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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター3:「任務遂行。異界にて」
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3-13:「オイル・サーチャー」

 時系列は少し遡り、場所は〝月詠湖の国〟へ入った燃料調査隊の元へと移る。

 長沼二曹の率いる燃料調査隊は、長いその行程を、道中休憩や要員の交代を行いながら消化。日中をほぼ丸々掛けた後に、目的の町である〝荒道の町〟へと到着していた。

 しかし、案の定何の騒ぎも無く町へ入る事は叶わず、町の入り口ではこの町の警備組織と思しき人間達が、慌ただしく動き回っている。そして誰もが、町の入り口から少し距離を取った位置で足止めを食らっている、燃料調査隊の車列へ警戒の目を向けていた。


「皆さん、お話をさせてください!私達は、日本国陸隊の者です!この町へは、物資調達が目的で訪れさせていただきました、決して危害を加える者ではありません!」


 車列の先頭では、長沼が一人その場に立ち、こちらへ警戒の目を向けている者達へ訴えかけている。長沼こそ両手を掲げて、非武装である事を町へ向けて示しているが、その背後では各車各員が、万が一に備えていた。

 指揮通信車の上では矢万はターレットの12.7㎜重機関銃に着き、指揮通信車の横で待機している小型トラック上では、竹泉がMINIMI軽機に着いている。


「町に入るだけで、いちいちこの騒ぎかよ」


 町の入り口の様子を照準越しに見ながら、竹泉は愚痴を吐く。


「彼等、装備が統一されてないな……正規兵じゃないのか?」


 双眼鏡で入り口に並ぶ者達の格好を見て、疑問の声上げる河義。


「この町は駐留兵がいねぇようで、代わりに自警団が組まれてるって話です」


 その疑問に、制刻が前もってフレーベルから聞かされていた情報を告げる。

 やがて町の入り口から、その自警団と思しき何名かの人間が、長沼の元へと駆け寄って来る。そしてその代表らしき人間と長沼は、少しの間何らかの会話を交わす様子を見せる。そしてしばらくした後に、長沼は車列の方へと戻って来た。


「どうでしたか?」


 小型トラックの助手席に座っていた河義が長沼に尋ねる。


「あぁ、私達が危害を加える者では無い事は理解してもらえた。ただ、町へ車輛ごと入る事は、遠慮してほしいそうだ」

「あー、そんなこったろうと思った」


 長沼の説明に、竹泉はそんな声を上げる。


「幸い、冒険者等の往来も多い事から、武装に関しては特段制限は無いそうだ。車列はこの場で待機し、何名かで町には入り、情報収集を行いたいと思う」




 車列の見張りを矢万を始めとする各車輛搭乗員に任せ、長沼はその他の各隊員から要員をピックアップ。一個分隊を編成し、町へと入る事となった。

 最初にコンタクトした自警団からの話によると、町で情報が得られるであろう場所は、役所、商店区画、酒場の三か所。分隊はさらに三手に分かれ、それぞれの場所で情報収集を行う事となった。

 そして今現在、酒場を担当する事となった制刻率いる一組四名は、酒場を目指して町路を進んでいた。


「よぉ、わざわざハチヨンまで持ってくる必要があったか?邪魔臭くてしょうがねぇ!」


 組の最後尾を行く竹泉が、自身の肩から下がる84㎜無反動砲を鬱陶しげに見下ろしながら、呟いている。


「対戦車隊員が対戦車火器を持ってねぇでどうする」


 呟く竹泉に対して、制刻が淡々と返す。


「どうせこんな町中でぶっ放す機会なんざねぇよ」

「あぁ、ぜひそう願いたいね」


 愚痴を吐き続ける竹泉に、適当な返答を返す制刻。


「へい、自由。アレじゃねぇか?」


 そこへ多気投が声を挟む。多気投が指し示したその先に、酒場と思しき建物があった。

 内部の喧騒が外にも漏れ聞こえており、時折出入り口から酔っぱらった客が出て来る。

 そして周囲には、騒ぎ立てる者達や路端で眠りこけている者などが見受けられた。


「あーぁ、お気楽で羨ましい限りだぜ」


 竹泉はそんな周囲の酔っ払い達を端眼に見ながら吐き捨てる。


「行くぞ」


 竹泉の愚痴は聞き流し、制刻は酒場の入り口扉を上げて、中へと踏み入った。

 零れ聞こえて来ていた賑やかな音の発生源たる酒場の内部は、一層の喧騒に包まれていた。

 店内に並ぶテーブルはどこも客で埋まり、彼等は思い思いに騒ぎ立て、会話を交わし、酒の時間を楽しんでいる。

 そんな空間へ突如として踏み込んで来た、迷彩服に各装備という異質な姿の制刻等は、大変に悪目立ちし、注目を集める事となった。しかし当の本人等は集まる視線を意にも介さず、席を、客をかき分けて行く。そしてその先頭の制刻は、店のカウンターの前へと立った。


「……い、いらっしゃい……ご注文は……?」


 カウンターの奥側に立つ店の店主は、眼前に現れた異質な格好の、そして何より格好を差し引いても酷く禍々しい顔立ちの制刻に、気圧されながらもお決まりの文言を発する。


「情報だ。地下油ってブツの出所を探してる。この辺で採掘されてると聞いて来たんだが、何か知らねぇか?」


 そんな店主に対して、制刻は目的をはっきりと端的に述べた。


「地下油……かい?物は知ってるが、出所まではな……。悪いが、内は情報屋はやってないんだ」

 店主は戸惑いながらもそう答える。

「ひょっとしたらお客の中に知ってる人がいるかもしれない、自分達で聞いて回ってくれ」

「そうかい、ありがとよ」


 店主にそう言われ、制刻はそこで会話を切り上げた。


「自分で聞け、ですか」


 制刻の後ろで会話を聞いていた策頼が呟く。


「手あたり次第、聞いてみるしかねぇな」


 制刻は店内を一度見渡し、聞き込みに掛かろうとする。


「おぉ~、なんだなんだぁ?妙な格好の奴等がいるじゃねぇかぁ~」


 背後からそんな声が聞こえて来たのは、その時だった。

 見れば、店の角に置かれた席に、一人の男の姿があった。酷く酔っているらしいその男は、その赤ら顔ににやにやとした表情を浮かべている。


「あぁ、んだてめぇは?何気持ち悪ぃ面で見てやがる?」


 そしてその酔っ払いの男に対して、竹泉が突っかかってゆく姿が見えた。


「そりゃぁ見るだろうよぉ、そんなおもしれー格好してりゃなぁ。ひゃひゃ、見れば見る程おかしな格好だぁ」


 赤ら顔で竹泉を煽る酔っ払いの男。


「――そんなら、もっとおもしれぇモンを見せてやろうか?」


 眉間に青筋を浮かべて発する竹泉。そして竹泉の手は、彼の弾帯から下がる、対戦車火器射手用の護身用拳銃が収まるホルスターへと伸びる。


「やめろ竹泉」


 しかし直後に背後から響いた制刻の声が、竹泉の行動を差し止めた。

 制刻は竹泉の肩を掴んで彼を強引に下がらせると、入れ替わりに酔っ払いの男の前へと出る。


「お、おう……?」


 歪で禍々しい外観の制刻の登場に、酔っ払いの男はにやけていたその表情を、困惑に染める。


「兄ちゃん、用件があるなら俺が聞く」


 対して、端的に酔っ払いの男に告げる制刻。


「な、なんだアンタぁ……?や、やろうってのかぁ……?」


 しかし異質な姿の制刻の登場は、返って酔っ払いの男の警戒心を刺激したのか、男は困惑しながらも虚勢を張り、こちらへとすごみを利かせて来る。


「おい、キリエ!何をしてやがる!」


 そこへ声が飛び込んで来たのはその時だった。

 制刻と酔っ払い男が同時に視線を横に向けると、そこに一人の中年の男の姿が見えた。

 中年の男はツカツカとこちらまで歩み寄って来ると、まずは酔っ払いの男を睨みつける。


「お、親方……」

「お前、またよそ様と面倒事を起こしたのか!?」

「いや、その……すいやせん……」


 その中年の男の気迫に、酔っ払いの男はその顔から赤みを消し、謝罪の言葉を述べる。


「ったく――で、あんたらは?コイツと何があったんだい?」


 酔っ払いの男を叱りつけた後に、親方と呼ばれた中年の男は制刻等へと視線を向ける。

 酔っ払いの男の素行に覚えがあったのだろう、まず酔っ払いの叱りつけた親方の男だったが、しかし制刻等を見るその視線にも、若干の警戒の色が含まれていた。


「あぁ、そっちの兄ちゃんと、ウチのボケの間でつまらん悶着があったようでな」

「おい。誰がボケだ誰が」


 親方の男に対する制刻の説明の言葉に、背後の竹泉から文句の声が飛ぶ。


「やめとけ竹泉。酔っ払いに素面で突っかかってったお前の落ち度だ」


 そんな竹泉を、策頼が冷静な声色と共に差し止める。


「ちとファーストコンタクトが悪かったが、そちらさんと事を構えたいわけじゃねぇ。悪かったな」

「そうか……いや、それはこちらも悪かった。どうせコイツがまた、つまらん絡み方でもしたんだろう」


 制刻の言葉を聞いた親方の男は、ため息と共に再び酔っ払いの男を睨む。睨まれた酔っ払いの男は「へへ、すいやせん……」と誤魔化し笑い混じりの謝罪を口にした。


「……しかし、気を悪くしないで欲しいんだが、あんた等ずいぶん変わった風貌をしてるな……」


 親方の男は、制刻等をしげしげと観察しながら呟く。


「少なくともこの辺じゃぁ見ない格好だ。一体何者だい?」


 親方の男の質問の声に、制刻はセオリー通り、自分達が日本国の陸隊である事を名乗って見せる。しかしやはり、それだけでは相手の疑問を解決するには至らず、親方の男は訝し気な顔を浮かべて見せた。


「ニホン……の陸上部隊?軍隊か?そんな国は聞いた事がねぇが……」

「ま、遠くの国だと思っといてくれ――でだ、俺等からも聞きたい事があるんだが、いいか?」

「あ、あぁ。なんだい?」

「俺等は、原油――こっちじゃ地下油って呼ばれてるブツを探してるんだ。この辺が出所だと聞いてきたんだが、あんた、なんか知らねぇか?」

「地下油?それも出所?」


 制刻の言葉に、親方の男は、またも訝し気な表情を作る。


「あぁ、できればそいつが採掘されてる場所を知りてぇ」

「また妙なモンを探してるんだな……地下油の出所か、一応知ってはいるが……」


 親方の男は、しかしそこで言い淀む。


「どうかしたのか?」

「いや……申し訳ないが、今のアンタ等にそこを紹介する事はできない」


 不可思議に思い尋ねた制刻に、親方の男はそう返した。


「あぁん?そりゃ、どういう事だよ」

「やめろ竹泉。――よければ、理由を聞かせてくれねぇか?」


 制刻は荒げた言葉を上げた竹泉を差し止め、そして親方の男に尋ねる。


「その地下油の出所は個人所有領で、そこではその領の所有主が静かに暮らしてる。それで……」


 親方の男は再び言い淀む。


「成程。そんな所へ、俺等みたいな得体の知れない集団が押し掛けて、なんぞしでかさねぇかを懸念してるわけか」


 制刻は、そんな親方の言葉の先を察し、そして変わりに発言する。


「防犯を考えれば、まぁ当然ですかね」


 そして背後に立つ策頼が呟いた。


「親方さんよぉ、アンタの懸念も最もだ。だが俺等も荒事を起こすつもりはねぇ、あくまで交渉がしてぇんだ。なんとか、その所有者とコンタクトする手段はねぇか?」

「そうだな……」


 親方の男は難しい顔を作り、そして答える。

 親方の話によると、コンタクトの方法は二つ。

 その個人領所有者の元へは、各種手続きや安否確認のために、時折役場から使いの者が行っているという。その役場からの使いに言伝を頼むのが一つの方法。

 もう一つは、その個人領所有者はこの荒道の町まで定期的に買い出しに来るそうであり、それを待って接触する方法。

 ただどちらもその日取りは不定期であり、一週間から最悪半月ほど待たねばならないだろうとの事であった。


「冗談だろ、そんなに足止め食らってられっかよ」


 それを聞いた竹泉が不服そうな言葉を吐く。


「だが、直接の紹介が得られねぇとなると、コンタクトの手段はそれしかねぇ。とりあえず、長沼二曹達と合流して相談だ」

「やれやれだぜ」


 制刻の説く言葉に、竹泉はウンザリと言った様子で呟いた。


「アンタ、悪かったな」

「いや、こっちこそすまない」


 端的に発された制刻の言葉に、親方の男はどこか申し訳なさそうに返す。そして話を切り上げ、制刻等はその場を立とうとする。


「た、大変だッ!」


 酒場の出入り口の扉が勢いよく開かれ、異様な剣幕と共に一人の男が飛び込んで来たのはその時だった。


「町へ向かっていた商隊が野盗に襲われたらしいッ!自警団の人間は集まってくれッ!」


 男のその言葉に、陽気な喧騒に包まれていた酒場内は、一変して緊迫した空気になり、そして別種の騒めきに包まれた。

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