――は?」


 そして視線の先に現れた物体を再認識し、目を見開いた。




 燃料調査隊の車列は、目的地である個人所有領の所有主の住居と思われる、一軒家の元へと到着。各車輛は、その一軒家からやや距離を取るようにして停車した。


「ここか――皆、降車しろ」


 車列の殿を務めていた旧型小型トラックの助手席で、河義が一軒家を一瞥してから、指示の声を上げる。それを受けた制刻を始めとする各員は、車上より降りて、それぞれが周囲を見渡す。


「ホントにここなのかよ?家がポツンと一軒あるだけで、採掘施設らしいモンは見当たらねぇぞ?」


 そして竹泉が、訝しむ表情と口調で発する。


「そいつぁ、ここの持ち主に尋ねてみるとしよう」


 そんな竹泉の言葉に、制刻が一軒家へと視線を向けながら返す。

 一軒家の玄関扉がちょうど開かれ、そこから青年が姿を現す。


「長沼二曹が行くな」


 そして河義が、車列の先頭に位置する指揮通信車へと視線を向けながら、呟く。

 指揮通信車の車上からは降り立った長沼が、現れた青年の元へと歩んでゆく姿が見えた。




「ほんとかよ……」


 玄関先へと出た青年は、突如姿を現した燃料調査隊の車列を、唖然としながら眺めていた。


「すみません」


 そんな青年へと、声が掛けられる。

 青年が声の方向へ振り向くと、声の主である長沼の姿が、青年の目に映った。

 長沼は自分が危害を加える存在では無い事を示すため、掲げた片腕を振りながら歩き、青年と目が合うと、彼に向けて小さく会釈。


「はじめまして、私は日本国陸隊の長沼という者です」


 そして青年の元まで歩み寄ると、自身の身分を彼に向けて名乗った。


「に、ニホン……?」


 長沼の自己紹介の言葉に、青年は戸惑いながら耳に残ったワードを反芻する。


「はい。この度は突然押しかけ、驚かせてしまい申し訳ありません。決して危害を加える者ではありません。難しい事とは承知していますが、どうかあまり警戒なさらないでください」


 そんな青年に長沼は続けて、謝罪の言葉を述べ、そして自分達が害成す存在では無い事を説明した。


「……その、ニホンの陸上部隊?っていうのはよく分からないけど……あんた達、月橋の町に勇者と共に現れたっていう、不思議な一団なのか……?」

「あぁ、その件を御存じなのですね。そうです、それは私達が出した偵察隊の事でしょう」


 長沼は青年の質問に返すと同時に、背後へと振り向く。すると丁度こちらへと歩いて来る、河義と制刻の姿が目に映った。


「河義三曹、制刻士長。こちらの方は、君等が偵察行動で、町へ立ち寄った件を御存じのようだ」


 近づいて来た二人に発する長沼。一方、青年は近づいて来た二人の内、特に異質な外観である制刻の姿に目を剥いた。


「ほう」

「噂がもうこんな遠地まで?早いな……」


 対する制刻当人とそして河義は、そんな青年をよそにそれぞれ言葉を零した。


「――それで、その一団さんがウチに一体なんの用なんだい……?」


 少しの間、困惑に囚われていた青年だったが、彼は再び警戒の目を長沼等に向け直して、尋ねる。


「あぁ、すみません。まずこちらは、スティルエイトさんのお宅で間違いありませんか?私達は、荒道の町のハクレンさんからの紹介で、こちらを訪ねさせていただきました」

「ハクレンさんから?」


 それまで強い警戒の色を見せていた青年は、長沼の口からハクレンの名を聞いた事で、ほんのわずかにだがその姿勢を軟化させる。


「はい。そしてこちらに、地下油と呼ばれる物の採掘施設があると伺いました。私達はそれを使用させていただきたく、その交渉のためにこちらを訪問させていただきました」

「地下油?確かにウチに採掘井戸があるけど……わざわざ地下油のために直接ウチに?変わってるな……」


 そして長沼から説明された隊の目的に、青年は警戒の色をさらに崩して、代わりに不思議そうな表情を浮かべた。


「はい、私達にとっては重要な資源と成り得る物なんです。突然押しかけてこんなお願いをして申し訳ありませんが、お話だけでもさせていただけないでしょうか?」

「地下油か……うーん、困ったな……」


 長沼の願い入れに、青年はその表情を微かに顰めて呟く。


「やはり、難しいお話ですか?」

「あぁいや、別にこちらに地下油を譲る意思が無いわけじゃないんだ。ただ――」


 長沼の勘繰る言葉を青年は否定し、そして続ける。


「その肝心の採掘井戸なんだけど、実はちょっと前に壊れてしまってね……取引に応じたくても、できない状態なんだ」

「故障ですか?」

「あぁ。わざわざ訪ねてきてくれたのに、すまないね……」


 そして青年は長沼に事情を説明し、そして謝罪の言葉を述べた。


「よぉ、とりあえずその採掘井戸ってのを、見せてもらうことはできねぇか?」


 そこへ言葉を挟んだのは制刻だ。


「制刻?」

「とりあえず見てみて、可能なら俺等で修理を試みましょう。せっかく、施設の面子も連れて来てるんだ」


 振り向いた長沼に制刻はそう進言し、そして青年へと視線を戻す。


「別に構わないけど……わざわざそこまでして地下油を?」

「あぁ、さっき長沼二曹も言ったが、俺等にとっては重要なモンでな」


 不思議そうな顔を浮かべる青年に、制刻は答えた。


「分かったよ――一応、親父に話をさせてもらっていいかい?ここの所有者はあくまで俺の親父だから」


 青年は、背後の住居にチラと視線を送りながら、発する。


「もちろんです、ご迷惑をおかけしてすみません。それと、よろしければ私達からも、御父上にご挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わないよ」

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