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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター3:「任務遂行。異界にて」
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3-18:「報告と対応」

 同時刻。

 五森の公国では、鷹幅た鳳藤等の隊員と、ハルエーやミルニシア達を乗せた大型トラックが、ちょうど木洩れ日の町へと到着した。

 大型トラックは、医薬品を町で受け取り砦まで運ぶ役割を、副次的に担っていたため、今回はそのまま町内に乗り入れることを許可された。大型トラックは城門を潜り町並みを抜け、町の中心部にあるレオティフルの滞在している建物の前へと到着。

大型トラックから降り立った鷹幅等とハルエー達は、その建物のその扉を潜った。


「お、お待ちください姫様!」

「かまいませんわッ!」


 鷹幅等が建物内に入った瞬間、彼らの耳にそんな声が響き聞こえて来た。

 鷹幅等やハルエー達は目の前にある階段の上へと目を向ける。そして一同の目に映ったのは、寝間着姿で階段を駆け下りて来るレオティフルの姿だった。

 息を切らせて一同の前へと走って来たレオティフルに、侍女のセテナが追いつき、羽織り物を羽織らせる。


「ハルエー団長!それにミルニシア!」

「は、はッ!」


 呆気に取られていた一同だったが、そこでレオティフルに名を呼ばれ、ハルエーとミルニシアはその場に膝を付いて頭を垂れる。


「……報告は聞いています。騎士団に、被害が出たと」

「は!まことに申し訳ございません!今回の損害は私の責任です!姫様の騎士団を危険に晒したばかりか、広告をも危険に晒しました……。このハルエー、いかなる罰もうける所存にございます!」


 レオティフルからの静かな問いかけに、ハルエーは捲し立て答える。


「……ハルエー団長」


 ハルエーは頭を垂れながらも、気配でレオティフルが己の前に立ったことを察する。そして叱責の言葉がその身に浴びせられる事を覚悟した。


「……よくぞ、無事に帰ってきましたね」

「ははぁッ!申し訳――は……?」


 反射で謝罪言葉を発しかけたハルエー。しかし直後に、ハルエーは投げかけられた言葉が叱責の物では無い事に気付く。

 そして思いがけない言葉に、彼は顔を上げた。

 そのハルエーの目の前には、身を屈めて彼と目線を合わせ、優しく微笑みを向けるレオティフルの姿があった。

 呆けるハルエーに、レオティフルはその腕を伸ばして彼の頬を優しく人撫でする。

 そしてレオティフルは立ち上がると、ハルエー隣で傅いていたミルニシアへと目を向け、彼女の前へと立つ。


「ひ、姫様……わ!?」

「良かった……あなた達が無事に戻って来てくれて、本当に良かった……」


そしてレオティフルはミルニシアの前に屈むと同時に、彼女を強く抱きしめた。


「分かっています、分かっていますわ……多くの犠牲が出てしまった中で、身内や特定の物だけを贔屓する事などあってはならないと……。でも、今だけはこの安堵感に浸らせて……」


 ミルニシアを抱きしめたレオティフルは、静かに言葉を零す。


「……姫様」


 そしてミルニシアもまた、そんなレオティフルを抱きしめ返した。




 やがて落ち着いたレオティフルは、ミルニシアから離れて、鷹幅の前へと立った。


「今回、我が騎士団から38名もの犠牲が出てしまったと聞いています。とても痛ましいことです……」


 そして二人に向けて、悲し気な表情を作り発するレオティフル。


「は!それに致しましては、全て私の責任であります!」

「ち、違います!そもそもは私が団長に、騎士団のみでの事態解決を進言したからです!団長の責ではありません!」


 そのレオティフルの言葉を受け、ハルエーとミルニシアは、こぞって今回の件が自らの責によるものである事を訴える。


「落ち着きなさい」


 レオティフルは、そんな二人を嗜める。


「今回は想定を遥かに超える敵勢力の襲来があったと聞き及んでいます。故に、心苦しいですが仕方の無かったこと。あなた方の責を問うつもりはありません。責があるとすれば――それはこの私自身ですわ」


 そう発し、自らの胸に手を当てるレオティフル。

 その言葉に、ハルエーとミルニシアは目を剥いた。


「ハルスレンの兄様と共に対魔王戦線に出兵できず、不満と不安を抱えていたあなた方の元へ、追い打ちを掛けるように私はタカハバ様達の一団を送り込んだ」

「姫様、決してそのような事は……!」


 レオティフルの非を否定しようとハルエーは言葉を発しかけるが、レオティフルは首を振り、言葉を続ける。


「いいえ。少なくともあなた方の意向にも耳を傾け、その上で説得し、もっとタカハバ様達と緊密な連携を取らせるべきでした。そうすれば、今回の結果も違った物になっていたかもしれません――本当に、あなた達には申し訳ない事をしましたわ」


 悔いるような表情で、レオティフルはハルエー達へ謝罪の言葉を述べた。


「おやめください姫様!姫様が謝罪されるなど、とんでもない事です……!」

「そうです!姫様に責などありません!」


 そんなレオティフルに、ハルエーとミルニシアは慌てて声を上げ、彼女の非を否定する。


「――ふふ、ありがとう。私は、優しい騎士達に恵まれましたわ」


 その言葉を受けて、レオティフルは険しかったその表情を崩し、小さな笑みを浮かべた。


「――さぁ、いつまでも沈んではいられませんわ。目先の危機は去ったとはいえ、今後どのように状況が動いてもおかしくはありません。そのための、対策を話し合いましょう」


 レオティフルは両手をパンと叩き合わせ、ハルエーとミルニシアを順に見て発する。


「「はッ!」」


 その言葉を受けたハルエーとミルニシアは、バネ仕掛けのように立ち上がり、通る声で返事を返した。

 レオティフルはそんな二人に近づくと、微笑み両名の方にポンと手を置く。

 そして二人の間を抜け、鷹幅の前へと立った。


「申し訳ありませんタカハバ様、お見苦しい場面をお見せしてしまいましたわ」

「いえ、とんでもありません」


 恥ずかし気に謝罪の言葉を述べたレオティフルに、タカハバはそう返す。


「タカハバ様。今回は私の騎士達を、そして五森の公国を守っていただき、本当に感謝しておりますわ。あなた方が居なかったらと思うと、背筋が凍る思いです……」

「いえ、私達はあくまで依頼された任務を遂行したまでです。それに、この国に何かあれば、私達も居場所を失う事になりますから」

「そう言っていただけると助かりますわ……」


 鷹幅の言葉に、レオティフルは心底ほっとした様子で言葉を零した。


「皆様、お部屋のご用意ができました」


 丁度会話が一区切りした所へ、一度その場をはずしていた侍女セテナが、言葉と共に現れた。


「ありがとうセテナ。では皆様、参りましょう」


 タカハバ達はレオティフルの先導で、話し合いのための部屋へと招かれた。




 レオティフルはハルエーより説明を受け、時折鷹幅の補足を受けながら、砦で起った落ち連の出来事の詳細を知る事となった。


「むぅ……なるほど……」

「具体的な事は不明ですが……雲翔の王国で何か起こっているのは間違いないでしょう。それに奴等と同じような軍勢が、雪星瞬く公国にも攻め入っている可能性もあります」


 難しい言葉を零したレオティフルに、ハルエーは続けて説明する。


「そうですわね……それに、その自害した敵指揮官も、背後に魔王の存在を匂わせたそうですわね?」

「ええ」

「これをどう見るべきかしら?ただ単に、雲翔の王国の一部の将兵が、魔王の存在によって疑心暗鬼に駆られ、先走り暴挙に出たのか……それとも」

「すでに雲翔の王国内部に、魔王軍、もしくはそれに追従する勢力の息が掛かっているか……」


 その不吉な考えに、二人は共に苦い表情を浮かべる。


「どちらにせよ、早急に事態を把握する必要がありますわね――それと北の国境線周辺に、兵力を配置する必要がありますわ」

「現在、第33騎士隊と第26騎士隊から兵力を抽出、編成中ですが、もう一度早馬を出しますか?」

「それも必要ですが……おそらく兵力はそれだけでは不足ですわ。そうですわね……〝五月晴れの街〟の第17騎士団。それと〝五月雨の町〟の第30騎士隊からも兵力を抽出し、こちらに来てもらいましょう――セテナ」


 レオティフルはそこまで言うと、脇で待機していた侍女セテナへと振り向く。


「はい」

「王都に今回の件の報告。それと雲翔の王国、雪星瞬く公国の両国へ内偵派遣の手配。並びに各町の部隊への兵力の抽出、出動要請。これらを早馬で出してくださいな」

「かしこまりました」


 レオティフルの命を受け、侍女セテナは部屋を後にした。


「今の所取れる行動は、このような所でしょうか」


 事態に対する対策が一区切り付き、レオティフルは小さく息を吐くと、机を挟んで反対側に居た、鷹幅へと視線を向ける。


「それにしてもタカハバ様。あなた方のお力には改めて驚かされましたわ。正直なお話、500を超える軍勢の襲来の一方を聞いた時には、私も覚悟を決めましたのよ。しかし――あなた方はその相手を、たった30名程の人数と、不思議な力で撃退して見せた」

「いえ、今回は運よく――といっては難ですが、相手勢力が私達の対応可能な範疇であったに過ぎません」


 レオティフルの賞賛の言葉に、しかし鷹幅はそう返す。


「ふふ、どこまでもご謙遜を――当初のお話道理、我が国は今後、あなた方への継続的な支援をお約束させていただきますわ」

「ありがとうございます」

「それと、厚かましいようですが、お願いがありますの。よろしければ、今後も皆様のお力を私達にお貸しいただけないかと、思っております」

「?――もちろん、また同様の勢力の襲来があった場合には、私達もご協力させていただくつもりです」


 鷹幅の発した言葉に、レオティフルは小さく首を振る。


「失礼、言い方が適切では適切ではありませんでしたわね……私が言いましたのは、もっと長期的なお話ですの。今回の事態は一過性のものに過ぎず、おそらく長く、そして大きな物になってゆくと思われますわ。あなた方には、それに共に立ち向かう同胞となっていただきたいんですの」

「……私達と同盟を結びたい、という事ですか?」

「ええ、そう捉えていただいて構いませんわ」


 鷹幅の言葉を、レオティフルは肯定する。


「少し大げさでは……?私達は流浪の身である、たかだか一部隊に過ぎません……」


 二人の会話を脇で聞いていた鳳藤が、そこで言葉を割っていれる。


「いいえ、今回の件で実感いたしましたわ。あなた方は、我が国と肩を並べて歩むにたる存在であると」


 レオティフルは鳳藤へと視線を移し、はっきりと言って見せた。


「……もちろん、ご支援をいただく以上、我々にできる範囲での協力は惜しまないつもりですが……そこまで大きなお話となると、私の一存では決められません。今一度、上長と相談させていただきたく思います」

「分かっておりますわ。十分にお考えいただいた後に、お返事をいただければと思います」


 話がそこで再び一区切りついた所で、部屋に別の侍女が入って来た。


「皆様、医薬品を積んだ馬車が到着しました」

「あぁ、ありがとうございます。じゃあ、トラックに積み替えないとな。鳳藤、行くぞ」


 用意された医薬品の積み替え作業のため、鷹幅と鳳藤はその場を発とうとする。


「あぁ、お待ちになって」


 しかしそこへ、レオティフルのそんな声が掛かった。


「少しの間だけでかまいませんの、ホウドウ様をお貸しいただけませんこと?」

「え――私ですか?」


 突然のレオティフルからの指名に、鳳藤は目を丸くする。


「少しお話がしたいだけですわ。作業には、手伝いの者をこちらへ手配いたします」


 そんなレオティフルの様子は、懇願、というよりもどこかねだる子供のようであった。


「鳳藤、どうする?」

「私は……かまいませんが……」


 鷹幅の言葉に、少し戸惑いながらも承諾の言葉を発する鳳藤。


「ありがとうございます。それでは、私のお部屋にご案内いたしますわ」


 鳳藤の承諾を受けたレオティフルは、少女のようにうれしそうな笑みを作りながら、先導して歩み出す。


「――う」


 それに続こうとした鳳藤は、その時自分を睨みつけるミルニシアの視線に気づく。彼女のその視線は「くれぐれも無礼を働くなよ」と、鳳藤に圧を掛けていた。そんなミルニシアの視線に射抜かれながら、鳳藤はレオティフルの後を追った。

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