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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター3:「任務遂行。異界にて」
46/224

3-11:「ヒロイック・ブレイド」

 「……な……」


 砦の屋上。そこから見える光景に、指揮官ラグスはその身を固まらせていた。本陣が到着し、それにより状況の巻き返しが図られる事を期待していたラグス。しかしその期待は、彼の視線の先で脆くも崩れ去った。

 到着した本陣は砦へと足を踏み入れる事もままならないまま、突如巻き起こった無数の爆炎、爆風に蹴散らされて壊滅。わずかな時間で本陣は見る影も無くなり、わずかな生き残りがラグス達を置いて敗走してゆく姿が見える。


「なんという……」


 一方では、騎士団団長ハルエーも、その光景に驚愕していた。そしてハルエーは、自分の前で展開している帆櫛等1分隊の隊員を、畏怖の目で目詰める。

 しかし当の帆櫛等1分隊は、以前緊迫状態にあった。

 敵の兵がミルニシアを人質に取っている状況は変わらず、分隊は次の一手に慎重な判断を要求される状況にあった。


(……彼等の注意は背後に向いている……行けるか……?)


 帆櫛は、敵兵達の目が砲撃により背後に反れている事に目を付け、そこを人質解放のチャンスと判断。自分の傍に立つ鳳藤と町湖場に目配せで合図を送る。


「――今だ!」


 そして声を上げると共に、鳳藤と町湖場はそれぞれ発砲した。

 両名の放った銃弾は、ミルニシアを捕まえていた彼女の両脇の兵に命中。兵達が崩れ落ち、ミルニシアの身が解放される。


「よし、確保!」


 そして帆櫛が叫ぶと同時に、鳳藤がミルニシアの身を保護すべく彼女の元へと駆け寄り、手を伸ばす。

 しかしその直前、ミルニシアの身は引っ張られるように後退し、鳳藤の手は空を切った。


「な――!」


 鳳藤、そして帆櫛は驚きの声を上げ、そして顔を苦渋に染める。

 鳳藤等の目に飛び込んできたのは、ミルニシアの首に腕を回し、そして彼女の首元に短剣をあてがう、敵の指揮官ラグスの姿だった。


「う、動くな……動けば、この姫様がどうなるか分かるな!?」


 帆櫛等1分隊に向けて叫び声を上げるラグス。その様子には、あきらかな動揺が見て取れた。


「ッ、無駄な抵抗はやめなさい!もうそちらの戦力は壊滅状態だ、その人を解放して投降しなさい!」


 帆櫛は投降を呼びかけるが、不安定な状態にあるラグスが、それを聞き入れる様子は無い。


「ッ……わ、私の事は気にするな!こいつを――むぐ!?」

「うるさい、喋るな!」


 声を上げかけたミルニシアは、しかしその口をラグスの手に塞がれる。そしてラグスはミルニシアに短剣を突き付けた姿勢で、砦の縁へジリジリと後ずさって行く。


(クソ、もう一度撃たせるべき?どうすれば……!)


 下手な判断を下せば、人質を傷つける結果となりかねない。そのプレッシャーに押され、帆櫛は次に取るべき手段を決めかねている。


「――!」


 帆櫛の目が、〝それ〟を見たのはその瞬間だった。

 ラグスの背後、砦の縁の向こうから、突如人影が姿を現した。


「!?」


 帆櫛から一瞬遅れて、ラグスも自身の背後の気配に気づき、振り返ろうとする。

 しかしそれよりも速く、現れた人影がぬっと腕を伸ばし、ラグスの短剣を握る腕を捕まえた。


「な――ごうッ!?」


 そして同時に、ラグスの後ろ首に衝撃が走った。襲い来た衝撃にラグスの脳は揺れ、その体はミルニシアを放して床へと崩れ落ちる。


「――よし」


 そして砦の縁を乗り越え、ラグスの体に乗りかかって彼の体を抑える人影。その正体は、鷹幅であった。


「あ、あぁ……ひ!?」

「動くなよ。両手を頭に」


 その傍らで、ただ狼狽していた官僚の男に、9mm機関けん銃の銃口が突き付けられる。銃口を突き付けた主は、鷹幅に続いて砦へと上がって来た不知窪だ。


「鷹幅二曹!」


 ラグス達の拘束が完了したその場へ、帆櫛や鳳藤が駆け寄って来る。その背後では、ラグスを取り巻いていた兵達が、同様に隊員等の手で拘束されてゆく姿が見えた


「どうやら、いいタイミングで駆け付けられたようだな」

「すみません、助かりました……」


 鷹幅に向けて礼の言葉を発する帆櫛。自身が判断に困っていた所を鷹幅に助けられる形となったせいか、彼女の言葉にはどこか後ろめたさのような物が含まれていた。


「いいさ、こうしてうまい事抑えることができたんだからな」


 それを察してか、鷹幅は帆櫛にそんな言葉を返す。


「ぐ……――このッ!」


 ラグスが、その脚を払ったのはその瞬間だった。

 払われた彼の脚は、まだ近くにいたミルニシアの足を掬った。


「あッ!」


 足を掬われたミルニシアは体勢を崩し、その体は砦の縁の向こうへと放り出される。


「な――」

「しまっ――!」


 思わぬ事態に、目を剥く鷹幅と帆櫛。すかさずその体を動かそうとする二人だが、その時にはすでに、ミルニシアの体は中空へと投げ出されていた。


「ッ――!」


 ミルニシアは、落下を覚悟してその目を瞑る。

 しかしその直後、彼女の身体に奇妙な感覚が走った。やや乱雑だが、地面へと激突というにはあまりにも柔らかい、何かに支えられるような感覚。


「……?」

「間に合った……!」


 それは正しかった。

 恐る恐る目を開いたミルニシアの目に映ったのは、端正な鳳藤の顔。

 ミルニシアは、鳳藤の片腕に支えられていた。

 鳳藤は片腕だけでミルニシアの体を抱きかかえ、もう片腕で砦の縁を掴み、さらに片足を砦の壁面に着いて突っ張り、その体を支えている。

 鳳藤はミルニシアを救うべく、自らも縁を越えて城壁を飛び出し、ギリギリの所でミルニシアの体を抱き寄せたのだ。


「君、もう大丈夫だよ」

「……あ、あぁ……」


 ミルニシアを安心させるべく、鳳藤は笑みを作って発する。それに対して、ミルニシアは戸惑いつつ、そして若干頬を赤らめながら言葉を返した。


「鳳藤士長、大丈夫か!」


 縁の向こうから、帆櫛からの身を案ずる声が聞こえてくる。


「人質も、自分も無事です!引き上げてもらえますか!?」


 それに対して返す鳳藤。

 鳳藤とミルニシアは、1分隊の隊員等の助けを得て、無事砦の屋上へと引き上げられた。


「糞!糞ッ!なんだってんだ……!?」


 一方、最後の悪あがきも失敗に終わったラグスは、地面に横たわりながらも喚き声を上げ続けていた。


「こんなはずじゃなかった!お前等、一体なんだって――ごうッ!」


 しかしそんなラグスの後ろ首に9mm機関けん銃のグリップが勢いよく当てられ、彼は悲鳴を最後に気を失う。


「悪いが、これ以上抵抗されると困るんだ」


 そしてラグスに伸し掛かっていた鷹幅が静かに言った。


「すまない、鳳藤士長。よくやってくれた」


 そして鷹幅は、丁度ミルニシアと共に引き上げられてきた鳳藤に視線を向けて発する。


「いえ、とっさに体が動いたものですから」


 その言葉に鳳藤は当然の事といったように返した。

 屋上の制圧が完全に成された事を確認した鷹幅はインカムに向けて発し出す。


「ジャンカー2、こちらジャンカー1鷹幅。こちらは砦の全フロアを掌握した」

《ジャンカー2波原です。こちらも、敵の団体にはお帰りいただきました》


 鷹幅の発報に、波原から軽口混じりの返信が返って来る。


「了解。ジャンカー2はそのまま城壁上で警戒監視を続けてくれ。それと、通信科の様羅一士もそちらにいるな?そちらの無線で、陣地の3分隊――ジャンカー3に、こちらへ合流するように伝えてくれ」

《了解です》


 必要なやり取りを終え、鷹幅は通信を終える。


「お、おい……もう降ろしてくれ……!」


 ちょうどその時、鳳藤の腕の中で、未だに抱きかかえられたままのミルニシアが声を上げた。彼女は鳳藤の腕の中で身を捩り、鳳藤の腕からやや強引に降りて、地面に足を着く。


「っ……!」


 しかし地面に足を着けたミルニシアは、その脚に力を入れる事が出来ずに、崩れ落ちかける。


「っと」


 そしてそこを再び鳳藤に支えられた。

 長時間人質として拘束され、さらに生命の危機に陥りかけたミルニシアの精神的負担はかなりの物となっていた。それが解放された事により、一気に体に現れたのだ。


「かなり疲弊しているようだね、無理もない。やはり私が運ぼう」

「よ、よせ……こんな……!」


 鳳藤は再びミルニシアを抱き上げるが、ミルニシアは身を捩ってそれに抵抗する。


「大人しくお言葉に甘えなさい、ミルニシア」


 そんなミルニシアに声が掛けられる。ミルニシアや鳳藤が顔を上げると、そこにはハルエーの姿があった。


「団長!で、ですが……」

「我々は、全てにおいてこの人達に助けられた。だというのに、ここに来てまで虚勢を張る事は、返って見苦しさを晒すだけだろう」


 そう言ってミルニシアを説くハルエー。


「ッ……」


 上官の言葉を聞いたミルニシアは、すこしの沈黙の後に、鳳藤からそっぽを向いて、その腕の中に身を預けることに甘んじた。


「……さて、確かタカハバ殿と申されましたな。あなた方には謝罪と、そして感謝をしなければなりません」


 ハルエーは鷹幅へ向き直り、そう発すると同時に頭を下げた。

 そして、最初に鷹幅等に失礼な態度を取ってしまった事に対して謝罪を述べる。続けて、そのような態度を取ってしまったにもかかわらず、こうして駆け付け、助けてくれたくれた事に感謝の言葉を述べた。


「よしてください。私達は突然現れたよそ者、それを懐疑的に思われるのは当たり前の事です。それに私達は、自分達が引き受けると決めた事を、成したに過ぎません」

「ご謙遜を。あなた方の存在が無ければ、私達は……いえ、この地、この国はどうなっていた事か……」


 ハルエーはそこで、砲撃の行われた砦の先の光景へ目を移し、そして続ける。


「ここまでの力を持つあなた方……その力量を見誤り、軽んじた。己の浅はかさに、呆れるばかりです」


 そう言って鷹幅に頭を下げ続けるハルエー。


「頭を上げてくださいハルエーさん。仕方の無い事です、想定異常の勢力の襲撃があったのですから――それより、あなたも拘束されていた身です。休まれたほうがいいでしょう」


 対する鷹幅は、ハルエーに頭を上げてもらうよう促し、そして休息を取るように勧める。


「しかし……」

「大丈夫です、しばらくは私達にお任せください。それに――ザクセンさん達もじきに来られるでしょう」


 言いながら、砦の屋上から、南側にある包囲陣へと視線を送る鷹幅。包囲陣の方向からは、先程合流を要請した3分隊の隊員等と小型トラックが。そしてそれに続くように、第37騎士隊の隊兵達が、砦へと向かってくる姿が見えた。


「……分かりました」


 ハルエーは少し後ろめたい様子を見せたが、鷹幅の勧めを受け入れた。

 ハルエーは隊員に付き添われ、そしてミルニシアも鳳藤に抱きかかえられて、砦の内部へと戻ってゆく。

 それを見送った後に、鷹幅は再び砲撃の行われた北側の一帯へと視線を向け、その光景を目に収める。


「終わったんですかね……?」


 傍らにいた帆櫛が、どこか複雑そうな様子で鷹幅へ尋ねる。


「今回はな」


 その言葉に対して、鷹幅は先の光景を見つめたまま、静かに答える。

 鷹幅等は勝利を収めた。

 しかし自分達が生み出した、数多の亡骸が広がる光景を前に、鷹幅達はその勝利を手放しに喜ぶ事は出来ないでいた。

 そして今回のような戦いが、おそらく今後も起こるであろうことを、彼等は心のどこかで感じ取っていた――。

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