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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター2:「Dual Itinerary」
30/224

2-10:「町ともう一人の姉」

 長き行程を得て、東方面偵察隊はついに目的地である〝月橋の町〟に到着した。


「やーっと着いたな、やたら長く感じたぜ」

《道中で、あの騒ぎでしたからね》


 道の先に見える町を眺めながら、矢万や鬼奈落がそんな声を上げている。


「物資と、あわよくばうまい飯にありつければ御の字なんだがな」


 続けてそんな願いを口にする矢万。


「……鬼奈落士長、一度停車してくれ」


 しかし矢万のそんな希望の言葉を否定するような低いトーンで、指揮官用ハッチから半身を乗り出している河義が、停車の指示を出した。彼は双眼鏡を除き、険しい表情で先にまる町を眺めている。


「どうしたんです?」

「町の城門付近を見て見ろ」


 疑問の声を上げる矢万に、河義は双眼鏡を渡して促す。言われた通りに矢万は双眼鏡を覗いて、町の城壁の一角に作られた城門へ視線を送る。そこでは、複数の衛兵らしき人間が、併設された詰め所から慌てた様子で出て来たり、城門直上の城壁に配置して行く姿が言えた。


「あれは、まさか――」

「あぁ、私達を警戒している」


 矢万の言葉の先を、河義が先回りして代弁、肯定する。見た限り、偵察隊は町側から明らかに警戒されていた。


「――三角帽に青い軍服か、独立戦争時の大陸軍みてぇだな」


 車体側面のハッチから身を乗り出し、双眼鏡を構えている制刻は、展開している衛兵達の井出達を確認して、そんな分析の言葉を発する。


「まぁ……考えて見りゃ、こんな得体のしれないデカブツが近づいて来りゃ、警戒もするか……」


 矢万は、自身の乗る指揮通信車を見下ろしながら呟く。


《どうします?このまま接近すれば、最悪戦闘になりかねません》


 操縦席の鬼奈落がインカム越しに言葉を寄越す。


「誰かが徒歩で先に言って、誤解を解く必要があるな……」

「それなら、僕が行こう」


 河義の言葉に、名乗りを上げたのはハシアだ。


「ハシアさんがですか?確かに、こちらの世界の人であるハシアさんであれば、私達よりは警戒されないかもしれませんが……」


 それでも危険が無いとは言い切れず、河義はハシアが単身で赴く事に懸念の色を見せる。


「大丈夫、こういった町との初接触には慣れてる。それに勇者である事を証明すれば、悪いようにはされないだろう」


 ハシアは河義に対して説くように言うと、指揮通信車の車上から飛び降りる。


「気ぃつけろよ」

「任せてくれ」


 制刻の言葉を背に受けながら、ハシアは指揮通信車を離れ、城門に向かって歩き出した。


「各員、念のため戦闘に備えろ。万一の場合は、ハシアさんを回収してこの場から離脱する――」


 向かってゆくハシアの背中を見守りながら、河義は各員に向けて発した。




 ハシアは片手を城門に向けて大きく振り、危害を加える者では無い事をアピールしながら、歩みを進める。そして城門との距離を一定まで詰めた所で、立ち止まり、そして口を開いた。


「聞いてください!私は栄と結束の王国より選び出された勇者、ハシア・リアネイテスという物です!国から〝君路の勇者〟の称号を授かり、魔王を討つべく旅をしています!」


 ハシアの一声に、町の衛兵達に警戒とは別種の反応が見える。


「この町には物資の補給と休息、そしてある案件の報告のために立ち寄らせていただきました!決して、この町に危害を加える者ではありません、どうか滞在の許可を頂きたい!」


 ハシアが発し終わり、少しの間を置いた後、城門から数人の衛兵が駆け寄ってくる様子が見えた。その中でも代表者らしき衛兵が、ハシアのすぐ傍まで駆け寄ると、口を開いた。


「星橋の町駐留、月詠第6兵団、南門隊の兵長のラシケと申します。栄と結束の王国と勇者様とのことですが……失礼ですが、何か証明できる物を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ではこれを。我が国の国王から預かっています、証明文書です」


 警戒の色を解かないラシケと名乗った兵長に、ハシアは懐から一枚の筒状に丸めた羊皮紙を取り出し、それを広げて見せる。すると次の瞬間、羊皮紙に描かれた紋様が発光し、光で構成された立体となって浮かび上がった。


「これは……」

「さらに近隣提携国の証明です」


 さらにハシアは別の羊皮紙を取り出し、広げて見せる。そこにはいくつもの署名が連なっており、そしてそれらの文字列も先の紋様と同様に、発光し、羊皮紙の上に浮かび上がった。


「どうやら……本物の勇者様で間違い無いようだ」


 兵長ラシケは背後の衛兵達に言うと、ハシアに向き直り、姿勢を正す。


「――失礼いたしました、栄と結束の国の勇者様。どうかご無礼をお許しください」

「とんでもありません。こちらこそ、お騒がせしてしてしまったようで、申し訳ありません」


 謝罪の言葉を述べたラシケ兵長に、ハシアもまた謝罪で返す。


「所で……重ね重ねの失礼で申し訳ないのですが、あちらの方々は……?」


 ラシケ兵長は言いながら、ハシアの背後へ視線を向ける。


「彼等は遠方の国、〝ニホン国〟の(もののふ)達。そしてここまで幾度も僕達を救い、事態を解決してくれた友にして、英雄達です――!」




「英雄たぁ――また妙な紹介をしてくれたな」


 指揮通信車の車上で制刻はやや呆れた口調で呟く。


「そうかい?少なくとも僕達から見た君達のこれまでの活動は、十分英雄的だと思うよ。それに、ただ異国の軍隊だとだけ紹介するよりかは、いいと思ってね」


 制刻の言葉に、ハシアはそう返す。


「まぁ、お前ぇさんに交渉を任せたのは俺等だから、それはいい。最もここの住民は、英雄どうこうよりも、もっと別の目で俺等をみてるようだがな」

「まぁそりゃぁ、指揮車ごと入ったらこうなりますよね……」


 制刻が発し、出蔵がそれに続いて呟き、そして周囲に視線を送る。

 ハシアの交渉のおかげで、偵察隊は町に害意のある存在でない事を理解してもらい、町へと入ることが出来た。しかし、偵察隊はその都合上、指揮通信車ごと町内に入る事となり、結果悪い意味で住民達の注目を集める事となっていた。

 実際、レンガ作りの家と石畳の道等から成る中世風の町並みを、迷彩を施した装甲車両は行く光景は、かなり異様であった。


「おい、なんだあのでかいのは!?」

「まさか魔物か!?」


 町の住民達は、指揮通信車のその巨体を目にして騒めいている。


「住民の皆さん、大丈夫です!この方たちは町の正式な客人です。ですから道を開けてください!」


 一応、指揮通信車の周辺には、この町に駐留している兵団の騎兵が数騎、護衛兼住民との緩衝役として付いている。その内、先を行く騎兵達が住民に説明をして、安全のために道を開けさせてゆく。しかし兵団の兵の説明だけでは不安を解消するには至らず、住民達は皆、懐疑的な、もしくは不安の籠った目でこちらを見つめていた。


「これすごい迷惑をかけてますよね、私達」

「致し方無ぇ、このデカブツを運び込むには、指揮車ごと入るしかなかったからな」


 出蔵の言葉に、制刻は指揮通信車の車上に乗せられた、剣鱗蛇の亡骸を一瞥して発する。


「ママ、なんか怖い……」

「大丈夫よ……」


 途中、怯える子供とそれを抱き寄せ宥める母親の姿が目に入る。


「……早く通り抜けたい所だな」


 その光景を目に留めた河義は、居心地悪そうに呟いた。




 偵察隊はなんとか町中を通り抜け、兵団の騎兵の案内で、町の役所へと辿り着いた。

現在は河義とハシアが、各種手続きと、件の村でのゾンビ騒ぎに関する報告のために役所内へと赴き、他の各員は役所前の敷地に停めた指揮通信車で待機している。


「あ、戻ってきました」


 出蔵が声を上げ、役所を視線で指し示す。

 彼女の言葉通り、役所の正面玄関から河義とハシアが出てきて、こちらへと向かってくる姿が見えた。


「どうなりました?」


 ターレット上の矢万が、戻って来た河義に尋ねる。


「あぁ、まず滞在許可はもらえた。そして、私達の来訪は、役所と兵団を通して住民に知らせられるそうだ」

「それって、町中に俺等の事が知れ渡るって事ですか?」

「町の中を指揮車で動き回らせて欲しいとお願いしたからな。事前通達は、その条件としては必要なことだろう。私達としても、住民の方に混乱を与える可能性は、少しでも減らしておきたい」

「……まぁ、悪目立ちするのはどちらにせよ変わらないか」


 河義の説明に、矢万はため息混じりに呟く。


「そして村の件だが、この町の駐留兵団から、調査隊が編成されて派遣されるそうだ」

「じゃあ、村の件はあっちに引き継がれたと考えていいですかね」


 言った新好地の言葉を、しかし河義は否定する。


「いや、私達には最後の仕事が残っている。例のゾンビ化の薬だが、町が支援している研究者がいるそうだ。薬はそこに持ち込んで欲しいと頼まれた」

「研究者ですか」


 河義の言葉に、出蔵が返す。


「あぁ、ウルワレーシュという人らしい。その人の家までの地図ももらっている」

「え!」


 その時、ニニマが声を上げた。


「どうした嬢ちゃん?」

「いえ、それって多分、私の下のお姉ちゃんです」

「何?」


 ニニマの言葉に、新好地始め各員は、若干の驚きの目をニニマに向ける。


「なら、同時にニニマさんを送り届けることが出来るな。ニニマさん、案内をお願いできますか?」

「は、はい」

「よし、行くぞ」


 河義の言葉で各員は指揮通信車に乗車。ニニマの姉の家へ向けて出発した。




 偵察隊を乗せた指揮通信車は、ニニマの案内を受けながらあまり広くはない町内の道を慎重に進み、そして道中住民からの注目を多分に集めながら、どうにかニニマの姉の家へと到着した。


「ここですか?」

「はい」


 河義の問いかけに答えるニニマ。

 指揮通信車を道の端に停車させ、各員は降車。河義を始めとする数名が、住宅の玄関前に立ち、代表して河義が扉をノックした。


「……出てこないな。留守か?」

「あ、それじゃ駄目なんです」

「え?」


 疑問の声を上げた河義に、ニニマがそんな言葉を発する。


「危ないので、ちょっと下がってて下さい」

「え、何が?」


 ニニマの言葉に、今度は出蔵が疑問の声を発する。しかしニニマは構わずに玄関扉から少し距離を取ると、次の瞬間、勢いを付けて玄関扉に突進、体当たりをかました。


「よいしょ」


 ニニマの体当たりにより玄関扉は開かれ、ニニマは踏み入った先で体勢を立て直し、体を払っている。


「たぶんお姉ちゃん、この時間は眠ってますから、こうでもしないと入れないんです」


 そして各員に向けて平然とした様子で言って見せた。


「嬢ちゃん……大人し気に見えて凄い事するな……」


 ニニマが唐突に見せたアグレッシブな一面に、各員を代表して新好地が発した。


「ん~、どちらさま~?」


 その時、家の奥からそんな眠そうな声色が聞こえて来た。そして出て来たのは一人の女性だ。その井出達は、服装はよれよれ、髪はボサボサと酷い物だったが、顔立ちだけは若干くたびれた様子が見えながらも、ニニマとよく似た整った物であった。どうやらこの女性がニニマの姉であるらしい。


「あ……」

「んん~?あり、ニニマちゃん?なんで?もう村に帰り着いてる頃だと思ってたのに。何か忘れ物でもした?」


 ニニマは二日ほど前に一度、この家を発っていた。そのニニマがこの場にいる事に、ニニマの姉は眠そうなその顔に疑問の色を浮かべる。


「……ぅ……ぇ」

「んん?」


 しかしニニマは姉の疑問には答えず、小さな声をこぼし出す。


「フレーベルお姉ちゃぁぁん!」

「わぁッ!?」


 そしてニニマはフレーベルと呼ばれた姉に抱き着くと、大声で泣き出し始めた。


「おねえちゃ……ぅぇ……ひぐ……」

「ちょ、ちょ!え、どうしたの!?何があったの!?」


 一方の姉、フレーベルは当然の事態に、とりあえずニニマを抱き留めながらも、しどろもどろになっている。


「失礼します。フレーベル・ウルワレーシュさんでよろしいですか?」


 そんなフレーベルへ、河義が声を掛けた。


「ふぇ?そ、そうですけど……あの、どちら様……?」

「私たちは日本国陸隊の者です。あなたの元へニニマさんを送り届けるためと、ある案件の依頼のために、こちらを訪ねさせていただきました」

「ニホンコク、リクタイ?ニニマちゃんを送る……?それに依頼……?」


 河義は自分達の身分と目的を簡潔に説明してみせたが、無理もない事だがフレーベルはそれだけでは事態は把握しかねているようだ。


「まずはニニマさんが落ち着くのを待ちましょう。それから、くわしくご説明します」




 ニニマの状態はやがて落ち着き、河義等各員とハシア達は、家の中へと通された。現在はフレーベルと河義が机を挟んで対面で座っている。そして河義の口から、時折に制刻やハシアの補足が入りながら、これまでの一連の出来事についての説明が、フレーベルにされた。


「嘘でしょ……父さんと母さんが、それにイロニス姉が……?」


 その河義から一連の説明を受けたフレーベルは、両手で顔を覆い、深く息を吐いた。突然もたらされた両親の訃報と、故郷が失われた事実、そしてその原因が実の姉の所業であるという事実。これらの報を一度に受けたフレーベルのショックは、計り知れないものであった。


「フレーベルお姉ちゃん……」


 フレーベルの横に立つニニマは、心苦し気な面持ちで姉の姿を見つめている。


「すまない、僕達の力が及ばないばっかりに……」


 そしてハシアが苦々しい表情で、謝罪の言葉を述べる。


「とんでもない。こうしてニニマちゃんを連れ帰って来てくれたんだもの。勇者様には感謝しかないよ……」

「お礼なら、僕達じゃなく彼等に言ってくれ。彼等がいなければ、ニニマさんを助けるどころか、僕達も危なかった」


 ハシアは河義を始めとする隊員等に目を向け、フレーベルの視線もそれを追う。


「えっと、ニホン国?の軍隊さんだっけ?ありがとう、ニニマちゃんが帰って来てくれたのは、せめてもの救いだよ」

「とんでもありません。私達は自分達にできる事をしたに過ぎません」


 フレーベルの礼の言葉に、河義はそう答える。


「そして、私達こそあなたに頼まなければならない事があります――出蔵」

「はい!」


 河義は出蔵を呼び、出蔵は下げていた雑嚢から複数の小瓶を取り出して、机の上に置いた。


「これは、話に出て来た――」

「えぇ、お姉さんが作った、死者をゾンビ化させる薬です」


 フレーベルの予測を、河義は肯定する。


「町の役所からフレーベルさんの事を紹介されました。フレーベルさんにお願いしたいのは、この薬品の解析と対抗策の発見です。事情が事情ですから、色々と複雑なお気持ちかもしれませんが……」

「――ううん、任せてちょうだい、身内が撒いた種よ。それに……こんな物はこの世に存在してちゃいけない……!」


 フレーベルは何かを吹っ切るように立ち上がると、机に置かれた小瓶を掴み上げた。


「よし、そんじゃ早速始めるとしますか!」

「え、今すぐ始められるんですか……!」


 流石に今すぐ解析作業にかかるとは想定しておらず、河義は驚きの声を上げる。


「こんな代物だもの、少しでも早い方がいいでしょう?大丈夫、任しといて!」


 言うとフレーベルは、奥の部屋へと引き込んでいった。


「早いな……」

「一度、火が付くとああなんです」


 呆気に取られつつ呟いた新好地に、ニニマが言う。


「あるいは、親御さんや姉ちゃんのショックを吹っ切るためかもな」


 そして制刻が静かに、そして端的に言った。


「さて――私達にできる役割は果たしたと思う。私達は、本来の任務に戻ろう」

「そうそう、私達物資調達が目的で、この町を目指してたんでしたね」


 河義の言葉に、出蔵が思い出したように発する。


「まずは、指揮車に乗っけてるデカブツの換金だな。物資を調達するにしても、金がなきゃ始まらねぇ」

「けど、あんなモン、どこで買い取ってくれるんだ?」


 制刻の言葉に、矢万が疑問の声を上げる。その疑問にはハシアが答えた。


「剣鱗蛇丸ごと一匹分を換金となると、あちこち回る必要があるだろうね。鱗や牙は武器や、皮は被服店、肉や内臓は精肉店――いや、この町に狩猟ギルドがあるならば、まずはそこを訪ねた方がいいかな」

「その後に物資の調達作業がある事を考えると、一日作業になりそうだな……」


 ハシアの説明に、河義は顎に手を当てて言葉を零す。


「今日中にこの町を発つのは無理だな。野営の必要があるだろう」

「そんな事になくても、宿に泊まったらどうだい?剣鱗蛇を換金すれば、宿の代金くらいは余裕で確保できると思うよ」


 河義の言葉にハシアはそう発案するが、河義はそれを否定する。


「せっかくですが、私達は拠点の同胞達から物資調達の任を託されて行動しています。その間に入手できた金銭等を、私達偵察隊の都合だけで使う事はできません。入手できた金銭は、可能な限り物資補給のために当てたいのです」

「やはり町の外で野営しますか」


 河義の言葉に続いて、矢万がそんな言葉を発する。


「よければウチに泊ってけばー?」

「ひゃ!」


 その時、会話にそんな声が割って入る。見れば、ニニマの背後に奥に引き込んでいったはずのフレーベルが立っていた。


「ごめん、脅かした?ちょっと必要な機材があってさ。でさ、勇者様達もニホンの兵隊さん達もウチに泊ってったらどう?」

「しかし、よろしいんですか……?」

「妹の恩人を野宿させる程、恩知らずじゃないよー」


 河義の言葉に、フレーベルは返しながら一つの扉の前に立つ。


「大きな家じゃないけど、一人暮らしだとやっぱり持て余しててさー。二階とかほとんど物置状態だし。――えーと、確かこの部屋――」


 説明ながら、フレーベルは一室の扉を開ける。その次の瞬間、中から荷物の山が雪崩となって押し出てきて、フレーベルはそれに飲み込まれた。


「うぎゃぁっ」

「あ、お姉ちゃん!」


 フレーベルの悲鳴が上がり、ニニマが驚きの声を上げる。


「おぉいおい」


 制刻等は出来上がった荷物の山に駆け寄り、荷物をどかして中からフレーベルを救出してやる。


「だ、大丈夫ですか?」

「あはは……ごめんごめん。こんな風に、ほとんど使ってない部屋ばっかりだからさ、よければ好きに使って」


 出蔵が差し出した手を借りて立ち上がったフレーベルは、そう返すと、目的の機材を荷物の中から引っ張り出し、そして籠っていた一室に戻って行った。


「ありがたい話だが……ニニマさんとしてはどうですか?」


 河義はニニマに尋ねる。


「私も、皆さんに泊って行っていただければと思います。皆さんは、本当に恩人ですから――ただ……」


 ニニマは先程の荷物の雪崩を巻き起こした一室をちらりと見る。


「よし、ではお言葉に甘えよう。役割を二つに分けるぞ、一組は大蛇の換金に出る。もう一組は――部屋の片づけだ」

「やっぱし」


 河義の指示の言葉に、新好地がため息混じりに呟いた。

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