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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター3:「任務遂行。異界にて」
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3-16:「追撃戦Ⅱ」

「な、なんだよあれ!」

「り、リーダー達が……!」


 荷馬車の列の最後尾には、数騎の野盗の騎兵達の姿がある。彼等は突然隊列の進路を塞いだ異質な物体を。そして直後に倒れて行ったリーダー格の男達を目にして、困惑の声を上げていた。


「クソ……逃げ――ぎゃッ!?」

「な!?――ぐぎゃッ!?」


 そしてそんな彼等にも、背後から突然の衝撃と激痛が襲う。そして彼等もまた、馬上に倒れ。あるいは落馬し、リーダー格の男達同様、死体の仲間入りを果たした。


「排除」

「一匹弾いた」


 荷馬車の列の最後尾へ、小型トラックが走り込んできて停車する。そして車上の河義や制刻等が、倒れた野盗達の姿を確認して声を上げる。野盗達を倒したのは、河義や制刻等の行った各個射撃であった。


「よし、竹泉はここに残って監視。他は降車しろ」


 最後尾に位置していた野盗達の無力化を確認した河義は、車上の各員の次の指示を発する。その言葉に従い、竹泉は引き続き車上のMINIMI軽機に付き、他、制刻等は小型トラックから降車する。


「多気投、俺と来てくれ。制刻と策頼は左側に周れ」

「いいでしょう」


 河義のハンドサインと共に発された指示の声に、制刻がやや礼節に欠ける言葉を返す。


「荷馬車には囚われた人達もいるだろう、発砲には十分注意しろ」


 河義は念を押す言葉を発すると、多気投と共に荷馬車の列の右側へと周ってゆく。

 それを横目に見ながら、制刻と策頼は荷馬車の列の左側へと踏み込み、荷馬車を若干遠巻きに見るようにしながら歩みを進める。

 接敵はすぐにあった。

 最後尾から二台目に位置する荷馬車から、3人程の野盗達が乗り出し、飛び降りて来る姿が見えた。

 制刻はその野盗達に小銃を向け、三点制限点射で数回発砲。それに続いて、後続の策頼も構えたショットガンの引き金を絞る。突然の襲撃に、野盗達は応戦の態勢を取る事もままならないまま、倒れ崩れ落ちて行った。

 野盗達の排除を確認した制刻は、ハンドサインで策頼に「行け行け」と合図を出し、彼を馬車の列の前方へと周り込ませる。

 そしてそれを確認した制刻は、小銃を構え直して馬車の列に沿って前進を再開。

 数歩歩みを進めた所で、再び野盗達と接敵した。

 今度は馬車と馬車の間から、計4名程の野盗達が列を成して駆け出して来た。どの野盗もその手に剣や斧などの得物を握っている。

 野盗達の姿を確認した瞬間、制刻は再び引き金を引いた。一列で駆け出て来た野盗達は、制刻の小銃の射線に突っ込む形となり、先頭の者から順にその身に弾を受けて、次々に崩れ落ちて行った。

 現れた野盗達を無力化した制刻は、ゆっくりと歩みを進めて、荷馬車の隙間とその先を、小銃の照準越しに覗き込む。その向こうに、荷馬車の列の前方から回り込んで来た、野砲科の威末等の姿が見えた。

 制刻は荷馬車の向こう側の威末等に、手を翳して合図を送る。すると威末等からも、同様に手を振りかざしての返事が返って来た。


《これで終わりか?》


 そしてインカムを通じて、威末からそんな旨の一言が寄越される。


「まだ潜んでるかもしれん」


 それに対して、制刻は一言返す。残敵を警戒し、どちら共それぞれの火器を構えたまま、警戒を維持している。


「お前等、動くんじゃねぇーッ!」


 制刻等の、そして威末等の耳に怒声が飛び込んで来たのは、次の瞬間だった。

 双方が声のした方向へ視線を向けると、先頭から二台目の荷馬車の上に立つ、一人の野盗の男の姿が見える。そしてその男の腕中には、小さな女の子の身体があった。女の子はその首に野盗の腕を回されてぶら下がり、ナイフを突きつけられてその顔を恐怖に染めている。


「やめて!子供だけは!」

「うるせぇッ!」

「きゃぁッ!」


 野盗の男に、若い母親が懇願し擦り寄ろうとしたが、彼女は野盗の男の足に蹴とばされてしまう。


《糞、人質か……!》


 インカム越しに、事態を目撃した威末の苦々しい声が零れ聞こえて来る。


「オラッ!こいつが見えるだろ!ガキを傷付けられたくなかったら、大人しく――」


 子供を人質に取り、要求の言葉を叫びあげる野盗の男。しかし――


「――ごぅッ!?」


 野盗の男の言葉は、次の瞬間に鈍い悲鳴へと変わった。

 そして野盗の男は、荷馬車の上で大きくもんどり打っている。見れば、男のその額から脳天にかけて、深々と鉈が突き刺さっていた。


「そのやり口はもう見た」


 そして制刻が呟く。その制刻の右腕は、前方に大きく振り出されてその手の平は開いている。野盗の脳天に突き刺さった鉈は、制刻が投擲した物であった。

 野盗の男はそのまま支えを失って崩れ落ち、人質となっていた女の子は男の腕から解放されて、荷馬車の上へと落ちる。そして泣きながら母親の元へとすがり寄って行った。


《アンタ……際どい事するな……》


 インカム越しに、制刻の耳に威末からの言葉が届く。威末の言葉は、人質を取られているという状況でありながら、リスクの高い攻撃という手段を躊躇いもせずに取り、それを成功させてのけた制刻に対する、感嘆とも呆れともつかない物であった。


「まごついても、意味ねぇからな」


 それに対して制刻は淡々と返すと、連れ去られた人達の乗せられた荷馬車へと近づく。


「よぉあんたら。無事か?」


 そして制刻は荷馬車の中を覗き込み、そこにいた先の若い母親や子供達を始めとした人々に言葉を掛ける。


「ひッ!?」


 しかし、彼女達から上がったのは悲鳴であった。

 大人の女達はその顔をより一層の恐怖で染め、子供たちは親や近くの大人に縋り寄り、顔を伏せて震えている。

 ただでさえ人間離れした禍々しい外観の持ち主であり、おまけに今しがた野盗の男を、彼女達の目の前でえげつない殺し方をしてみせた制刻の登場は、囚われの身であった彼女達を安心させる事は叶わず、逆により一層の恐怖に陥れる事となった。


「あ、あの……どうか子供達だけは見逃してください……!」


 そこへ先の若い母親が、意を決した様子で前に出て来た。そして彼女は制刻の姿を見上げて、そんな懇願の言葉を上げた。


「あん?」


 不可解な若い母親の言葉に、制刻は訝し気な声を零す。


「――ひ」


 しかし若い母親はその反応を見て、制刻が気分を害したのだと思ったのだろう、彼女は顔を青く染めて小さな悲鳴を上げた。


「自由さん。これ、自分等も賊の類だと思われてます」


 そこへ背後から、策頼の冷静な声色での言葉が掛かった。


「あぁ、成程――あんた等落ち着け、俺等は賊の類じゃねぇ。あんた等を助けに来たんだ」


 女子供達の反応の理由を理解した制刻は、荷馬車上の彼女達に向けてそう説くが、恐怖の渦中にある彼女達は依然として身を寄せ合い、怯えた目で制刻を見上げ続けていた。


「どうした?」


 そこへ横から声が掛かる。制刻と策頼が振り向けば、そこに追い付いて来た河義の姿があった。


「あぁ、河義三曹。取っ捕まってた女子供を確保したんですが、どうにも皆ビビっちまってるようで」


 制刻は荷馬車の中の女子供を一瞥しながら、河義に向けて説明する。


「……あぁ、成程……」


 河義は荷馬車の中の女子供達と、何より制刻の姿を見て、大体の事情を察する。


「どうにも自分等は賊の類と思われてるようです」

「まぁ、このナリじゃしゃぁねぇ」


 策頼が補足の言葉を発し、そして制刻が自分の纏う1型迷彩服を見下ろしながら呟く。


「……」


 そんな制刻に、河義は呆れの含まれた渋い表情を浮かべた。


「……分かった、囚われていた人達には俺から説明する。お前等は、周辺警戒に行ってくれ」

「じゃあ、頼みます」


 制刻は河義の指示を受けると、女子供達への対応を河義に投げて、周辺警戒に着くためにその場を離れてゆく。


「はぁ……皆さん、どうか落ち着いて下さい。私達は――」


 制刻を見送った後に、河義は荷馬車上の女子供達に向き直り、説明を始める。

 そして数分を費した河義の説明により、ようやく囚われていた彼女達に、自分達が賊の類ではなく、危害を加える者では無い事。そしてなにより、彼女達自身が助かったのだと言う事実を理解してもらう事ができた。




 制圧の終わったその現場に、馬に乗った少数の自警団員達が辿り着いた。

 彼等は、追跡隊が無線発報した野盗制圧の報を、町に残った燃料調査隊の隊員経由で知らされ、さらわれた女子供を迎えに来たのだった。


「これは……」


 隊列の先頭に位置していた自警団長は、その場の光景を見て思わず声を漏らす。


「全て、あの人等だけでやったっていうのか……?」


 そして、自警団長に並走していた、親方の男も呟く。

 周辺にはいくつもの野盗と思しき者達の死体が散らばり、その中で、奇妙な出で立ちの者達。すなわち隊員等だけが、平然と立っていた。


「皆さん」


 驚愕していた自警団長達に、声が掛けられる。自警団長達が視線を移すと、彼等の元へと歩み寄って来る長沼の姿が見えた。


「さらわれた人達は、全員無事に保護しました。申し訳ないのですが、彼女達を町まで送り届けるために、手を貸していただけませんか?」

「あ、あぁ……もちろんだ。皆、馬を荷馬車に繋ぐんだ」


 長沼の言葉を受け、自警団長は後続の自警団員達に指示を送る。指示を受けた自警団員達は、長沼と自警団長の両脇を抜けて、作業に取り掛かって行った。


「ありがとうございます。ではすみません、私もまだ作業が残っていますので」


 そう言って、長沼は身を翻して戻ってゆく。


(……この人らになら……)


 親方の男はその長沼の背を視線で追いながら、心中で何かの考えを改めた。

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