宰相戦⑥
作戦を提案したら、それはあっさり採用され、次のチャンスで全員で斬り込むことになった。
20を超える触手が一斉に襲いかかる。
その触手をナファリアさんが5本破壊し、俺は2本、他の前衛2人も同じく1本と合計9本の触手が破壊された。
すべての触手が再生するまでには時間がかかる、今のうちに本体を叩く。
20本ほど触手がまだ残っているが、それらをかいくぐり、もしくは破壊して本体へ駆ける。
攻撃用の触手は突出していて簡単に叩き潰せたが、防御用の触手は数本が連携して妨害してくるため、触手を叩き壊せる威力で攻撃しても複数本の触手で重なって迎撃してくるため完全に破壊できない。
せいぜい触手をはじくことができる程度だ。
ネアスまでの距離が残り15メートルで一人足を止めた。
攻撃を捌ききれなくなったようだ。
ネアスまでの距離が残り10メートルでまた一人足を止めた。
触手が視覚外から来て避けれず刺さり動きが止まった。
ネアスまでの距離が残り5メートルでネアスの攻撃が一気に激しくなり、触手の攻撃は剣で防いだが勢いを殺すことができず1メートルほど下がってしまった。
残ったのはナファリアさんだけだ、ナファリアさんは触手の攻撃が激しくなる寸前で一気にスピードを上げた。
結果ナファリアさんのスピードに対応できず触手はすべて空を切った。
すでに距離は1メートル!もうそこはナファリアさんの間合いだ。
ナファリアさんが刀を振りおろす、前にネアスの服を貫通して10本ほどの触手が一気に飛び出た。
この至近距離、さらに攻撃行動の最中のナファリアさんは避けれず弾き飛ばされた。
「ナファリアさん!」
「フム、逃げられましたか」
ネアスの言葉を聞き少し考える。
逃げられたと言うことはネアスが飛ばしたわけではない、ということはナファリアさんが自分から後ろに跳んだのか、ダメージを抑えるために。
予想は当たりナファリアさんはすぐに立ち上がり前線に戻って来た。
「今ので死んだと思ったんですけどね」
「まだ~こいつ本気出してないよ~」
「おやバレましたか。まあどのみち奇襲は失敗しましたし本気を出すつもりだったのですが」
ネアスの触手が速くなった、体感的に先程より1.2倍ぐらい速い。
ナファリアさんの警告が無かったら攻撃をくらっていたかもしれない。
さらに攻撃が激しくなった、攻撃に使われる触手の数が10本増え、しかも技量は一切落ちてない、むしろ少し上がっている。
まさかあれで本気じゃなかったのか!
さっきまでの戦いとは雲泥の差だ、接近戦が苦手なふりをしていたのか。
こいつ見かけ以上に狡猾だな。
前線は崩れかけている、ただでさえ強かった敵が本気を出したのだ。
攻撃する余裕は無く前衛は回避と防御しかできない。
ナファリアさんですら一歩も前に進めなかった。
後衛は回復魔法と防御系の魔法を使ってくれるが効果が薄い。
ドカーン
背後からものすごい音が聞こえた。
この音は!もしかしてドガルニさんか!背後を見ることは出来ないが万能感知が後方の敵が一気に減ったのを教えてくれた。
おそらくドガルニさんが得意の火炎爆弾で敵兵を一掃したんだろう。
今までこの城が頑丈でさらに戦闘音や血の臭い、スキルなどの通信など城内の情報が城外に伝えられない状態だった。
だがこの大爆発で城外にいる味方は俺たちが今戦っていることが伝わったはずだ。
城外からの援軍が来たら確実に撤退できるし、もしかしたらネアスを倒すことができるかもしれない。
シュパンッ
前衛の一人に触手が突き刺さり胸を貫通した。
見えなかった、あまりにも速すぎて、ネアスが手を前衛に向けて動いたと思ったらすでに刺さっていた。
あれは見てからの回避じゃ間に合わない、手を向けたらすぐに射線上から離れないと死ぬ。
前衛が一人減ったことで前線が崩壊した。
ネアスの攻撃を抑えきれず、後衛のすぐそばまで撤退しようやく伸びてくる触手をはじくことができた。
この距離まで離れてしまえばネアスにとって俺たちは脅威ではない、触手じゃなくて得意な魔法で対応できるから。
そうして前衛の圧力が無くなりネアスが動き出した。
一歩ずつ確実に俺たちに近づく、それにともない俺たちも後退する。
しかし後退できる距離は限りある。
今戦っている廊下は一本道で、先程反対側で火炎爆弾を使い一掃していたがまた奥から敵の援軍が来て味方が足止めされている。
片方はゆっくり接近しもう片方は突破できないでいる。
このままだと俺たちは押され続け最終的にネアスにやられるか、スライムの軍勢に押しつぶされるかの二択だ。




